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ほんぶん

第1部 組織にとっての価値を特定する
第3章 マーケットからマネーへ

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


私たちの組織が成功するためには、統合されたインサイツが必要だ。単独の事実や数字は必要なく、文脈に沿った観察、つまり事業活動を行う市場で顧客がどのように考え、行動しているかについての新しい発見が必要なのだ。これらの発見が何らかの興味、妥当性、バランス感覚、あるいは重要性を持つためには、その他の既に知っている真実についての文脈で生み出されなければならない。ビジネスの成功は統合されたインサイツにかかっているのだ。

2004年、IMAは 「インサイトマネジメント」 という言葉を初めて生み出した報告書を発表した。この報告書では、組織はまず調査すべき本当の課題や機会を特定し、その課題を解決するために統合されたアプローチをとるべきだと提言している。市場調査、競合情報、顧客分析のようにこれまで別々の機能であったものが連携すれば、はるかに効果的になる。堅牢で正確なインプットを生み出すためには個々の領域が重要であったが、私たちの企業が統合的な意思決定を行えるように最終的なアウトプットは統合されたインサイツであるべきだ。

あなたの会社は、統合されたインサイツを作りだしているだろうか。

しかしそれから15年が経った今、どれだけの組織が一貫して統合したインサイツを生み出しているだろうか。 IMAは、英国、北米、欧州の企業インサイト部門のリーダーと日々会話する中で、次の3つのストーリーのいずれかをよく聞く。

  • 市場調査と分析部門が別々の事業部門にあり、企業の意思決定者はどちらの部署にいけばよいのか選択することを余儀なくされている。
  • 市場調査と分析部門は同じ事業部門にあるが、それぞれが仕事に対する異なった考え方やアプローチ、文脈で別々のプロジェクトに取り組んでいる。
  • 市場調査のリーダーがアナリストに対して何らかの責任を負っている、あるいはより多くの場合、分析部門が市場調査チームを引き継いでいるが、どちらももう一方のチームから最大限の力を引き出す方法を知らない。

いずれの場合も通常、新しいインサイトの創出と企業の意思決定へのインプットは断片的である。では、インサイト部門のリーダーは、より良いビジネス上の意思決定に必要な統合されたインサイツを生み出すために、どのように自分たちの考え方や同僚の働き方を変えていけばよいのだろうか。

統合されたインサイツを生み出すには

その答えは、インサイト活動へのアプローチを見直すことだ。市場調査、顧客分析、競合情報といった機能的な分野に焦点を当てるのではなく、市場の消費者がどのように我々の組織の顧客となり、組織の価値を創造するかという全体的なストーリーを創造するためのインプットとして、それぞれの分野を捉える必要があるのだ。

これを一貫して行うには、新しい知識の断片をすべて追加できるような因果関係のモデルを採用する必要がある。IMAでは、これをMADE イン・インサイトモデルと呼んでいる。

M 指標(Metrics): 組織が達成しようとするビジネス上の成果。インサイトの目的が、よりよい意思決定の推進と企業業績の向上にあるなら、すべてのインサイトプロジェクトの主要な要件は、組織で進めようとする指標に焦点を当てることなのは当然だろう。
IMAでは、新しいインサイトを生み出すための全体的なアプローチにこの焦点を組み込んでいる。多くのプロジェクトがうまくいかないのは、最初の段階でリサーチャーやアナリストらが、根本的なビジネスの問題を突き止めるために時間をさかず、情報のリクエストに反応してしまうからだ。しかし、ビジネスの成果を重視することは、プロジェクト開始時に根本的な問題を突き止めたら終わるわけではない。その後の調査のすべてのステップで、ビジネス指標を重要な基準点として使用する必要がある。優れたインサイトは、財務的な成果に焦点をあて、ビジネス用語を用いて見解や提言を述べる。そのためあなたは、指標(Metrics)はお金だと考えたいかもしれない。

A アクティビティ(Activity):これらのビジネスの成果に直接影響を与える顧客行動。指標(Metrics)から一歩進んだものが、アクティビティ(Activity)だ。言い換えれば、主要なビジネス成果に直接的な影響を与える、またはその可能性のある顧客行動である。これはビジネスの業績の内側に入るのではなく、顧客の外側を見るものであるため、より多くのインサイトチームが調査したがる領域に入っていっている。
指標(Metrics)と同様に、純粋にアクティビティに関連するデータに対し興味深い分析を行うことは可能だ。しかし重要なのは、ビジネスの成果に直結する顧客の行動を理解することに焦点を当てることだ。

D 意思決定(Decisions):顧客行動を実際に促進する消費者の選択。MADE イン・インサイト モデルの3番目のパートになる。「意思決定」は、従来のインサイト活動の中核をなすものであり、特に多くの市場調査リサーチャーにとって焦点となるものだ。このカテゴリーには、「なぜお客様は当社で買い物をするのか」「当社が新製品を発売したら市場の消費者はどのように反応するのか」「消費者行動を本当に促す根本的なニーズや願望は何か」といった質問が含まれる。

E 環境(Environment):選択の背景となる市場の状況。MADE イン・インサイト モデルの最後のカテゴリーは「環境」だ。これは単に環境問題だけに焦点を当てたものではなく、多くの分野で考慮すべき側面の一つであることは確かだ。 消費者が生活し、選択を行う環境全体であり、時には急速に、時にはほとんど気づかないほどゆっくりと起きているトレンドである。環境とは、個人ではなく市場全体の問題であり、セグメント、世代、集団の意思決定を形成する要因である。

インサイトチームは、特定のデータや手法に焦点を当てすぎる傾向がある。例えば、顧客の行動や、特定の課題に関連する消費者の意思決定に焦点を絞りすぎる傾向がある。そのため問題の全体像を把握することができない。

意思決定と環境を考慮しないインサイトプロジェクトは、消費者が生活している現実世界に根ざしていない。しかし調査結果や提案が顧客の活動や財務的な成果指標を中心に据えたものでなければ、価値を特定し、変化を促進することはできない。

どこから始めればいいのだろうか。調査するビジネス課題の性質に応じて、どこから始めることも可能だ。例えば、取引実績の分析的な調査は「指標(Metrics)」から、新製品開発の調査は「環境」から始めるとよいだろう。しかし、重要なことは、すべてのプロジェクトにおいて、マーケットからマネーに至るまでマッピングしなければならないということである。

成功するインサイトチームの第3の秘訣は、マーケットからマネーに至るまであらゆるビジネス課題をマッピングすることである。
重要ポイント:
  1. ビジネスの成功には、統合したインサイツが必要だ。そのために各課題を取り上げ、マーケットからマネーまでのマップを作成する必要がある。
  2. 指標(Metrics): 組織が達成したいビジネス上の成果(通常、金額に関連するもの)
  3. アクティビティ(Activity):これらのビジネス成果に直接影響を与える顧客の行動
  4. 意思決定(Decisions):その行動を実際に促進する消費者の選択
  5. 環境(Environment): 選択の背景となる市場の状況

しかし、MADE イン・インサイト モデルで捉えたすべての側面について、知りたい数字のすべてがわからないときはどうなるのだろうか。慌てないでください。必要な数字のすべてが見つからないのはほぼ避けられないことだが、次の章で説明するように、それに対処する方法がある。

エディタV2

2022.8.16掲載


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