1979昭和54年
「調査員の実態調査」実施
2004(平成16)年『調査員マニュアル』発行
「フィールドワークが正しく確実に実施されない限り、どんな素晴らしい分析結果が得られたとしても、それは何の役にも立たない」。これは「調査員の実態調査」が行われた1979(昭和54)年発行のJMRA機関誌『マーケティング・リサーチャー』(No.14)に書かれた会員社のディレクターによる所感である。当時のマーケティング・リサーチは、調査対象者の自宅を訪問して面接するか、調査票を留め置いて後日回収する「訪問調査」が主流であった。ところが、スケジュールが切迫するなかで管理が追いつかず、フィールドが調査員任せになっていた実情があった。1978(昭和53)年発行の同機関誌(No.10)では、発注する側のメーカー調査責任者から「調査はフィールドに始まりフィールドに終わるとよく言われながら、日本ではフィールドワークが軽視されている」と指摘されている。
このような状況下で「調査員の実態調査」は、訪問調査の主体である“調査員”の当時の業界内での事情を客観的に把握しようと試みたものと思われるが、残念ながら現在、JMRA内にその調査資料はない。そこで、当時の“調査員の実態”を前述の機関誌に書かれた現場の声を通して以下に紹介する。
1978(昭和53)年の同機関誌(No.9)では、国勢調査の数字から1975(昭和50)年の大阪府の30代女性の就業率36%を例に「世帯における在宅率の著しい低下」が有効回収率を悪化させ調査員のモチベーション低下を招いていると説いた。その後、この世代の就業率が急激な伸びをみせるなか、昼間不在で夜に行くと「訪問時に調査対象者にからまれた」という事態も起きており、「訪問したが玄関も開けてくれない」、「民間の調査に協力する必要はないと言われた」などの対応を受けながら調査は行われていた。「以前は“魅力ある仕事”のなかに入っていた市場調査員も、今は他にないからやってみようかという有様」という会員社・社長の言葉が当時の調査員の実態を象徴している。
[調査員の品質向上を目指したマニュアルの発行]
こうした調査員の厳しい状況の一方で、「調査対象者の自発的な自由意志による協力に基盤を置いている」マーケティング・リサーチにとって「調査対象者に不利益をもたらすことがあってはならない」という決意のもとに発行されたのが2004(平成16)年の『調査員マニュアル』である。
調査の目的を理解しない調査員もいる実情を踏まえ、マーケティング・リサーチの目的に始まり、「マーケティング・リサーチ綱領」「プライバシーマーク制度」などの重要語までJMRAによる簡潔な解説を記述。調査の流れや種類、調査票などの基本事項はもちろん、Q&A方式を用いながらあいさつや説明の仕方まできめ細かく説明されている。CLT(決められた会場に参加者を集めて実施する調査)や電話調査にまで具体的な注意が貫かれている点に、会員社の調査員管理の負担を軽減する狙いが伝わる。
なお「調査員実態調査」は2011(平成23)年にも実施されており、当時の調査員は50歳以上の女性が大半を占め、過去1年間に受託した調査手法で「訪問面接」「訪問留め置き」が共に7割以上で突出していた状況が分かる。最後に調査員を続ける理由を聞いているが、1位の「勤務時間の自由さ」に続く調査後の達成感やいろいろな人や地域との出会い、知識の習得・社会貢献などからは、マーケティング・リサーチ自体の魅力の大きさが伝わる。