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たいとる

Withコロナ時代に向けたリサーチ業界の準備 第14回

さぶたいとる

リサーチ・インサイト業界のトレンド
  「アジャイルリサーチ」とは 

ほんぶん

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子

リサーチ・インサイト業界のトレンドとして、「アジャイルリサーチ」への対応が必要であるとESOMARでもよく取り上げられています。でも「アジャイル」であるとはどういうことを指すのでしょうか。辞書では、「すばやい・機敏な」という意味がでてきますが、これは担当のリサーチャー個人ががんばって対応スピードを上げる話ではありません。

「アジャイル」という言葉は、もともとソフトウェア業界の用語で、開発中の仕様変更に柔軟に対応し、従来よりも短い期間での開発を実現する手法のことです。あらかじめ厳密な仕様決定をせず、機能ごとの小さな単位での開発を繰り返します。こうすることで仕様変更が発生した際に、後戻りがしやすくなります。機能ごとに、「要件定義→設計→実装→テスト→運用」の工程を繰り返し、開発が終了したところから随時提供することが可能です。
一方、「アジャイル」開発の反対は、「ウォータープルーフ」開発といい、最初に全機能の仕様を詳細に設計し、後戻りをすることは想定していません。多くの調査は、ウォータープルーフ型です。大規模トラッキング調査やパネル調査のように安定的に運用される仕様変更が少ないものは、「ウォータープルーフ」型の方が向いています。
リサーチャーは、調査の企画というものは、しっかり検討して計画して、やり直しや間違いがないように準備をするのが当たり前と考えてきました。事前の設計が大切でなくなることはありません。ただ、クライアントや市場環境に変化が起こっていること、それがリサーチの進め方にも変化が必要な場面が増えてきたということです。

アジャイルリサーチは、仕様や要件はおおよその方向性を示すだけで、途中で仕様変更もあります。それを短期間のサイクルで繰り返します。課題の早期発見、アイディア出し、コンセプトテスト、優先順位づけなどの目的で、クライアントの開発の意思決定プロセスの早い段階で頻繁に使用されます。個別の調査で完璧を期すよりも、データを頻繁に得ることによって学び、調整するという考え方に立っています。

独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の「なぜ、いまアジャイルが必要か?」という冊子には、以下のような記述があります。 (https://www.ipa.go.jp/files/000073019.pdf

なぜ、いまアジャイルなアプローチが求められるのでしょうか?プロダクトを速くリリースできるからでしょうか?もちろんスピードは大事ですが、それだけではありません。アジャイルによる仮説検証型の問題解決方法が、新しい価値を創出するうえで必要不可欠だからです。
Society5.0時代は、変化が激しく、物事の予測がたてにくい複雑・不確実な世の中になっています。
複雑な問題には論理的に導ける最適解はありません。このような問題には、従来のような「問題を分析して論理的に解決するパラダイム」ではなく「観察とフィードバックによって探索と適応を繰り返す未来創出型のパラダイム」が有効です。こうした時代の変化がアジャイルなアプローチを必要とされるようになった背景にあります。

今後、リサーチ・インサイト業界では「アジャイル」への対応がますます求められます。
リサーチクライアントの業務においても、さまざまな局面でデータに基づいて判断したいというスピードへのニーズが高まっています。より多くの企業がアジャイルな開発スタイルに移行するとともに、より多くの迅速なフィードバックが必要とされます。それに対応するには、リサーチャーも柔軟に変更に耐えられるよう考え方やスタイルも変えていかなければなりません。

スピード対応でリサーチャー個人を疲弊させることがないよう、リサーチ会社においても組織全体でビジネスプロセスにスピードと柔軟性を取り入れることが必要です。
アジャイルなリサーチによってプロジェクト単価が下がるとか、緊急の仕事が増えたとかいう個々の事象でとらえるのではなく、このような大きな変化が背景にあることを理解し、クライアントとより緊密なパートナーシップに基づいた継続的な関係にしてゆくことが大切だといえるでしょう。

 

2021.5.14掲載