いかなる形態の近代社会においても,あらゆる種類の財やサービスに関して,供給者と消費者の間の効果的なコミュニケーションは極めて重要なことである。国際的な連携がますます深まっている中で,それは更に必要不可欠なものとなってきている。消費者が必要としているものを最も効果的に供給するために,供給者は消費の様々な要求をつかんでいなければならない。つまり,いかにして消費者の要求を最大限に満たすのか,そして,いかにして供給する財やサービスの本質を最も効果的に訴えていくかということである。
これがマーケティング・リサーチ(市場調査)の役割である。マーケティング・リサーチは,経済の分野で官民どちらの部門でも利用されているが,同様のアプローチは別の研究分野でも使われている。例えば,政府,公共団体,マスコミ,教育・研究機関などが実施する社会,政治,その他の諸問題に対する公衆の行動や態度を測る調査が挙げられる。マーケティング・リサーチと社会調査は調査目的が異なることが多いが,対象領域,手法,運用上の問題に多くの共通点を持っている。
このような調査は,公衆の信頼に依存している。その信頼とは調査が公正かつ客観的に,調査対象者の生活に不本意に立ち入ったり,不利益をもたらすことなく遂行され,調査対象者の自発的な協力に基盤を置いているということである。この信頼は,マーケティング・リサーチの実施方法を規制する適切で,専門的な「綱領」によって保証されるべきである。
このような最初の「綱領」は,「ヨーロッパ世論・マーケティング・リサーチ協会(ESOMAR)」により1948年発行された。
我が国においても,こうした「綱領」の必要性は早くから認識され,1975年「日本マーケティング・リサーチ綱領」が産・学界を代表する67名の識者により起草され,代表的なマーケティング・リサーチ関係者により採択された。それは,マーケティング・リサーチ活動の国際性を配慮し,世界各国で採択されている「ICC/ESOMAR国際綱領」に準拠したものであった。
1986年,日本マーケティング・リサーチ協会が社団法人として設立された際,上記の綱領は「マーケティング・リサーチ綱領」として若干の改訂の上制定された。
その後,マーケティング・リサーチ新技法の出現,個人情報保護を中心とする法律の制定,急速な国際化の進展などの社会環境変化に対処するため,社団法人日本マーケティング・リサーチ協会は数年にわたり,「マーケティング・リサーチ綱領」の検討をすすめる一方,「ICC/ESOMAR国際綱領」の日本における採択機関としての立場から,ESOMARが同様な目的ですすめている同綱領の改訂作業にも参画してきた。
1995年,「ICC/ESOMAR国際綱領」が改訂されたのを機会に,マーケティング・リサーチの国際性をより強く考慮し,「マーケティング・リサーチ綱領」を改訂する。
この「綱領」は,マーケティング・リサーチを実施・利用する者の行動基準となる基本原則を定めたものである。
マーケティング・リサーチに関与する者は,この事実を深く認識し,「マーケティング・リサーチ綱領」を行動規範として採択し,社会的信頼の高揚と普及に努めなければならない。
| 第16条 |
リサーチャーとクライアント相互の権利及び責任は,通常リサーチャーとクライアント間の契約書によって定められる。当事者間の事前の合意があれば,下記の第19条〜第23条に限り修正できる。しかし,本綱領のその他の条項をこのような方法で修正してはならない。また,マーケティング・リサーチは,常に一般に理解・受容されている公正な競争の原則に基づいて実施されなければならない。 |
| 第17条 |
リサーチャーは,クライアントのために実施する作業が,同一プロジェクトの中で他のクライアントのための作業と合同またはシンジケートで行われる場合,その旨をクライアントに告げなければならない。ただし,他のクライアントの身元を明らかにしてはならない。 |
| 第18条 |
リサーチャーは,リサーチャーの組織外の二次契約者にクライアントの仕事の主要な部分を依頼する場合は,すみやかにクライアントにその旨を伝えなければならない。
また,クライアントの要求があれば,その二次契約者の身元も知らせなければならない。 |
| 第19条 |
クライアントは,リサーチャーあるいはその組織のサービスの全て,または一部を独占的に使用する権利を有しない。
