1975昭和50年
「日本マーケティング・リサーチ綱領」配布
「日本マーケティング・リサーチ綱領」(以下、「綱領」と略す)は、ICC(国際商業会議所)の綱領を範に1975(昭和50)年に制定された。これは「今日マーケティング・リサーチ(市場調査)は国際的連帯を持つ活動であり、その綱領も当然国際性を備えたものでなくてはならない」という綱領序文の考えに基づく。1973(昭和48)年の倫理綱領委員会の発足から作成が始まり、ICCの綱領をそのまま採択する案も出たが、日本の現状に即した行動規範にすべきという意見が多く、5カ月を要して最終案が作成された。その後、外部の有識者らによる訂正を経て完成に至る。日本マーケティング・リサーチ協会(以下、「JMRA〈Japan Marketing Research Association〉」と略す)の発足は1975(昭和50)年2月で、会員社はこのとき綱領採択を義務付けられた。 また同年11月には調査発注者、学識者、官庁、関連団体、広告代理店、媒体社などに約3,000部を配布するなど綱領普及運動を展開している。
[綱領定着に向けたJMRA内の動き]
1978(昭和53)年実施の「『日本マーケティング・リサーチ綱領』に関する会員社調査」によれば、有効回収数34社のうち29社が社員に配布していたが、社内説明会を開いたのは半数の17社で「綱領の趣旨・内容は社員全員に理解が行きわたっているか」という質問に「全員に行きわたっている」と回答したのは10社にとどまり、社員の綱領への理解はこの時点では不十分であった。
なお1976(昭和51)年の定例懇親会で 、“綱領は法かバイブルか”という話題が出て以降、『JMRA会報』やJMRA機関誌『マーケティング・リサーチャー』でもこの話題が誌上をにぎわせた。これについては記念誌『日本マーケティング・リサーチ協会創立五周年を迎えて』内で、当時の倫理綱領委員会委員の松井睦氏が「基本原則および各条文の底を流れるものは倫理観であり、存在そのものはバイブル的であろう。しかしその運用に厳しい規制力がなければ何の存在価値もない」と述べ、「法的性格を持とうとバイブル的性格を持とうと我々の原点であることに変わりはない」と結んでいる。
ここで書かれている通り、綱領には二つの側面がある。一つはマーケティング・リサーチ業務に携わる者のよりどころであり、もう一つは必ず順守すべき規範である。JMRA会員になる際は、本綱領の他、協会が定めた各種ガイドラインの順守を含む誓約書に署名、押印の上での提出を求めている。そして、これに違反したことが発覚すれば、懲罰委員会を経て総会で除名処分が科される。
なお本綱領は、1986(昭和61)年に「マーケティング・リサーチ綱領」に改題され、1996(平成8)年、2010(平成22)年、2017(平成29)年に、それぞれ時代の変化に応じて改訂されている。さらに現在、マーケティング・リサーチが置かれた時代の変化に応え、必要以上に厳格に縛らない方向での改訂を視野に入れている。