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タイトル
JMRAアニュアル・カンファレンス 2018   WITH US -ともに創る明日-
現場レポート

鈴木敦詞(りんく考房)
概要

◆実施概要を一新した意図=多様な対象に、多様な内容を伝えるため?
◆学生向け特別講演:ワクワクするマーケティングリサーチの魅力
◆WIRe連携コンテンツ:Insights That Change the World
◆ESOMAR連携コンテンツ
◆基調講演:DaiGo氏『生活者の心を掴むメンタリズム』
◆特別講演:和田浩子氏『リサーチ会社
◆結局、「人を理解することがマーケティングリサーチ」ということに集約
本文1
◆実施概要を一新した意図=多様な対象に、多様な内容を伝えるため?
『WITH US~ともに創る明日』というテーマで開催された今回のJMRAアニュアルカンファレンス2018は、開催時期や会場、さらに位置づけや内容も一新されたものでした。
カンファレンスの目的は「マーケティングリサーチに関わる関係者に対する情報発信と情報交流を活性化させ、業界のプレゼンス向上を促進させる場であり、時流を超えた業界内外のコンテンツを提供」することにあります。では、今回の変更の狙いはどこにあったのでしょうか。JMRA内田会長は、挨拶で3つの狙いを示します。
1つめは、これまでリサーチャー間やリサーチユーザーとの情報交換の場という位置づけだったものを業界外の人(主に学生?)にも知ってもらうこと、2つめとしてこれまでの11月末という時期がリサーチ繁忙期のために参加が難しかった若手リサーチャーの参加を促進すること、そして3つめとして5月に開催されるESOMARカンファレンスとの連携を高めることで海外の情報にも直接触れてもらうこと、です。
プログラム構成は学生向けコンテンツやESOMAR連携コンテンツ、他団体連携コンテンツ、そして著名人の基調講演や特別講演が並び、対象や情報の多様性を反映したものとなっています。では、それぞれのプログラムがどのような内容だったのかを紹介し、最後に今回のカンファレンスについての個人的な感想を述べたいと思います。

  


◆学生向け特別講演:ワクワクするマーケティングリサーチの魅力
午前中のセションは学生向けの特別プログラムで、今回のカンファレンスの狙いのひとつとして位置づけられたものです。『ワクワクするマーケティングリサーチの魅力』をテーマに据え、多様なバックグラウンドを持つパネラーの話を通じて、リサーチとは何か、その魅力は何かについて学生に理解してもらおうという内容です。当セションは、Webエントリー開始直後から予約が埋まっていき、当日は朝早くから意識の高い学生が100名を超えて集まりました。

  

イントロダクションでは、10年以上にわたり、産学連携プロジェクトを通じてマーケティングリサーチや商品開発などに携わってきた立教大学・佐々木教授から、マーケティングリサーチの魅力について次のような提起がありました。

依頼者の求めに応じ、データを集めて分析し、単にレポートを提出するだけがマーケティングリサーチとするなら、ワクワク感は少ない。しかし、能動的に仮説を考え、その真偽をデータで検証し、結果をビジネスに活かすサイクルを回す(あるいはそれを支援する、意識する)ようになると、リサーチ・ワーク自体を進化させ(スパイラルアップ)、その魅力を実感できるようになる。さらに、近年ではデジタルデータをリアルタイムに活用してマーケティングとリサーチを同期化させていくことや、顧客と共に価値を創る「価値共創」などがトレンドになっている。そのようなイノベーションにチャレンジすることで、リサーチはワクワクするものに変貌していく。学生は理系と文系に分かれるが、どちらが向いているということはない。統計手法を駆使したデータ分析やロジカルなアプローチは理系に向いていて、分析結果を商品企画やビジネスに展開するフェーズでは、文系ならではの感性やアイデア発想力が生きる。それぞれの強みを生かしあうことが重要だ。

続いてパネルディスカションに入り、「マーケティングリサーチとは何か」をテーマに、リサーチユーザー、リサーチャー、コンサルタントそれぞれの体験談をもとに、次のような議論が行われました。

