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たいとる

Withコロナ時代に向けたリサーチ業界の準備 第7回

ほんぶん

~マーケティング・リサーチ業界のグローバル・トレンド レイ・ポインター氏の講演より~

前編:コロナによる状況と世界のマーケティング・リサーチ業界

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子

レイ・ポインター氏は、世界のマーケティング・リサーチ業界で、最も尊敬されるソートリーダーの一人です。ESOMARの評議員である氏は、ESOMARから出版される世界のリサーチ業界レポートであるグローバルマーケットリサーチ(GMR Global Market Research)や価格調査(Global Prices Study)、またESOMAR同様に世界のリサーチの先端情報の発信源であるGREENBOOK社のGRIT(Greenbook Research Industry Trend) REPORTといった世界的な業界動向レポートの執筆陣の一人でもあります。
さまざまなグローバルカンファレンスで、自身の主催するサイトNew MRで、世界のリサーチ業界に向けて発信を続けています。
親日家の氏は、毎夏日本を訪れ、その際にリサーチャーの自主勉強会であるJMRX主催のイベントでマーケティング・リサーチ業界のグローバル・トレンドについて講演をされています。今年は、コロナによる影響でイギリスから日本に向けてのオンライン開催となりましたが、リサーチ業界の今後と我々がとるべき「備え」について講演されました。
今回の記事は、9月29日夜に開催されたレイ・ポインター氏の第112回JMRX勉強会での講演内容を編集してお届けします。

*前編と後編(11月中旬掲載)に分かれており、第7回が前編となり、第8回が後編となっています。

もくじ switch 2
1.コロナ(COVIT-19)の現状と予測

リサーチ業界動向の話の前に、まず、フィナンシャルタイムズのデータを使って、世界の感染状況についての話から始まりました。コロナ禍は、世界経済そしてマーケティング・リサーチ業界にも大きな影響を与えています。
 中国から始まった感染は、ヨーロッパへ、そしてアメリカに拡大。インドでの犠牲者増加し、南北アメリカにおいても引き続き犠牲者が爆発的に増加する状況が続いています。第二波も懸念されています。
 世界の各地域のGDPの推移と予測図はリーマンショックをはるかに超えるレベルで下降し、その影響は米国や先進国への打撃がより大きいだろうことが予測されています。
 世界主要国の失業率の長期トレンドでは、2020年に激増。日本は他国よりも失業率は低い水準ですが、日本政府は歴史的な景気後退を(-28.1%)予測しています。(9月29日時点の情報) 

今後経済が、急速に回復するのか、長期の不況が続くのかはまだわかりませんが、そのような状況においても勝者がいます。2018年に1兆ドル超えの企業となったAppleは、2020年9月には2兆ドルを超えました(株価は134%に上昇)。アマゾン(1.65兆ドル)、マイクロソフト(1.61兆ドル)もそれに続き、株価も前年より大きく伸びています。ウォルマートは、ECの伸びなどを受けて売上も堅調。そのほか、AMD、Nvidiaなどのテクノロジー産業、ネットフリックスなども好調です。

2021年の世界はどうなるのか

コロナは収束するのか、しないのか。ワクチンはできるのか、できないのか。また、世界経済は、回復に向かうのか、さらなる下降がみられるのか。日本経済はどうなるのか。この不確定な状況をより一層不確定にさせる要素もあります。例えば、米国vs中国、イギリスvs EUなどの経済摩擦、フェイスブックやGoogle、WeChat、Tik Tokの問題から始まるビッグデータ規制、さらに、火山噴火、戦争、津波、地震、大規模火災、ITの機能停止、テロ、小惑星など天変地異の可能性すらあります。
不確実な将来について考えるとき、レイ・ポインター氏は、シナリオ・シンキングという方法で考えていきます。具体的には、ウイルスを制御できる、できない、そして不況が短い、長びくというパターンを掛け合わせ、4通りの将来予測のシナリオを描き、そしてそれぞれの状況を想定して準備をすることが必要だと述べています。

2.世界のマーケティング・リサーチ業界
以下は、コロナ以前に実施されたESOMARのGMR (Global Market Research)2019、GREENBOOKのGRIT(Global Research Industry Trend)レポート、NewMRの独自の調査をもとにした、世界のマーケティング・リサーチ状況の将来予想図です。コロナ以前の世界全体のマーケティング・リサーチ業界は、調査支出全体で、約900億ドル (899億ドル)の規模でした。世界の調査費の52%を米国($47,136)が占めています。米国はテクノロジー系企業が多く、テクノロジー系のリサーチの成長が牽引しています。続いてイギリスが7%($6,449)となっています。以下、ドイツ($2,583)、中国($2,472)、フランス($2,424)が各3%ですが、遠くない将来中国がドイツを抜き4位になることが予想されています。日本($2,082)はフランスを少し下回っていますが、ドイツ、中国、フランス、日本のそれぞれの差は大きくありません。