ただし,異なるクライアントに対して業務をすすめる際には,リサーチャーはこれらクライアントに提供されるサービスによって,起こり得る利害の衝突を避けるべく努力しなければならない。 |
| 第20条 |
以下の記録はクライアントの所有物であり,リサーチャーはクライアントの許可なしにいかなる第三者にもそれを開示してはならない。
a)クライアントが提供したマーケティング・リサーチの指示書,仕様書及びその他の情報。
b)マーケティング・リサーチプロジェクトの調査データ及び結果(同一のデータが複数のクライアントに提供されるシンジケートあるいは複数クライアントのプロジェクトやサービスの場合を除く)。
ただし,あらかじめ調査対象者の明確な許可がない場合,クライアントには調査対象者の名前や住所を知る権利はない(この条項については,第16条の規定にかかわらず,変更することはできない)。 |
| 第21条 |
特に同意がない限り,以下の記録はリサーチャーの所有物である。
a)マーケティング・リサーチの提案書及び見積書(クライアントがこれらを作成するためだけの費用を負担した場合を除く)。
クライアントは,これらの提案書,見積書をこのプロジェクトに関して,クライアントのコンサルタントとして機能している者以外のいかなる第三者にも開示してはならない(ただし,そのコンサルタントがリサーチャーの競合者のためにも機能している場合には,開示してはならない)。特に,クライアントはこれらを他のリサーチャーの提案書または見積書に影響を及ぼすような使用をしてはならない。
b)リサーチャーが,主体的に実施したシンジケートやマルチクライアントのプロジェクトまたはサービスの報告書の内容。クライアントは,リサーチャーの許可なしにこのような調査の結果をいかなる第三者にも開示してはならない(クライアントが自らの仕事のために使用するコンサルタントやアドバイザーへの開示を除く)。 c)リサーチャーにより作成された,全てのリサーチに関する記録(シンジケートプロジェクト以外の報告書ならびにクライアントが開発費用を負担した調査設計及び質問票を除く)。 |
| 第22条 |
リサーチャーは,プロジェクト終了後「主要な記録」を1年間保管しなければならない。要請があれば,リサーチャーはこれらの記録の複写をクライアントに提供しなければならない。ただし,これは,記録が匿名性と機密保持に関する条項(第4条)に違反せず,合意された記録の保管期間内であり,また複写を作成するための適正な費用をクライアントが負担する場合に限る。 |
| 第23条 |
リサーチャーは,クライアントの承諾なしにその身元及びその事業に関する機密情報をいかなる第三者にも開示してはならない。 |
| 第24条 |
要請があればクライアントがそれに伴う追加費用を負担することを条件として,リサーチャーはクライアントがフィールドワーク及び集計の品質を点検することを認めなければならない。ただし,どのような点検をする場合でも,第4条の条項を遵守しなければならない。 |
| 第25条 |
リサーチャーは,クライアントのために実施したマーケティング・リサーチプロジェクトについて,全ての適切な技術情報を詳細にそのクライアントに提供しなければならない。 |
| 第26条 |
リサーチャーは,マーケティング・リサーチプロジェクト結果の報告の際には,調査結果自体とそれに基づくリサーチャーの解釈や提案とを明確に区別しなければならない。 |
| 第27条 |
マーケティング・リサーチプロジェクト結果が少しでもクライアントにより公表される場合,クライアントには結果が誤解を招くものでないことを確認する責任がある。 リサーチャーは,事前に公表の形式及び内容について相談を受け,合意しなければならない。また,調査方法及びその結果についての誤解を招くようないかなる表現でも,訂正するための措置を講じなければならない。 |
| 第28条 |
特定のマーケティング・リサーチプロジェクトが,全ての点において本綱領の規定に従っているという確信がもてなければ,リサーチャーはそのプロジェクトが本綱領を遵守して実施されたという保証として,自己の名前が使用されることを許してはならない。 |
| 第29条 |
リサーチャーは,クライアントが本綱領の存在及びそれを遵守する必要性を認識していることを,確認しなければならない。 |