・マーケティングリサーチャーは、情報を軸としてマーケティング活動のサポートを担うパートナーである。
・これまではアンケートやインタビューが主な手法であったが、テクノロジーの進歩によって新たな可能性が広がっている。
・商品開発はRPDCA(リサーチ-計画-実行-検証-修正)という流れで行われるが、多くのポイントでマーケティングリサーチが不可欠である。
・新規事業開発では、戦略策定のためのリサーチ、アイデア構築のためのリサーチが主になるが、必ずしも定量的な分析手法だけが重視されるわけではない。
・リサーチャーに求められる資質として、「データを読む」「発想する」「中立的立場、客観性」「共感する」「違和感をもつ」「寄り添う」などがあげられる。

ここで提起されたリサーチの役割や意義、リサーチャーに求められる資質などについての議論は、学生だけでなく、すでにリサーチ業務に携わる若手リサーチャーに対しても、日ごろ感じているかもしれないリサーチとは何だろう、私の仕事の価値は何だろうといった疑問や悩みに応えるメッセージになったものと考えます。

パネルディスカションの後、パネラーが少人数に分かれて車座形式になり、パネラーを囲む形で自由なQ&Aが行われました。パネラーと学生は膝を突き合わせ、パネルディスカッションの内容に対する疑問点やホンネを語り合いました。学生たちの真剣なまなざしをみて、今回初めてトライした学生向けのセションが、リサーチ業界やリサーチャーの仕事を理解してもらう重要な機会提供になったことを確信いたしました。


◆WIRe連携コンテンツ:Insights That Change the World
このプログラムの主催であるWIReはアメリカで10年前に発足したNPO団体であり、そのミッションは「マーケティングリサーチに携わる女性のキャリア形成を積極的にサポートするとともに、業界へのさらなる貢献を支援する」ことにあります(もちろん男性を排除するわけではありません)。日本では昨年のJMRAカンファレンスでキックオフしました。
今回は、インサイトについてパネラーや会場と共に議論することを通じて、とくに学生や若手リサーチャーがマーケティングリサーチに従事する意義やビジネスにインパクトを与えるヒントを得ることを目的としています。



まず、「インサイト」という言葉についての意味を、会場も交えて議論します。最初に確認されたのは、データそのものや消費者の言葉そのものはインサイトではないということです。様々な情報を組合せ、そこから導かれる知見こそがインサイトであり、コンシューマーインサイト、ビジネスインサイト、マーケティングインサイト、チャネルインサイトなど多様な次元のインサイトがあることを理解する必要があります。そして、事例を通じ「パワフルなインサイトは、人を動かす(ここでの“人”は、顧客はもちろん、社内や流通などの関与者も含めます)」とメッセージします。

では、このような「インサイト」をどうやって捉えるか、その方法について議論します。具体的には、つぎのステップとポイントが提示されました。

1.何が必要なのか
- ここで注意したいのは、発注者も困っていることはわかっていても、具体的に何が必要かを認識していない、あるいは間違って捉えていることがあるということ。何が必要なのかを深堀するのも、リサーチャーの仕事のひとつ。

2.どんなアウトプットが必要なのか
- 発注者がどのように結果を活用するのかを理解して、そのためのアウトプットを考えること。長く協働しているリサーチャーとリサーチユーザーならば、それまでの経験などからプラスアルファの提案ができることがメリットになるが、一方で「今まで通り」という思考に陥るリスクも意識することが必要。

3.どんな方法で実施するか(どのようにデータを集め、分析するのか)
- 目的に沿った適切なデータ収集や分析方法を採用する。このときに、新しい方法の可能性を模索したり、あるいは「そもそもリサーチ自体が必要か」と問うことも必要。もしかしたら、すでにあるデータ、過去の知見、現場観察などの方法でインサイトを得ることができるかもしれない。

4.リサーチ結果を、どのようにインサイトに転換するか
- リサーチ結果はインサイトを得る素材にすぎない。提案は、アクションに繋がらなければならないし、相手が使いやすいフォーマットや内容でなければならない。ペーパーによる報告だけではなく、絵、動画、パフォーマンスなどが適している場合も。

