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ほんぶん

はじめに

 企業・組織のインサイトチームで働くには、今ほどよい時代はない。市場調査と顧客の分析は常に知的な課題を提供し、消費者行動や組織への影響について新しいインサイトを明らかにすることによってユニークな話題を提供してきた。しかし、近年では3つの大きな発展がインサイトチームの機会の規模に劇的な影響を与えている。

 まず、デジタルトランザクションとソーシャルメディア上の会話によって、顧客のデータは指数関数的に増加した。これまでエンドユーザーが誰なのかを把握していなかった企業は、今やオンラインでサービスを提供することで、顧客とその組織との関係についての膨大な情報を提供できるようになった。

 第二に、人間の行動を理解する能力、特に人間の意思決定に対する理解力が大幅に向上した。心理学と経済学の分野の発展が相まって、行動のバイアスに関する豊富な知識が得られるようになった。そのため我々は、どのようなデータを探すべきかの理解が深まり、消費者の選択を説明するために解釈する機会も増えた。

データは世界で最も速く成長するリソースであり、顧客データや市場データの活用意欲と能力は飛躍的に高まっている。大げさではなく、インサイトが組織全体のパフォーマンスを変革するこれまでにないほど大きな機会が到来していると言える。

あなたは、インサイト・ドリブンな組織で働いているだろうか?

このような機会があるにもかかわらず、欧州や北米のあらゆる業界のインサイト部門からは「実は仕事が難しくなっている」という報告が定期的に寄せられている。

私の経営するインサイトマネジメントアカデミー(IMA)は、企業の調査・分析チームを支援するために2004年に英国で設立され、毎週複数の企業のインサイト部門のリーダーに話を聞いているが、その内容は一貫している。データの状況は変化し、ソフトウェアは改良され、科学は発展し、意欲は高まっているが、どれだけの組織が本当にインサイト・ドリブンなのだろうか?

どうしてこんなことになったのだろうか。利用可能なデータとその操作方法の増加、意思決定者からの要望の増大が相まって、インサイトチームは、よりタスクに集中するようになったといえるだろう。私たちは、ますます多くの分析や調査を行っているものの、それ自体は私たちの企業をインサイト・ドリブンにするものではない。それはまったく違うものだ。

 インサイト部門のリーダーとして、この機会を捉え、インサイトが本当に変化をもたらすようにするためには、一歩下がって今ある機会の本質について熟考し、機会を現実に変えるためにどのようにリソースをより効果的に活用するかを計画する必要がある。

 言い換えれば、もしインサイトによって組織のパフォーマンスを変革したいのであれば、まずインサイトの機能とそれが企業で果たす役割を変革しなければならないのだ。

 2004年、IMAは 「インサイトマネジメント」 という言葉を生み出し、変化をもたらすインサイトを作る指針として定義した。以来16年間、IMAはインサイトマネジメントのあらゆる面でのベストプラクティスを独自に研究し、何千人もの企業のインサイト部門の担当者にインスピレーション、サポート、およびガイダンスを提供してきた。

 これは、eBay(イーベイ)、マクドナルド、ASDA(アズダ:イギリスの小売業)、クラフト・ハインツ、ネスレなどの企業のインサイト部門のシニアリーダー40名が参加するインサイトフォーラムをロンドンで立ち上げたことから始まった。

 このフォーラムはロンドンとマンチェスターで60回以上開催され、50以上のトピックが検討され、ベストプラクティスの報告書が作成された。現在は、北米、欧州、アジアのエンドユーザーであるインサイト部門のリーダーがIMA(インサイト マネジメント アカデミー)の理解に貢献し、その恩恵が得られるように交流が拡大した。メンバーは、米国公共ラジオ放送からデンマークのカールスバーグ、カナダとドイツのベーリンガーインゲルハイム(製薬)、ロンドン交通局、オーストラリアのトワイニングズまで多岐にわたっている。

 私自身のキャリアもこのような考え方によって形作られてきた。2005年に、私はバークレイズ銀行で初の顧客分析、市場調査、競合情報などを統合したインサイト部門を構築、率いる素晴らしい機会を得た。創造的刺激を求めて、私は銀行を代表して新しく作られたインサイトフォーラムに応募し、その後10年以上にわたってこのフォーラムに代表として参加した。2015年には、他のインサイト部門のリーダーがインサイトによって企業に変革をもたらす支援をする方法を探していた私はIMAの理事会に参画し、それ以来、午前中は企業のインサイト部門で上級管理職と話をし、午後は他の人が学ぶことができるよう指針を策定することに費やす贅沢な時間を過ごしている。

2018年11月にインドのムンバイで開催されたワールド・マーケティング会議とその直後にニューヨークで開催されたThe Quirk's Event(シカゴ、ニューヨーク、ロンドンなどで行われるマーケティング・リサーチ業界のカンファレンス)で講演した際、私はこれらの指針の多くをまとめて、企業のインサイト部門のリーダーが探求すべき重要な領域の概要を示した。その反響に触発され、私はインサイトが組織でより効果的な役割を果たすことができると信じるすべての人への手引書となるようこの本を書いた。


 トランスフォーミング・インサイト:~成功する企業インサイトチームの42の秘訣~

 この本は、次の5つのセクションで構成されている。

・第1部 組織にとっての価値を特定する:
    インサイトチームの中核的な目的と、新しいインサイトを生成し顧客に関する知識を発展させることによって組織の価値を特定する方法を考察する。
・第2部 変革の推進:
    コミュニケーションと影響力を通じて変革を推進するために調査や分析を使用するのでなければ何の意味もないという原則を探る。
・第3部 インサイトをリードする:
    インサイト部門のリーダーの役割およびインサイト戦略と人材のためにトップダウンの計画を立案し実行するための必要性についての認識を問う。
・第4部 効果の最適化:
    企業内のインサイトチームの位置づけと持続可能な営業的成功のためにインサイト部門が果たす重要な役割について検討する。
・第5部 今後に向けて:
    2020年のコロナウイルスの大流行は、インサイトチームが進化を加速し、勢いを維持するための前例のない機会を提供したことを示唆する。

 各章は、42の秘訣の一つを明らかにし、わずか10分ほどで読むことができる。1週間で本を最初から最後まで読んでも、各章の最後の5つのポイントを新しい1日の始まりにインスピレーションとして使ってもよい。「トランスフォーミング・インサイト」のアイデアが、私と同様にあなたのキャリアにとっても重要なものとなることを願っている。


第1部
組織のとっての価値を特定する

「トランスフォーミング・インサイト」の第1部「組織にとっての価値を特定する」では、成功した企業のインサイトチーム42の秘訣のうちの最初の10の秘訣に焦点を当てる。