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たいとる

Withコロナ時代に向けたリサーチ業界の準備 第16回

さぶたいとる

AI・オートメーションのインサイト・リサーチ業界へのインパクト

ほんぶん

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


今回は、リサーチ・インサイト業界の人に向けて情報発信しているサイトNewMR(レイ・ポインターさんの運営)で、2021年6月「AI・オートメーションのインサイト・リサーチ業界へのインパクト」というタイトルで発表されたESOMARのプレジデント クリスティン・ラック(Kristin Luck)さんのインタビューから内容を一部抜粋し、情報を補足してご紹介しまます。
音声はこちら: https://youtu.be/D5LzYExTVXQ https://newmr.org/play-again/ai-automation/ 

リサーチ・インサイト業界の動向
ESOMARによる2020年の世界のリサーチ・インサイト業界の業績は、コロナ禍による大きなダメージのためマイナス22%との予測でしたが、デジタル・テクノロジー分野でプラス9%と大きな成長が見られたため、業界全体の落ち込みはかなり小さくなりました。
コロナ禍は、産業革命とも言えるダイナミックなデジタルシフトを加速させ、デジタル・テクノロジーに特化したセグメントと既存の伝統的な調査会社との間にますます大きな格差が起こっています。

業界への投資の状況
ベンチャーキャピタルなどの投資企業が、2014年のビッグデータの急増以来これまで見られなかったほどの勢いでテクノロジーの変革やM&A関連で業界に投資しています。
例えば、2019年1月にSAPにより買収(80億ドル約8430億円)されたクアルトリクスQualtricsは、IPO(新規株式公開)を通じてスピンオフし、その時価総額は200億ドルを突破したと言われます。
関連記事: https://forbesjapan.com/articles/detail/39554/2/1/1
データ収集やテクノロジープラットフォーム関係だけでなく、市場調査関連企業による分析、特に顧客分析関係も投資を集めています。今、この業界のどの分野に投資が向かっているのかに注目すべきでしょう。

クライアントの状況
クライアントは、調査データだけでなく、さまざまな種類のデータが利用可能になり、より広範囲のデータを理解することが必要になっています。
あるカンファレンスで発表されたリサーチャーの体験の話です。
あるクライアントのCMOから、「最新の調査結果は受け取ったよ。それでPOSデータはどうなの。セールスフォースのデータはどこなの。」と聞かれ、「そのようなデータは扱っていません。」と答えました。そして、消費者の感情や購買習慣をより包括的に理解するために、他のデータをどうやって使いこなすかを考えなければ、1年後には仕事を失ってしまうと思ったという話がありました。データ全体を俯瞰して、より大きな絵で分析することが必要になっているといえます。
現在このリサーチャーは、他の企業と協力して、A.I.を活用した測定基準を確立しています。さまざまなツールやテクニックを駆使しており、生涯学習の良い例だといえます。キャリアの最盛期にある人が、自分のクライアントに何が起こっているのかをより広く把握するために、さまざまな新しいツールやテクニックの使い方を学ばなければならないのです。

従来型の市場調査会社の場合
フルサービス企業としての価値は「デザインと分析」だと認識することです。
リサーチのデザインと、それを実現するために必要なデータセットを駆使して、可能な限り最高の結果を生み出すことにあります。必ずしもデータ収集や独自の技術を生み出すことが強みでありません。
フルサービスのリサーチ会社は、苦手なタイプのデータを扱うことに不安を感じたり、そのデータにアクセスする方法がわからなかったりして、少し遅れをとっているのではないかと思います。
また、単なるリサーチの専門家ではなく、自分の得意分野を見つけ出し、その強みを生かしていくことには大きな力があると思います。特に中小規模の企業にとっては、自分たちが何をしているのか、自分たちの特別なリソースは何なのか、他の誰とも違う特別なことは何なのかを、本当に理解する必要があるのです。そして、万能であろうとするのではなく、それに基づいて自分たちを差別化するのです。
伝統的なフルサービス・ファームとして有機的な成長を遂げたいのであれば、自分たちの特徴は何か、他とは違うものは何かを考える必要があります。また、テクノロジーの観点から他の企業と提携したり、コラボレーションしたりして、最先端を行く方法を考えなければなりません。

