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【レポート第2回】インサイト産業を展望する ~マーケティング・リサーチ2021

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宮寺 一樹(ウェブ・メルマガ分科会委員長)

今年も昨年に引き続き、オンライン開催となったJMRAカンファレンス。
今回が2回めのレビュー記事となります。

今回はJMRAリサーチ・イノベーション委員会の「新時代の調査への提言」をご紹介します。

リサーチ・イノベーション委員会は、会員社及びクライアントサイドの事業会社から公募した各委員で構成されており、ビッグデータやAIなど先端技術の潮流や動向の捉え方、マーケティング・リサーチ事業への活用方法、人材育成等を討議しているそうです。

今回はクライアントサイドからの問題提起として、日産自動車株式会社コーポレート市場情報統括本部の高橋氏からの発表を取り上げます。

タイトルは「クライアントの観点からの問題提起」。高橋氏は日産自動車において市場調査を一括して行っている部署に所属し、世界各国でも同様に調査分析を行っているとのことです。
高橋氏が所属しているコーポレート市場情報統括本部はそれらのデータや情報を収集し、グローバル本社のビジネスプロセスに組み入れたり、提言していく部門とのことで、さらにその手法をグローバル向けに開発したり統括したりしているそうです。

クライアントの観点からの問題提起として、まずは今のインサイト業界の課題を明確にするためにSWOT分析を行っています。
外部要因での脅威「Threat」でいうと、「消費者理解のためのデータとしてのリサーチの価値は相対的に低下している」とのことです。今回の発表では、この「相対的に価値が低下している」という部分を中心に進め問題提起していきます。
次に機会「Opportunity」を見ていきます。「リサーチのデータとしての価値を相対的に低下せしめているリサーチ以外のデータを取り扱うセクターの人」は消費者理解の専門家ではありません。
それらのセクターの人が分析する消費者インサイト分析の結果は、リサーチからインサイトをみている我々からすると深みやクオリティが足りない様に見え、現時点ではリサーチ以外のデータよりリサーチ起点のほうがアドバンテージがあるそうです。
弱み「Weakness」を見ると、逆にインサイト業界の人は「リサーチ以外のデータからインサイトを抽出する」スキルや経験が不足しているようです。これはインサイト業界の人はリサーチ以外のデータへのアクセスが困難なことを示しています。
ただ、強み「Strength」に記載されているように、消費者を理解する能力と経験、クライアント課題を理解する能力と経験は非常に優れています。
クライアントはインサイト業界のこの強みの部分に大きな信頼を置いているとのことです。

高橋氏はここからクロスSWOT分析で、今後のインサイト業界の戦略を考えていきます。

脅威「Threat」と弱み「Weakness」でみると、リサーチにこだわり続け、業界の提供価値が低下するという我々にとって良くないシナリオが考えられます。
機会「Opportunity」と弱み「Weakness」でみると、リサーチ以外のデータを取り扱っているセクターが消費者理解能力を身につけ、リサーチ業界のビジネス機会を奪うということも考えられます。
現にリサーチデータ以外を扱うセクターがインサイト業界から人を採用したりなど、課題を解決する動きも見られるそうです。
これに対して、インサイト業界はどうすればいいのか、強み「Strength」から見ていきますが、やはり「消費者理解の能力・経験」「クライアント課題理解能力・経験」をてこにして、リサーチ以外のデータからインサイトを抽出するスキルを身につけ、それらのデータ所有者とコラボしてインサイトを提供する、または、リサーチの枠を超えてクライアントの課題解決をサポートする。それによりインサイト業界が提供する価値が広がっていくのではないか、と高橋氏は述べています。

なぜこのような課題を提示したのか、実はクライアントのリサーチ関連部門は現在大きなチャレンジに直面しているからだそうです。

まずは使えるデータの多様化。MRデータの他、コミュニティ、ソーシャルメディア、検索ワード、ウェブログ、ニューロ的手法など。
MRデータが抱える課題は、回答者数の減少、アンケート途中脱落者の増加などエンゲージメント低下傾向です。それ以外の多様化したデータだと、インサイトを深堀りする手法や技術に課題があります。
例えばソーシャルメディアだとテキストマイニングを行い、単語と単語の関係性や言葉のクラスタリング・構文解析などができますが、インサイトの探索にはまだまだクオリティが足りないていないそうです。
ただ、今後はその他のデータ含め、インサイトを抽出していかなければなりません。

次に社内他部門との関係におけるチャレンジ。
より高度なビジネス課題に対する提案、より広い社内部署に対してインサイトの提供、未経験のビジネスプロセスに対してインサイトの組み込み、オペレーション最適化に偏りがちな他部門をより戦略志向に導く、などがリサーチ部門に求められているそうです。

これらを踏まえてリサーチ部門のチャレンジをまとめると、様々なデータを活用した包括的消費者理解とインサイトの導出、消費者理解フレームの再構築、使えるデータ・手法の評価・トライアル・適用、データ入手、データオーナー(社内外)との関係構築など、乗り越えなければならない様々なハードルがあります。
これに対してサポートがほしいと、皆が思っているはずです。ここに単純にリサーチ結果を伝える以外のインサイト業界のビジネス機会があるのでは、というのが高橋氏の意見です。

では具体的にどうすればいいのでしょうか?
ここで高橋氏は、海外の先進事例などを踏まえた提言をしてくれています。

様々なデータを利用するのはリサーチ部門だけでなく、他の事業部門も利用します。事業部門は年度の目標数字を持っているため、どうしても短期的、かつ戦術的に、現在の事業フレームに落とし込んで、課題解決のためにデータを使います。
それだと会社全体が短期志向、戦術志向になってしまいます。誰かが長期的な戦略的思考でデータを活用する、そういったことを行うのがリサーチ部門だそうです。
リサーチ部門は事業部門とは異なる視点でデータを活用していくことが求められていますが、両者がコラボして商品のコンセプト開発、ビジネスモデルの創出など、新たな価値創造を行っていくことが重要となります。

これらの業務すべてを社内で行うことは困難なため、社外パートナーからのサポートが必要になります。ここで高橋氏が上げたのは3つ、「多様なデータによる消費者理解、インサイト導出」「コンセプト創出やビジネスモデル構築、ネットワーキング」「最適化、プロセス化、DIY化」です。高橋氏曰く、これまでインサイト業界は「多様なデータによる消費者理解、インサイト導出」を担当していましたが、「コンセプト創出やビジネスモデル構築、ネットワーキング」の領域にかかるまでビジネス機会はあるのではとのことです。「最適化、プロセス化、DIY化」についてはテクノロジー企業、IT企業などが得意としているところで、これがないと効率が悪くなるため、今注目を浴びている部分になります。ただこれだけを行って競合に勝てるかといえばそうではなく、リサーチ部門そしてパートナーのインサイト業界が行うべき、「多様なデータによる消費者理解、インサイト導出」「コンセプト創出やビジネスモデル構築、ネットワーキング」が重要になってきます。

インサイト業界が担うべき領域は広く、多様なデータを使うとこができるようにならないとならない、というのが高橋氏からインサイト業界への提言ということになります。

筆者が所属しているインサイト会社でも様々なデータを活用してクライアントに寄り添った形で提案をしていく、という手法が昨年来増えてきています。今後こういった需要に対応できる仕組みを業界としても具体的に考える必要が出てきたのではないでしょうか。

2021.7.15掲載

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