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2017.08.31

委員会

【ISO】ビッグデータ解析市場開拓に挑む新国際規格ISO19731

市場環境変化: 伸長している「その他」市場とは?

 この7月に公表されたJMRA『第42回経営業務実態調査』によると、わが国の市場調査業界の2016年度市場規模(推定)は前年比107.9%と久々に高い伸び率を示した。特に、母数は小さいものの「その他」手法が144.7%と大きく伸長し、11.2%のシェアを得たことが特筆されている。近年のトレンドとしては、質的調査と「その他」が伸び、量的調査が相対的に縮小している傾向が見てとれる(図表1)。



 国際的にも、2013年以降に量的調査のシェアが漸減し、「その他」に移行している様子がうかがえる。この「その他」の中には、もともとデスクリサーチや統計データの2次加工等が含まれていたが、最近ではビッグデータの解析を含む「従来のサーベイによらないデータ分析」が伸びていることが報告されている(図表2)。

TC225/ISO20252ファミリーの中のISO19731

 さて、そのような背景を踏まえた上で、当業界が直面する課題への対処策につき、ISOの視点から考えてみたい。
すでにご存じの方が多いと思われるが、「ISO20252市場・世論・社会調査-用語及びサービス要求事項」は、調査分野に特化した国際的な品質管理基準である。この関連規格としてISO26362(アクセスパネル)という調査モニター組織の品質管理基準があり、2018年末を目途にISO20252に統合されることが決定している。加えてこの6月、「ISO19731(市場調査を目的とした)デジタル分析とWeb解析」という新規格が制定・発行された。原文は英語のみであるが、早速7月に(一財)日本規格協会より英和対訳版が出版されている*1)。
 なお、これらのISO規格を所管しているのがTC225という国際技術委員会で、市場調査に関わる国際規格群を便宜的に「ISO20252ファミリー」と称している。

ISO19731の構成と適用範囲・目的

 ISO19731の章立ては以下の通りである。

 序文
1. 適用範囲
2. 引用規格(→ ISO20252)
3. 用語及び定義(42項目:ISO20252との重複あり)
4. 調査プロジェクト管理の要求事項
5. 提案書の提出
6. プロジェクトの実施

 この規格が対象とする市場は、「デジタルデータや記述等の分析」と総称することができる。近年拡大を続けるインターネット上のデータ集積(≒ビッグデータ)を読み解くにあたり、Webデータ等の収集・分析・報告に関するルールを策定し、そこに品質管理の考え方を注入・担保して、健全な市場拡大を図ることを目指している。具体的には、
 ・Webサイトの訪問者の行動収集・測定と分析
 ・クッキーを用いた対象者の行動追跡・測定と分析
 ・SNS利用者のコメント等の記録・測定と分析
が主な領域となる。デジタルデータを扱う調査サービスの質を評価できる、基準を提供するものである。

ビッグデータ解析市場参入への「通行証」

 ISO19731制定のねらいの1つに、市場調査業界としてビッグデータ解析市場への参入を宣言し、浸透を図ることがある。実はESOMAR国際綱領の改訂や、JMRAの産業ビジョン(2017)も同じ文脈上にある。
 ビッグデータに関わる領域にはさまざまな業界が触手を伸ばしているが、ISO規格を発行させたのは(おそらく)当業界が初めてである。もちろん、国際規格を作ったからといってそれが直ちに営業面でのオールマイティになるわけではないが、少なくとも市場調査の領域においては、当業界がその一翼を担うことの国際的な「お墨付き」を得たという点で、「通行証」としての役割は十分に果たせるものと考えている。
 今後、ISO19731を錦の御旗として、各種ガイドラインや手順書の整備等を通じた業務標準を確立していくとともに、当業界としてビッグデータ解析領域の主導権を握ることを目指していきたい。

ISO19731の具体的な要求事項

 ISO19731の主な要求事項は図表3に示す通りである。ベースとなるのはISO20252で、そこにデジタルデータ解析ならではの専門的なチェック項目を付加していくものと考えて差し支えない。まだ数値目標等はほとんどなく、発展途上にある点は否めないものがあり、われわれの実践を通じたベストプラクティスの蓄積が求められているところである。

日本市場での今後の対応

 率直なところ、この市場は日本ではまだまだ不透明でプレイヤー群もはっきりせず、品質管理以前の段階かも知れない。(一社)データサイエンティスト協会が技術の定義や人材育成の観点で先行しているが、リサーチ領域との重なりはごくわずかである。当面は、JMRAを中心とした啓蒙・普及活動に取り組む必要がある。
 ①当業界としてこの新規格を遵守することを「自主宣言」し、②環境を整えながら認証体制の構築につなげていくことが考えられる。③市場調査の周辺領域でこうした分析に取り組んでいるプレイヤーとの連携や取り込みも検討していかなければならない。④具体的な分析事例やアイデアを収集し、勉強会や研修会等に展開していくことも必要と思われる。興味・関心をお持ちの会員社の参画をお願いしたいところである。

新ISO20252(改訂後)をにらんで

 一方、日本も参画するTC225では、本規格のベースとなるISO20252の改訂検討作業が進んでいる*3)。前述のようにISO26362(アクセスパネル)の統合を含めて大幅な改訂となる見込みである。今後、ISO19731が単独で認証体制を構築することは少々困難が予想されるため、ISO20252と同様のスキームを用意するとともに、将来的にはISO20252に統合していくことが想定される(図表4)が、詳細は稿を改めることとしたい。



  ただし、ビッグデータ等のデジタルデータ群の解析ニーズが今後ますます増大していくことに疑問の余地はなく、JMRAとしてもこの市場の成長と取り込みに賭けているところがある。ISO20252の改訂(2018年末を目標)待ちでは、時機を逸する恐れがある。
 そのため、従来のISO20252普及の取り組みに拍車をかけ、かつ、それと連動させて業界を挙げての取り組みにつなげたいと考えているところである。引き続き会員社間の議論喚起に努めていくこととしたい。


*1) (一財)日本規格協会のホームページより購入可能。
『ISO19731 英和対訳版』19,000円(消費税別)
*2) TC225と協力関係にあるTC69(統計)では、本年6月の総会でビッグデータ分析関連の国際標準を作成するためのワーキンググループ(WG4)“Big Data Analytics” を発足させることが正式決定された。
*3) 過去のTC225国際会議の動向についてはJMRAのホームページを参照。

執筆者

一ノ瀬 裕幸(いちのせ ひろゆき)
(株)インテージを経て2017年より独立コンサルタント。
2007年の旧ISO20252認証協議会発足時より委員長を務める。