5.提案がどう評価されたか
- 提案について、発注者が満足し、結果を活用できたのかの検証を行うことも大切。

さらに、インサイトがビジネスの中でどう関連してくるのか、インサイトを理解することによるキャリアの可能性を紹介して、プログラムは終了します。
インサイトの理解、インサイトを得る方法の理解、またインサイトが今のビジネスでどれくらい重要なのかを理解することは、マーケティングリサーチの本質を理解する上でも有意義なコンテンツでした。


◆ESOMAR連携コンテンツ:
今回のカンファレンスの大きな狙いのひとつは、ESOMARとの連携であり、海外情報に直に触れることでした。これに対応したのが、ESOMAR連携コンテンツです。

最初に、ESOMARが現在力を入れている3つの活動についての紹介がありました。1つめはクライアントとの関係性づくりのためのコミュニティの構築、2つめは新しいテクノロジーをキャッチアップし活用していくためのスタートアップ(起業家)との関係づくり、3つめはGDPR(General Data Protection Regulation)対応のための仕組みづくりです。
マーケティングリサーチにおける現在の課題は、世界的に共通するテーマなのだと思い至ります。一方でJMRAでは、日本におけるこれらの課題をどのように捉え、どのような活動をしているのか、という疑問が頭をよぎりました。

ついで、ESOMAR Asia Pacific 2018にて受賞した2つのプレゼンが行われます。
1つめはベストプレゼンテーションを受賞したLi Chenyangさん(中国)による『Research to the Rescue』と題するプレゼンです。



Liさんは、WWFで象を絶滅の危機から救う活動を行っています。とくにアジア(中でも中国)において、象牙製品は「伝統的で貴重で名誉あるもの」とみられてきましたが、消費者のこのような認識を「社会的に好ましく無いもの」へと変えていくことが必要です。そこで、誰に対して、どこで、どのようなメッセージを送ればよいのかという課題を解決するために、マーケティングリサーチが行われました。
リサーチ自体は、市場のセグメンテーション、過去から現在、そして今後の象牙に対する影響度のインデックス化、そしてMaxDiff法を用いてメッセージの効果測定などを行うもので、とくに目新しいものではありません。ここから、購入ドライバーを明らかにし、セグメンテーションごとの戦略を構築し、実行に移していきます。彼女は、プレゼンの最後で次のようにメッセージしました。
「象を救うことは待ったなしです。成功を収めるには、ターゲットとするユーザーのデータとインサイトが必要で、そのためにはマーケティングリサーチを行うことが不可欠です。リサーチによって、戦略を導き、予算を決定するためのベースラインが得られます。だから、これは私たちの「救助のための研究」なのです」
Liさんのプレゼンを通じ、マーケティングリサーチが非営利の分野でも重要な役割を担っていることを理解することができると思います。

2つめはベストペーパー賞を受賞したArpapat Boonrodさん(タイ)による『The Future VOICE -How Voice Technology is Changing the World of People and Brands』と題するプレゼンです。



Boonrodさんはリサーチ会社に所属するディレクターです。オンラインリサーチ、インタビューや観察、オンラインコミュニティを通じて、音声技術がこれからの人々やブランドへ与える影響についての研究を行いました。
音声技術に関連する新たなトレンドとしてあげられたのは、音声検索、音声自体のカスタマイズ、様々なデバイスとのシナジーによる効果(効率やマルチタスク、利便性、エンターテイメントなど)、プライバシーをはじめとする音声時代の倫理構築、文化的な背景による国別に特有なニーズへの対応の5つです。
さらに音声による顧客とブランドの関係性への視点として、音声を使うという消費者のニーズに対応する、音声により物事をよりシンプルでカスタマイズされたものにする、音声を通じてブランドとのエンゲージメントを構築する、音声を認証手段のひとつとする、という4つのインプリケーションが提示されました。
Boonrodさんのプレゼンテーションからは、音声技術がより便利で効果的な技術となり得ること、ブラントとのエンゲージメントやブランド経験にも影響を与え得ること、これらを通じて新しい価値を創造し世の中に変化をもたらす可能性を感じました。

