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さぶたいとる

国際潮流シリーズ第6弾:APRC ニュージーランド大会参加報告

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岸田 典子


2024年3月18~19日、ニュージーランドのオークランドでAPRCとニュージーランドリサーチ協会(RANZ)共催のカンファレンス、および各国のAPRC代表メンバーによるサミット会議が行われました。APRCはアジア太平洋地区のリサーチ協会の団体で、日本、中国、台湾、韓国、モンゴル、マレーシア、タイ、オーストラリア、ニュージーランドの9ヵ国が加盟し、年に1度、加盟国のリサーチ協会のカンファレンスがAPRCとの共催で行われます。

 人口520万人のニュージーランド、その最大の都市オークランドの人口は157万人。美しい空と海が印象的な美しい街で、ゆったりした雰囲気を感じます。
 AIの性能が向上し、利用が拡大する中で、私たち人間の仕事はどうなってゆくのか、AIに対するさまざまな角度からの検証や取組みが発表され、内容の濃いカンファレンスでした。 今回は開催時期が3月で日本の繁忙期と重なったため、日本からの参加者は残念ながら私一人でしたが、どのような内容だったかをご紹介します。

Where are all the humans? AI時代、人間たちはどこにいる?

今、生成系AIは、インサイト・リサーチ業界にも大きなインパクトをもたらしています。会場での「最近1ヵ月間に仕事で生成系AIを使った人は?」という質問には、大多数が手をあげていました。 AIの性能が向上し、利用が拡大する中で、私たち人間の仕事はどうなってゆくのか。AIに関する倫理的な側面からの議論をはじめ、AIに対するさまざまな角度からの検証や取組みが発表された内容の濃いカンファレンスでした。

ベストペーパー賞を受賞し参加者投票でも第1位となったのは、KantarのJohnathan PickupさんとYasmin Handrichさんの発表で、社内で同じプロジェクトをAIチームと人間チームとで競わせ、どのような結果の違いがあったかを検証したものです。Conjoint.lyのNik Samoylovさんからは、プロンプトの違いによるアウトプットの差や効果の検証結果が示され、IPSOSのJonathan Doddさんは、オンライン調査の回答者に現れるAIを使った回答の特徴を検証し、AIと人間のふるまいの違いを理解する必要性を訴えました。

中国からは、Quick Decision社のPerry Li氏による、AIを使った新しいオンライン調査システムのプラットフォームの発表がありました。パネルからではなく、Webサイトの特性を基に広告からリクルートし、また実施、回収、集計、結果サマリーの各工程にAIが取り入れられ、リアルタイムでAIが分析コメントを書くというものでした。多額の投資が必要な開発のため、調査会社が資金を出し合い、みんなでシステムを利用するというスキームで開発したとのことでした。中国からは10名程度の方がカンファレンスに来ていて、今後の自国商品のマーケティングに向けて海外の調査会社との連携に積極的でした。

ChatGPTが提供するプラグインとしてマーケティングリサーチに特化した機能、Yabbleを提供しているYabble社のCEO KathrynToppさんの発表もありました。リサーチ業界における生成AIやシンセティックデータ(合成データ)分野の第一人者です。知りたいことやトピックを記入するだけで、自動的に質問を作成し、拡張データとバーチャル対象者から回答をするツールが紹介されました。
(参考: https://chtgpt.ai/chatgpt-yabble-plugin/)
KathrynToppさんのプレゼンは、自分の着ているTシャツに書かれた「お行儀のよい女性が歴史をつくることはほぼない」“Well-behaved women seldom make history”という言葉の紹介から始まり、彼女の仕事にかける強い意気込みを感じました。半年前にはまるで形になっていなかったものが、あっという間に実用レベルに近づく生成AIの開発スピードの速さが強く印象に残りました。

今回は、司会、タイムキーパー、パネルディスカッションの進行すべてをRANZ会長のGeoff Loweさん自身が行い、とてもフレンドリーで活気に満ちたな雰囲気のカンファレンスでした。

多様性とエコロジー重視のカンファレンス

カンファレンスは、マオリ族の方のマオリ語での挨拶と詠唱で始まりました。それが、ニュージーランドでは国際会議でのプロトコルなのだそうです。また脱植民地化(Decolonization)と土着化(Indigenization)を掲げ、ネイティブの文化や人々の声をすくい上げることの大切さに触れる発表もありました。
オークランドではお互いに顔見知りが多いためかもしれませんが、名刺交換する姿をほぼ見かけませんでした。若い人は名刺を持っていないことも多く、多くの人はLinked-Inのアプリ経由で連絡先交換をしています。カンファレンスのスポンサーは、ランチやコーヒーブレイクの会場の周りに幟が並び、その周りに担当者がいるだけで、パンフレットやノベルティグッズを渡されたところはありませんでした。会場の飲み物もペットボトルは一切ないなど、カンファレンス運営では日本との違いを感じるとともに、多様性とエコロジーを重視する姿勢を感じました。

以上

2024.4.16掲載