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たいとる

Withコロナ時代に向けたリサーチ業界の準備 第25回

さぶtがいとる

多様性・公平性・包括性 Diversity, Equity &Inclusion DEIグローバル調査結果に見る日本市場の特徴と課題
JMRAミニカンファレンス 講演内容

本文

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


4月27日のJMRAオンライン・ミニ・カンファレンスでの講演内容を紹介します。前2回(第23回、第24回)でご紹介したDEI調査を日本の課題について再編集したものです。

■なぜ職場に多様性・公平性・包括性が必要なのか

職場環境には、DEIが非常に大事だと言われている。DEIは、今、欧米を中心にクライアント企業に最重視されるマーケティング課題の1つとなっている。なぜ、DEIがこれほど重視されているのだろうか。

・D Diversity 「多様性」

新しい価値は、異なるものとの摩擦から生まれる。多様性のない組織からは新しい知が生まれにくいのである。そのためには、自分と違う異質な存在と触れ合い、学ぶことが非常に重要である。
多様性があることは、ものごとを多面的にとらえることであり、アイデアにより磨きをかけ、イノベーションにつながると考えられている。労働力に多様性のある企業は、財務的にリターンも大きいという研究結果の報告もある。(McKinsey & Company Diversity wins, 2020)
また、企業の不祥事や炎上事件は、さまざまな視点が備わっていることが防止につながる。このように多様な視点をもたないと競争力が劣り、成長力を失うことになると考えられている。

・E Equality(平等性)とEquity(公平性)

Equality(平等性)は、全員に等しく同じものを与えようとすることだが、実際は各個人の状況や条件は異なっている。Equity(公平性)は、Equality(平等性)だけでは解決が難しい社会構造的な不平等を、一人一人のバックグラウンドやニーズに合わせて、サポートする考え方である。

・I Inclusion(包括性)

異なるものが、ただそこにいるだけでは不十分だ。平等に、公平に扱われ、違いや個性を受け入れて活かすことで相乗効果を生むことができる。
怖れや不安を感じることなく、本音で話し行動できる状態を心理的安全性がある状態というが、その状態こそが、創造性を発揮する組織を作る。
よりよい活性化した組織を作るために、DEIは必須なものである。

■DEI調査とは

今回のDEI調査は、リサーチ業界に向けて「職場におけるDEIの重要性をより深く理解」していただくことを目的に、世界10カ国(日本、欧州3カ国、北米2ヵ国、オーストラリア、南米3カ国)で、MR業界の問題を一般の勤労者と比較した。

<調査設計>
 調査主体: GRBN
 調査企画・実施・集計・分析: InnovateMR社

  • サンプル設計・抽出・依頼には10カ国の市場調査協会とパートナー企業が協力
  • 調査票は2020年の英国版がベース、日本からは2つの質問を追加依頼
  • 集計・分析完了後、各国協会は全体+自国のデータをExcelで受け取り、独自に追加分析実施
 サンプル設計:
  • 一般勤労者は、各国の母集団に比例させた割付を要請(各国1,000s以上の回収目標)
    (日本では総務省の「労働力調査(2020年)」に基づいて性・年齢別に割付実施)
  • リサーチャーは、日本ではJMRA正会員各社にランダム抽出を依頼
    ※)今回は日本からは各国のサンプル特性を検証できないことから、データの補正は行なわず、単純集計データを用いた。調査対象国の平均は、参考値として比較する。

昇進や報酬の機会の平等性
  • 出身国、民族・人種、宗教、性的指向・性の自認、障がいの状況、年齢、性別などの観点で、平等だと思うかを質問。 (グラフは、5段階評価で「公平ではない」(bottom2)を表す。)
  • 過去1年間にDEIの懸念から、組織・役職を離れることを検討したことがあるか
  • 出身国、民族・人種、宗教、性的指向・性の自認、障がいの状態、年齢、家族の状況・扶養責任、性別などいずれも、日本は「公平ではない」とする比率が非常に低い。
    (その他にも、直接的な差別経験率、差別の目撃経験率においても、同様に、日本は他の調査対象国より低い結果となっている。)