さて、海外の事例はわかりました。では、日本で社会に影響を与えたリサーチや新手法、新技術に関する研究はないのでしょうか。また、日本では今どのようなことがリサーチの焦点になっているのでしょうか。残念ながら、これらのことは今回のカンファレンスで知ることはできませんでした。海外の事例や研究成果、レベル感を知ることは「井の中の蛙」にならないためにも、もちろん大切なことです。しかし一方で、日本ではどうなのか、日本での成果を知るにはどうしたらいいのか、このことを提示することもJMRAの役割のひとつではないかと感じます。(カンファレンスのコンテンツとしないことについては、ひとつの判断ですので良いと思いますが、一方で知る手段を提供することが必要だと思います)


◆基調講演:DaiGo氏『生活者の心を掴むメンタリズム』
基調講演に登壇したのは、メンタリストとして著名なDaiGoさんです。講演内容は表題にあったものとは異なり『合理的な判断のためにバイアスを理解すること』でした。



最初に「測定は、測れるものしか測れないんです。だから、何を測るのか、測る対象を決めることが重要なんです」と話すDaiGoさん、まさにリサーチの核心をつき、リサーチャーの心を掴む入りです。
つづいて、テレビでおなじみの心理ゲームの実践です。いくつかの方法論を紹介しながら心理ゲームを行っていくのですが、あまり詳しい種明かしはここでは伏せておきます。ただ、ブランド力測定でも活用される反応時間(Response Latency)が重要な判断材料になっていることには、とても納得しました。
そして、本題である「合理的な判断のためのバイアスの理解」に話が移ります。人がものごとを判断するには、知性と合理性が基本になるがこの2つの関連性は低く、先天的な知性を高めることは難しいが、合理性は後天的なものであり、人間は合理的でないことを自覚し、認知バイアスを正しく理解することで高めることができると言います。人が陥りやすいバイアスを避けるために知っておくべきことを、認知心理学や行動経済学などの幅広い知見から整理してくれました。

・あえて自分が失敗する場合を想像してみる(人はポジティブな自分に酔いがち、あえてネガティブに発想することで対策を考える)
・ストレスが大きい時に決断を行わない(とくに空腹や寝不足などの肉体的なストレスがあるときに注意。夜に考えたことは翌朝に見直すのがベター)
・他人のことは冷静に判断できるが自分のことになるとそうはいかない(たとえば作業時間の推定は、自分のことだと実際の半分程度でできると見積もってしまうが、他人のことだとそこそこ正しい見積もりをする)
・集団の意思決定は重要だが、内集団=内輪だけでの判断は危険(外の判断に耳を傾けることも大切)
・目標も大切だが、具体的な行動計画(いつ、どこで、どのように)に落とし込むことで実効性が高まる
・自分の意志力や判断力に頼り過ぎない(人はバイアスに囚われていること、弱さを持っていることを自覚する)
・自信過剰にならない(多くの人は、自分は平均以上だと思っている)

これらは、ふだんの生活でも参考になるのはもちろん、リサーチの企画や分析を行うときに注意すべきポイントとしても捉えることができます。
また、自分を過信せず、思い込みを排除するために小さなテストをすることが必要、内輪の判断はバイアスに陥りやすいので外の判断を参考にするなどは、まさにリサーチの役割そのものではないでしょうか。
正直なところ、最初は著名人の講演を楽しく聞ければと思っていたのですが、リサーチの役割や、企画や分析といったふだんの業務を進める上でのポイントに改めて気づくことができ、得るものが多い講演でした。

最後にひとつ、付け加えておきます。DaiGoさんは冒頭で「私の講演は、録音・録画、SNSでの発信は自由です」と言いました。最近の他カンファレンスなどをみるとSNSフリーの場合も少なくありませんが、JMRAのカンファレンスではすべて禁止です。たしかに内容によってはSNSで拡散されると困るものもあるかもしれませんし、参加費を徴収しているという側面もあって、SNSを禁止しているのだと思います。しかし、JMRAカンファレンスの目的のひとつに「業界のプレゼンス向上を促進させる」ことがあるとするなら、多くの人にカンファレンスの存在や内容を知ってもらうことで参加意向を高めるためにも、やはりSNSの利用を考えてもよいのではないでしょうか。