若手リサーチャーへのアドバイス
焦点を当てるべきは、アナリティクスです。それこそがリサーチャーの力だからです。そして、分析能力こそが、私たちを特別な存在にしているのです。ただ、プライマリーリサーチのデータを分析するだけではありません。つまり、市場調査でやりがちなプロジェクトごとの調査ではなく、ビジネスをより総合的に見ようとするビジネスインテリジェンスのアプローチに近づくことです。
2~3年前にESOMARで、「なぜ大手コンサルティングファームが市場調査のランチを食べているのか」という素晴らしいプレゼンテーションがありました。
我々は、ビジネスで起こっていることを戦略的に見ない傾向があるというものでした。だから、ビジネスファイナンスを理解して、ビジネスの成長を促すものを理解することが大切だと思います。
2年前のESOMAR年次大会の「Think like a CFO or act like a CMO」「CFOのように考え、CMOのように行動せよ」という基調講演がありました。
若いリサーチャーが身につけるべき最も価値のあるスキルセットは、優れた分析スキルとビジネス・ファイナンス・スキルだと思います。

業界が解決すべき悩み(ペインポイント)
私は、従来のプライマリー・マーケット・リサーチに価値がないと言っているのではありません。ただ、それだけでは、多くの消費者のインサイトを見逃しているのです。
最も大きな問題は、プライマリーリサーチ以外のリサーチを快適に行えるようになることだと思っています。この業界に入ってくる人には、よりデータサイエンスに長けた人たち、データをサービスとして提供する会社やビジネスインテリジェンスから来ている人たちもいるでしょう。
私たちがESOMARで掲げている重要な目標の1つは、どうすればもっとインクルーシブ(包括的)になるかということです。つまり、データサイエンティストやデータサービス企業の人々を、スキルセットの観点だけでなく、データの観点からも惹きつけることができるかどうかということです。
データの使用には2つの側面があり、その1つは、素晴らしい情報を得ているということ。もう一つは、私たちは倫理的な方法で情報を収集しているのか、そしてその情報に対して正しく対価を支払っているのかという疑問です。また、マーケティングとマーケティング・リサーチの間には微妙な違いがあることを私たちは知っており、それを認識する必要があります。

コンサルティングについて
多くのリサーチャーにとって、コンサルティングは難しいことだと思います。なぜなら、私たちは長年にわたり、注文を受ける側として機能し、プロジェクトごとに仕事をしてきました。これにはビジネスの経験が必要です。
ビジネスの経験とは、リサーチがビジネス全体の健全性や成長にどのように関係しているかを理解することです。これはもっと深い話です。残念ながら、プロジェクトを運営したり、日々クライアントと接したりしている人たちは、そのような戦略的な会話をしていないことが多いと思います。このことは、時間が限られている私たちの業界にとっては課題だと思います。

ヤングESOMAR会員(Young ESOMAR Society #YESOMAR)
ESOMARでは、現在、35才未満の好奇心と情熱を持ち、仕事の経験を積み、自分のスキルとグローバルなネットワークを広げたいと考えている若いリサーチャーを対象としたキャリアアップのためのプラットフォームを提供しています。世界の他の地域のリサーチャーから学べることは非常に多いと思います。
ヤングメンバーは、割引価格となっています。
興味のある方はこちらへ: https://www.esomar.org/community/join-esomar

最後に
いかがでしたでしょうか。
今回はインタビューの音声から内容を抜粋し、情報を補足してご紹介しています。
ご興味がありましたら、元の音声を聞いてみてください。
大きな変化の時代、みなさまの参考になれば幸いです。

2021.7.15掲載