しかし、DEIの懸念のために、職場や役職を辞めることを検討したレベルはほぼ同じであり、「不公平がある」と表現してはいないながら、他の調査対象国と同じくらい、DEIに関する問題を抱えた人がいる可能性がある。

会社の構成員の多様性

従業員の構成に性別の多様性がある
従業員の構成に文化的多様性がある
組織の経営陣には多様性がある
DEIの推進に向けた組織の取り組みへの評価

経営陣は、障がいのある従業員のニーズに応える取り組みを実際に行っている
DEIの推進にむけ、正式なプログラムを用意・努力している。
DEIの促進に向けた会社の努力は、効果的で成功している
組織の平等性や支援に対する評価

どの従業員にも平等に機会が与えられている
昇進の決定は公正に行われている
学習し昇進する機会と支援が与えられている
フレキシブルに働く機会とリソースが与えられている

組織の構成員の多様性、組織のDEIへの取り組みについても、日本は調査対象国(地域)の中で、最も低いスコアである。日本では、まだDEIという概念も、その推進の必要性も広まっていない中で、仕方がないかもしれない。その点を踏まえ、組織としてDEI推進の努力を示してゆく必要があるだろう。組織の中でのDEIの問題があるとき、組織としてそれをなくしていくという毅然とした姿勢や、その方向に向かう意志を示すかどうかは、大きな違いを生み出す。
組織の中でD E Iを大切にすることが、一人一人が創造性を発揮できる組織づくりにつながる。
日本は、学習し昇進する機会、フレキシブルに働けるといった、働きやすさのための組織の対応への評価も低い。こういった要素は、検討し改善の余地のある要素である。

職場での包括性

自分は、所属部門にとって評価され不可欠な存在である
自分は、会社にとって評価され不可欠な存在である
自分の独自性(特性、性格、スキル、経験、背景)は、会社で評価されている
どの従業員も、帰属意識を感じている

職場環境がインクルーシブであるかについての日本の結果は、いずれも他の調査対象国と比べ、非常に低い比率である。自己肯定感が低く、組織に疎外感をもっている人が多い可能性がある。組織内でのチームビルディングについて、見直すことが必要だろう。

具体的な取り組みへの評価
育児休業
女性の地位の向上
心身の不調
問題を提起しにくい空気

育児休業の取得率(子供のいる人全体)

子供のいる人全体に占める育児休業取得率は、日本は調査対象国中の最低で、各国平均の半分以下のレベルである。この質問では、「育児休業(Parental leave)」の内容について詳しく定義していないが、休業期間の長短やその内容を問わず、「育児のために休む」ことが、男性にとっても当たり前のことだと考えられるかどうかが大きな数字の違いとなっているのではないだろうか。

まとめ

日本の結果は、さまざまな点で「公平ではない」とする比率が低い。差別体験率、差別の目撃経験率も同様に、ほとんどの質問で最も低い結果だった。一見、不公平が少なくよいことのようであるが、DEIの問題をかかえている人が声をあげにくい、差別に気づきにくい社会である可能性もある。
DEIに関して、日本は以下の点は特に問題だと考えられる。

  • 「自分が、会社や所属部署にとって評価され、不可欠な存在だとは思えない」という自分の価値に自信がもてない人の比率が高い。
  • 組織に対する帰属意識が低い。
  • 平等な機会、公正な昇進といった組織のDEIに対する取り組みへの評価が低い

私たちには何ができるのだろうか。
なぜ組織が活性化できないかという問題の根深いところには、DEIの問題がある。
誰もが、自由闊達に言いたいことが言える組織でなければ、創造性もイノベーションも起こらず、成長する組織にはなれない。
マイノリティ、DEIの問題でつらい立場にある人たちは、声をあげにくいものだ。
マイノリティを理解し、支援することを英語でALLY(アライ)という。
多数派や、権力や特権をもっている側が変わらなければ、問題は解決しないことが多いのだ。
自分は差別しているつもりはないから…で思考停止せず、私たちに何ができるのかを一緒に考えていきましょう。

2022.5.16掲載