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アニュアル・カンファレンス2019レポート 第3回

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3回目となるJMRAカンファレンス2019レポート。今回は株式会社ZOZO執行役員 コミュニケーションデザイン室 室長の田端信太郎氏による基調講演「マーケティング・リサーチをマーケティングするには!?」についてお届けします。

マーケティング・リサーチは門外漢で発注側の立場だったという田端氏。リクルート時代にR25を立上げた当時は、グループインタビューを行った際に、事前に立てていた仮説が刺さらなくてガッカリし、マジックミラーの裏側で膝をつきそうになったこともあったそうです。
そんな田端氏が今回提言したいのは、エポックメイキングだったネットリサーチの登場から20年余り、今またマーケティング・リサーチ業界にパラダイムシフトが起きているのではないかという話です。MR業界の外側から悪役レスラーのように言わせていただくとのことで、私のように業界に身を置きながらリサーチとは少し離れた業務に携わっている人間からすると非常に興味深いテーマです。

田端氏はこれまで立上げた様々なメディアの媒体資料を作成してきました。その資料をもとに、広告主に営業をかけていくわけです。その立場からすると結論ありき、語弊があるかもしれませんが、嘘じゃない範囲でいかに広告売り上げにつながるリサーチ結果を出してストーリーを組み立てていくか、ということばかり考えていたとのことです。「統計的に正しいかどうか」や「バイアスがかかっている」とか「調査手法が云々」など大事な議論だとは思うが、ビジネスパーソンの立場からすると、マーケティング・リサーチの結果は、正しさが目的ではなく、単に利用するものなので、こちらが思っている意図を出してくれればいいとのことです。

マーケティング・リサーチ業界の人からすると、さもすると暴論のように聞こえるかもしれませんが、発注サイドの声はこのような意見が多いのかもしれません。
そもそもなぜ、マーケティング・リサーチが発注されるのでしょうか?
マーケティング・リサーチ業界の人がマーケティング・リサーチ業界をリサーチしたケースってあまり見たことがありません。例えばマスコミがよく霞が関の残業問題や正社員と派遣社員やアルバイトの待遇の差などを扱っていますが、そういうことを言っているテレビ局自身や新聞社はどうなのか?同じようなことがマーケティング・リサーチ業界にも言えるのではないか、マーケティング・リサーチ業界自体にもリサーチを行うことが必要なのではというのが田端氏の主張です。

ここからマーケティング・リサーチの問題点についての話になります。

・(今となっては)低いスピードかつ高コスト
新商品のリリースのためにマーケティング・リサーチを行うことで、3カ月市場参入遅れて損害が出る可能性がありますが、失敗した時にマーケティング・リサーチの結果がアリバイ(保険)になります。ただ、保険として考えるなら安くて早いほうがいいですよね。
客観的にみて、確かに保険として考えるだけなら早くて低コストの方がいいかもしれません。

・各社横並び

ー発注者サイドからだと各社それほど差別化されていない。
確かに通常のリサーチメニューは各社対応できる状況です。差異があるとすればセルフアンケートツール提供の有無や、データマーケティングへの対応状況でしょうか。

・ビジネスマインドの欠如
ーネット調査へのシフトの渦中で起こった様々な議論、例えば調査結果にバイアスがかかっているみたいな…。
学術的にはそうでしょうがビジネス的には何も問題ない。
これについては先ほども話が出ましたが、我々は発注者のニーズを拾い損ねている可能性があるのかもしれません。

・トレンドへの対応の遅さ
ーオンライン化・スマホ化いずれも市場調査業界の内側の動きは遅い。市場はすでにスマホファーストになっており、率先して進めるべきなのに、なんらかの理由で遅くなっている。
私も内部にいて同様の思いでしたが、これについてはクライアント側の意識改革も合わせて進め、調査票をスマホに最適化しないとアンケート画面が見づらくなるなど、複数の理由がありますね。

・無駄な議論

ー手法の議論が多い。クライアントからすると手法はどうでもよく、どうやるかより何をなんの目的でやるのかが大事。例えばタクシーに乗る時に電気かガソリンかを気にするか?客は誰も気にしていない。
自動車の話が出ましたが、日本の自動車稼働率は5%に満たない状況で、動力源よりもライドシェアや自動運転の方が業界へのインパクトが大きいです。自動車業界のようにマーケティング・リサーチにも質的変化がくるのでは、というのが田端氏の主張です。

田端氏によると、かつてマーケティング・リサーチの意義は、新規プロジェクトを行う際のリスク低減でしたが、現在では他にもリスクを下げる方法があるそうです。とあるブランドの医療現場で使用されるグレードの高純度チタン素材フォークナイフは、MRでクラウンドファウンディングを使い資金を集めたそうです。目標額の3倍以上の額が集まったそうです。

市場の反応を見つつ資金も集められるクラウドファウンディングと、ある程度のコストを払って行うマーケティング・リサーチ、今回の例ならばクラウドファウンディングを選択するかもしれません。

全ての消費者が手元にスマホを持っていて、全ての家電がIoTで繋がり始める今、産業全体のリ・ワイヤリングが起きています。例えばAmazon dash。冷蔵庫に貼れる発注ボタンを消費者がお金を出して買ってくれます。広告枠自体がサービスに組み込まれており、消費者は広告とは思っていません。仕入担当はボタン押された回数で仕入れが可能です。残念ながらAmazon dashのサービスは終了予定ですが、IoTが今後普及した時、おそらく同様のサービスがあちこちで始まるのではないでしょうか。

今後企業と消費者が常時接続で繋がることによって、サンプル調査ではなく全数調査、消費者と双方向にやり取りができ、動的な自動最適化が行われるようになります。そうなった時、もうモニターさんに対面で聴く必要性が全くなく、よりバイアスがかかってない実データがどんどん集まっていく時代になるでしょう。

田端氏のこの意見について、実は以前より同様の話がマーケティング・リサーチ業界でもかなり議論されています。多少のズレこそあれ、基本的にはこのような方向に向かっていくのかもしれません。そうなった場合、競合はマーケティング・リサーチ業界内ではなく、GAFAなどのデータを大量に持っている企業になります。大量のデータを分析することにより、市場調査から市場予測、あるいは市場創造を行う業種に変化し、業界の垣根や範囲がこれまで以上に広がり、また異業種からの参入も増えていくでしょう。今後10年でマーケティング・リサーチ業界がどのように変化していくのか、怖くもあり楽しみでもありますね。
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