◆特別講演:和田浩子氏『リサーチ会社がリーダーシップをとるって何?』
特別講演では、P&Gやダイソン、日本トイザらスで活躍され、現在はビジネスやマーケティング、ブランドについて多くの講演を行っている和田浩子氏が登壇しました。
『リサーチ会社がリーダーシップをとるって何?』と題し、JMRAから発表された「マーケティングリサーチ産業ビジョン」の実効性を高めるために、とくに業界リーダーたちがすべきことについて提言します。



マーケティングリサーチ産業ビジョンのキーメッセージは『市場の計測者から、イノベーションのエンジンへ』というものです。これについて、和田さんは“Do it yesterday”と言います、「その通り」とか「さっさとやれば」という意味です。
というのも、和田さんはこれまでのリサーチについて、「受け身、売上至上主義?」「リサーチだけ?」「分析やプレゼン経験が足りない?」「ビジネス全体を把握している?」「深い消費者理解を共有し、より戦略的なアドバイスをしている?」と感じていたからです。これまでのカンファレンスをはじめてとして、以前からたびたび指摘されているリサーチ業界の課題であり、弱みです。リサーチ業界が変わるためには、いま一度、この指摘を共有することから、始めなければならないでしょう。
そして、このビジョンを実現するためには、まず業界のリーダーたちこそが動かなければならないと指摘します。その参考にすべきなのが、ブランドマネジメントの本質です。ブランドとは何か、ブランドになるとはどういうことか、そのために何をすべきか、成功の鍵は何かなど、ブランドマネジメントの本質について、和田さんから具体的な説明がありました。このとき一番問題となるのが、市場や顧客を理解しようとせずに、何かを行うことだということが強調されます。
これらを受けて、では「マーケティングリサーチ集団ができること、やるべきことは何か」について、つぎのことを提起します。いずれも、リサーチ業界が変わりリーダーシップをとるために、必要なことです。

・ユーザー理解(カテゴリーとエンドユーザーについての習慣とインサイトの理解)
・分析に基づく提案(分析する、インサイトを見つける、インサイトを活用した提案)
・担当ビジネスの全体像を理解(依頼されたリサーチに至る必要条件、担当ブランドの置かれている状況、担当ブランドの戦略)
・マクロ的知識を活用した提案(定点観測/蓄積された知識、クロスカテゴリーの知識、変化を捉える、新しいトレンドを捉える)
・クライアントとの長期的信頼関係構築(業者ではなくビジネスパートナーとしての立ち位置、実績による信頼関係の構築)
・イノベーション力(新しい手法の開発や啓蒙/展開、マーケットリサーチについての教育提供)

さらに、ビジョンを達成するために必要な2つのポイントをあげます。
ひとつは「目標値を決めること」です。目標を決めることで、進捗状況を確認し、行動計画を修正していくことが可能になり、最終的なビジョンに到達します。DaiGo氏が言っていた「目標も大切だが行動計画が必要」 に通じます。たしかに、ビジョンは掲げられたものの、具体的な行動計画(いつ、どこで、どのように)について聞いた記憶がありません(単に、私が知らないだけかもしれませんが)。このことについて和田さんは「計測を仕事としている人たちが、なぜ目標値を決めないの?」と指摘されました、とても耳の痛い言葉です。
もうひとつは「リーダーが行動すること」です。リーダーは、問題を持っている人に問題があると認識させ、重大な問題を解決するために人を動かし、人々の心、考え方を変え、新しい能力を創造することが必要だとします。しかし現実を見た時に、産業ビジョンを知っている=問題を認識している人はどれくらいいるでしょうか。さらに、このビジョンを実現するために動いている人は誰でしょうか。そして、マーケティングリサーチは変わるというマインドセットを持ち新たな能力開発に取り組んでいる人はいるでしょうか。
和田さんは最後に、「マーケティングリサーチをエキサイティングなものにし、ビジネスとしても、リサーチ業界で働いている人にとっても、ハッピーになることを願っている」とメッセージをくれました。そのための産業ビジョンという目標は設定されました。これからは、和田さんの指摘を受け止め、実行に移すための計画とリーダーシップによって、ビジョンを実現する努力が必要だということを、強く感じた講演でした。


