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ESOMAR 国際業界統計(GMR)2021を公表

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JMRA・JIS認証支援センター長
ESOMAR GMR日本アンバサダー
一ノ瀬 裕幸

9月20日のESOMAR Insights Festival開幕に合わせて、インサイト産業の2021年版国際業界統計(Global Market Research)が公表されました(有料:ESOMAR会員はpdf版無料)。昨年、統計対象の定義を大きく変更したことで波紋を呼びましたが、今回もインドの市場規模が一気に7倍になり、世界第4位(←16位)に浮上するなど、その余波が続いています。
本稿では、今年の代表的なトピックスについてご紹介していきたいと思います。

1.世界全体の市場規模はマイナス成長を免れた

国境を越えて広がったコロナ禍の影響により、昨年のレポートでは2020年に世界全体で-6%から最大で-25%程度の大幅な市場縮小が懸念されるところとなっていました。しかし、2020年の第4四半期(10~12月)を中心に、日本も含めてある程度までは持ち直し、インサイト産業全体では総額897.5億USドルと、+0.3%の実質成長率(注:名目成長率では+1.7%)を確保することができました。これは、苦しい状況の中でも機敏にオンライン化等を進めて対応を図ったことの成果ではないかと考えられます。なお、IMF(国際通貨基金)のデータによれば、同期間の世界の実質成長率は-3.1%と報告されています。また、2021年に向けた予測では、世界計で+3.7%の回復が期待されています(表1)。

ただし、地域差が大きく、アメリカ合衆国(以下「米国」)、ヨーロッパ、アジア太平洋では何とか「持ちこたえた」ものの、米国以外の南北アメリカ大陸諸国、アフリカ及び中近東では深刻な落ち込みが目立ち、今後の回復にも時間を要するであろうことがうかがえます(同)。

2.主要国の市場規模は軒並みマイナスに

国別に見ると(表2)、世界の上位15カ国のうち、プラスの伸び率を計上したのは中国(3.4%)、米国(2.5%)、韓国(1.3%)の3カ国のみで、他は軒並みマイナスを記録しています。なお、日本は20.35億USドル(世界シェア2.3%)で、実質成長率-3.5%でした。
ここで日本は世界ランクを1つ落とし、第7位となっています。代わって4位に急上昇したのがインド(前年は16位)で、2019年から2020年の数値がそれ以前の約7倍に拡大していることがわかります。これは紛れもなく、「テクノロジー主導調査」を組み込んだことによるものです。イギリスも同様に、2019年から2020年の値が約1.4倍となっています(世界ランクは2位のままで変わりません)。この2カ国が今回の各国数値を見る上では要注意です。
※)参考までに、米国は2016年から2017年に、カナダは2017年から2018年にトレンドの断絶があります。この時点で「テクノロジー主導調査」等を組み込んだことによります。

3.発展途上国の落ち込みが激しく、回復遅延の懸念

ランキング16位以下の国々の中には、相対的にコロナ禍の被害が小さかった国もありますが、全体としてはやはり深刻な影響をこうむっています。
図1は、各国の1人当たりGDP(IMFデータより)と、インサイト産業の実質成長率をプロットしたものです。決定係数(R2)が約0.47ですので、そこそこの相関が認められると言ってよいでしょう。1人当たりGDPの低い国々(主に新興国・発展途上国)では、一般に対面式の調査が主流でオンライン化は進んでいなかったため、ロックダウン等によってより大きなマイナス成長を余儀なくされたところが多かったと考えられます。ワクチン接種等の対策も(先進国に比べて)進んでいないと報じられていることから、総じて落ち込みの深刻さと、回復までに相応の時間を要することが見込まれます。先進国と発展途上国間の格差がいっそう拡大するであろうこと、また両者間取引の停滞継続が懸念されるところです。

4.新カテゴリーの動向

以上の国別データは、主として従来の「確立された市場調査領域」のデータに依るところが大半となっています。「テクノロジー主導調査」及び「レポーティング」の新カテゴリーの発注は、やはり米国、イギリス、インドなどの上位国に集中しているためです。
3つのカテゴリー別にみると(表3)、主な成長は「テクノロジー主導調査」によって牽引されており(8.4%)、コロナ禍の影響は既存の市場調査領域で大きく(-4.4%)なっていることがわかります。また、「レポーティング」も-0.6%と横ばいを余儀なくされています。

さて、ここまでで読者の皆さまの中には、「新たなカテゴリーを取り込んだことで、統計の連続性が担保されていないのではないか?」、また「表3に示された“確定済”と“未確定”とは何か?」という疑問を持たれた方がおられるのではないかと思います。
図2を合わせてご覧ください。これは表3の内容を図示したもので、“確定済(Reported)”は売上の生じた国が判明した分、“未確定(Unreported)”は、発生国等の詳細はわからないものの、おそらくこのくらいの規模であろうと推定された値です。多国籍大企業(クライアント)の、国際的な大型プロジェクトの大半が米国及びイギリスから発注されているため、このような推計が可能になっていると聞いています。今回、“未確定(Unreported)”の割合が減少したのは、イギリスやインドなどでその内訳が把握された部分が反映されているものと思われます。
したがって、仮に今後日本などで「テクノロジー主導調査」の市場規模の詳細が判明したとしても、世界規模での統計の連続性には重大な影響を及ぼさないであろうと考えられます。

5.日本での新カテゴリー推定の状況

日本においても、JMRAが「テクノロジー主導調査」と「レポーティング」市場の解明に取り組んでいるところですが、これらの領域は公表されたデータに乏しく、まだ緒に就いたばかりの状況です。日本の国内市場は多国籍大手クライアントへの依存度が相対的に低く、またシンクタンクなど独自色の強い業態もみられることから、より踏み込んだ研究が必要となっています。
いずれにせよ、「クライアントへのインサイト提供」という観点からは、すでに日本でも関連領域間の協力協同が進んでおり、今後、企業ヒアリング等を通じて実態を明らかにするとともに、より広範な協力体制を築いていきたいと考えています。この点については、経済産業省にも協力・支援を要請しているところです(図3)。
本記事読者の皆さまにおかれましても、機会がありましたらぜひご協力のほど、よろしくお願いいたします。

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2021.10.26掲載