調査のタイプ別内訳を世界的にみると、伝統的な調査(いわゆる定量調査、グループインタビュー、デプスインタビューなど)は、リサーチ市場の49%、半分以下でしかありません。
(ESOMAR Global Market Research 2020より)



(ESOMAR Global Market Research 2020より)

テクノロジー系 (デジタルデータ分析、DIY型調査、企業内の自主調査、ビッグデータなど)が26%、レポーティング (コンサルティング会社、ガートナーやフォレスターなどの発行するシンジケート調査、業界レポートなど)が21%となっています。北米地域に限ると、テクノロジー系の占める比率が31%とさらに大きく、伝統的調査は43%でしかありません。一方、アジア・パシフィックでは、伝統的調査は81%と多くを占めています。(日本は、77%)
3.コロナ以前のマーケティング・リサーチ業界のトレンドとそこからの変化
コロナ前まで注目されていたトレンドには以下の領域があります。
コロナの問題が起こる前、マーケティング・リサーチ業界は、テクノロジー系リサーチに牽引されて成長していました。コロナがなければ、このような未来図でした。
 ・ 動画活用の加速
    アプリやスマートフォンを活用しビデオの活用。
 ・ 調査のフィールドワークのオプションの増加
    リバーサンプリングをはじめとした新しいパネルの調達方法が低価格化へのニーズに乗って広がると同時に、パネルの品質改善の要望が強まる。
 ・
M&A(吸収合併) 
    巨大な世界的サプライヤーの誕生。この傾向は、コロナで一旦停止したあと、再開している。 
 ・ X エクスペリエンス(経験)領域 
    ユーザーエクスペリエンス(UX)、カスタマーエクスペリエンス(CX)に加え、ヒューマンエクスペリエンス(HX)というユーザーやカスタマーよりも広いヒューマンを扱う領域が注目される。
 ・ アジャイル 
    アジャイルとは何かの明確な理解がないままに注目される。
 ・ イノベーション 
    バイオメトリックス、IoT、ニューロサイエンス、フェイシャル・コーディング、マシンラーニングなどの領域に注目が集まっていた。(しかし、今そこに変化がみられる。)
4.Withコロナ時代のマーケティング・リサーチ業界のゆくえ(1)
日本のマーケティング・リサーチ業界は、2018/-2019年は 105%の成長の予測でしたが、2020-2021年にかけては、大きな減少が予測されています。(-18%:JMRAの予測)ESOMARがJMRAを含む世界のリサーチ業界団体と実施したリサーチバイヤー(クライアント対象)調査(2020年9月実施)の速報値では、 予算を削減する 40% 変わらない 38% 増加する 22% となっています。 つまり、予算が削減されるなかで仕事は減るわけではないということで、より多くの課題を、より少ないリソースで対応しなければならなくなっているといえます。 今後、下火になと予想されるものは、以下のものです。

下火になるもの 
 ・ あらゆる対面調査 
 ・ 大規模トラッキング調査 
 ・ これまでのレポーティングスタイル
 ・ 輝かしいリサーチの新兵器(AR拡張現実、ニューロサイエンス、バイオメトリクス、表情解析 など) 
 ・ オートメーションに組み込まれないAI(人口知能) 
これまで注目されてきたイノベーション領域も、予算が削減される中で多くの問題解決をしなければならないという流れの中で、苦戦が予測されています。

一方、ホットになることが予想されている分野は以下のようなものです。

ホットになるもの
 1) オートメーション(AI、Augmented Intelligence拡張知能を含む) 
 2) デジタル定性と動画 
 3) アジャイル
 4) ヒューマン・クスペリエンス(HX) 
 5) (データではなく)ストーリーを見つけて伝えること 
 6) 統合的ソリューション(Integrated solutions) 
 7) リサーチの内製化(Bringing research internal) 


それでは、第7回(前編)はここまで。

こうへん switch 2

第8回(後編)では、今後ホットになるものについて、1つずつ見ていきます。
第8回(後編) につづく)

掲載日

(2020.10.16掲載)