◆「人を理解することがマーケティングリサーチ」というメッセージ
以上、今回のカンファレンスの内容について紹介してきました。一通りのコンテンツに接して感じたことは、このカンファレンスの位置づけの難しさでした。言葉を換えると、このカンファレンスが「誰に向けて、何を伝える場なのか」、そして「参加者は、このカンファレンスを通じ何が得られるのか」ということです。対象とコンテンツを広げる一方で、トータル時間は短縮したこともあり、対象と内容の関連性があいまいになった感が否めません。(たとえば、内田会長の挨拶が学生向けコンテンツの冒頭で行われたことの違和感、和田さんの講演は業界を変革していくべきリーダーに向けたものでしたが会場に対象者がどれくらいいたのかという疑問、などを感じていました)
しかし、これは今のマーケティングリサーチが置かれている現状を示しているとも言えるかもしれません。学生向けコンテンツでも、マーケティングリサーチの役割や活動の多様性を伝えていましたが、一昔前の「いわゆるアンケートとインタビュー」というような簡単なものではありませんし、もちろん「データを集めて、提供すること」でもありません。マーケティングリサーチの幅や深さは、数年前に比べると格段に増しています。さらに、業界内の格差も広がっていて、会社によって、あるいは個人によって、関心のあるテーマや、聞いてみたいコンテンツ、もっと理解を深めるべきコンテンツは異なるでしょう。
このような中にあって、JMRAアニュアルカンファレンスの役割は何なのか、アニュアルカンファレンスだけでは提供できないテーマやコンテンツを補完する仕組みやイベントをどう構築していくのか、これらについて改めて考えなければいけない時期にあるのかもしれません(もちろん、これまでもトピックセミナーなどを通じて実施してきた部分もあります)。

このように、カンファレンスの位置づけについては、いろいろと考えることがありましたが、今回のカンファレンスを通じて感じた重要なポイントがひとつあります。それは、「リサーチとは人を理解すること」という、実にシンプルですが、リサーチの本質であり、忘れてはならない視点です。このことは、すべてのプログラムに通底したメッセージであると感じました。
学生へ向けて伝えたマーケティングリサーチの本質のひとつが「人や社会に興味をもつこと、そしてそれをデータからファクトとして見出すこと」でした。
WIReで議論されたインサイトも、やはり人を理解することが鍵になりますし、人を理解することがビジネスにどのようなインパクトを与えるかを紹介しました。
また、ESOMAR連携プレゼンでも、象牙を購入する人たちの理解が象の保全活動に結びつくことを示していましたし、音声技術が人の理解や関係づくりにどう役立つかが示唆されました。
DaiGo氏のプレゼンでは合理的判断のための様々な視点を与えてくれましたが、いずれも人を理解することに通じ、マーケティングリサーチにも活用できる視点でした。
そして和田氏のプレゼンでは、リサーチの産業ビジョンを実現するために必要なブランディングの方法論を提示していただきましたが、そこで強調していたのも、やはり「人の理解」でした。

そして、“リサーチャーにとって”という狭い視点でみると、「クライアントを理解すること」というメッセージも随所で示されています。学生向けのコンテンツでは「寄り添う力」という言葉が、WIReでも「クライアントのニーズを理解すること」の重要性が、和田氏の講演でも「担当ビジネスの理解」の重要性が語られていました。

参加者の皆さんが、「人を理解すること」こそがマーケティングリサーチの本質であるという気づきを得ることができたなら、今回のカンファレンスを実施した意義のひとつになるでしょう。
筆者紹介
 


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鈴木敦詞(りんく考房)
マーケティングエージェンシー、リサーチ会社を経て独立しフリーランスとして活動。
マーケティングおよびリサーチに関する業務支援や研修を主に行う。また
blog/Facebook「マーケティングリサーチの寺子屋」を通じての情報発信や執筆活動、
大学非常勤講師も勤める。
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