5.Withコロナ時代のマーケティング・リサーチ業界のゆくえ(2)
前編では、今後、With コロナ時代のマーケティング・リサーチ業界でホットになることが予測される分野として、以下のものをご紹介しました。
今後ホットになるもの
今後ホットになることが予測されているのは以下の分野です。
1) |
オートメーション(AI、Augmented Intelligence拡張知能を含む)
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2) |
デジタル定性と動画 |
3) |
アジャイル |
4) |
ヒューマン・クスペリエンス(HX) |
5) |
( データではなく)ストーリーを見つけて伝えること |
6) |
統合的ソリューション(Integrated solutions) |
7) |
リサーチの内製化(Bringing research internal) |
それでは、今後ホットになるものについて、1つずつ見ていきます。
1)オートメーションはどのように進行するのか
より多くの仕事を、より少ない時間とコストで実施することが必要になるため、オートメーションの進歩がみられることになるでしょう。オートメーション化は、以下のようなところに現れてきます。
オートメーション化の進行
- 作業の標準化・平準化(Standardization)を図る
- アプリとプラットフォームの幅広い活用
- 繰り返し系のルーチンタスクはAIや機械学習に移行
- 拡張知能 人の生産性を上げるためのマシン利用がすすむ
- その場限りのタスクはアウトソースする
2)デジタル定性と動画活用の発展
オンライン・ディスカッション、ビデオダイアリー、オンラインGI、動画を取り入れたサーベイ、スマートフォン・エスノグラフィーなどを総称してデジタル定性といいます。
デジタル定性と動画活用が発展する要因としては、以下の点があげられます。
デジタル定性と動画活用の発展の要因
- 膨大なデータが集まるようになれば、(その解釈のために)定性のニーズが増す
- 対面調査は、今は難しい
- ツールやアプリの進化
- 数値だけでなく動画があることによってマネジメント層の理解が進む
3)「アジャイル」についての大切なルール
アジャイルとはどういうことなのか、よくわからないまま言葉が使われています。「アジャイル」を理解するためには、まず、次のことを頭に入れておくべきです。
アジャイルなマーケティング・リサーチは、単体では存在しえません。アジャイルを可能にするために組織全体に組み入れるものです。つまり、アジャイルとは、何か1つのことに対してスピードをあげるということではなく、すばやい意思決定を可能にするために組織全体の変化(アジャイル化)が必要とされるということです。
「アジャイル」なマーケティング・リサーチとは
- アジャイルなマーケティング・リサーチは組織内の意思決定を早くすることに貢献するものである
- ブロッカーでなく、コーチであるべき(ものごとをストップさせるのではなく、道を示すべき)
- それぞれの言葉で聞き、それぞれの言葉で結果を伝える
(例えば、クライアントにはクライアントの用語で話してもらい、クライアントの用語で伝えるべき。
リサーチ業界の用語ではなく、相手が理解しやすいように合わせるべき)
- フレキシブルであれ。ベストに執着しないで、GEMO(Good Enough, Move on:十分だ、先に行こう)の精神で柔軟性をもつこと
4)ヒューマン・エクスペリエンス
ユーザーエクスペリエンスやカスタマーエクスペリエンスなどの調査が流行りましたが、ユーザーやカスタマーよりもさらに広く「人間」全体を捉えるヒューマン・エクスペリエンスというアプローチです。
顧客も人間、従業員も人間、人間を理解できない人にビジネスを理解することは不可能だ。
- サイモン・シネック (ベストセラー作家)
自社製品の顧客を見つけるのではなく、顧客のための製品を見つけるのだ。
- セス・ゴーディン (ベストセラー作家)
ブランドを中心に、その周りを人が行ったり来たりしているのではない。
人間の周りをブランドが行ったり来たりしているのだ。
- レイ・ポインター
5)ストーリーを見つけ、伝える (Story Finding and Communicating)
データが多すぎる時には、人々が言ったことすべてをレポートしても何も伝わりません。大切なのは次のようなことがしっかりと伝えられることです。
伝えるべきこと
- それが意味することは何か?
- なぜそう言ったのか
- 次に起こるべきこと
また、リサーチャーは、翻訳者でなければいけません。では、翻訳とはどういうことでしょうか?
リサーチャーのすべきこと
- ビジネス課題をしっかりと理解し、それをリサーチ課題に翻訳する
- リサーチデータからストーリーを見つけだし、それを(リサーチ業界ではなく)ステークホルダーの言葉に翻訳する
このように、データの中からストーリーを見つけ出し、それを伝わるように伝えるという技術は、リサーチャーに必須のものとなっています。
Finding and Communicating the story in the data(データの中にあるストーリーを見つけ出し、伝える)というレイ・ポインター氏のセミナーは、リサーチャー対象の研修メニューとして世界各地で実施されています。JMRAでも今後日本での開催を目指しています。
6)統合的ソリューション
「統合的なソリューション」とは、どのようなものでしょうか。クライアントの組織(または自社の組織)において、下の図のようにあらゆるデータが集約されているところをイメージしてください。
統合的ソリューションには、以下のことが必要です。
統合的ソリューションのために必要なこと
- 組織のサイロ(連携せず孤立した部門ごとの垣根)を打破し、インサイトやナレッジは組織内の誰もがアクセスできるようにする
- 組織のあらゆるところからデータを集める
- その結合したシステムの中心は、あくまでも人間である
- あなたのもっているパーツ(部分的な情報)を、より大きな組織全体図の中にあてはめてゆく

7)リサーチ内製化とサプライヤー(調査会社)のニーズ
リサーチは、クライアント社内で内製化される方向にあります。
ESOMARと各国のパートナー(JMRA含む)が本年実施したリサーチバイヤー(クライアント対象)調査の速報によると、現在、外部への発注(62%)と内製化(38%)の比率は、大体6:4程度ですが、今後の内製化への変化については、「内製化が増える」(42%)との回答が目立っています。
(変化なし 45%、減少する8%、不明 5%)
リサーチはクライアント社内で内製化される方向にありますが、そうはいっても、すべてを自社で対応することは非現実的で、リサーチ会社によるサポートが必要になります。サポートが必要なのは次のようなエリアといえるでしょう
- セルフサービス(DIY)調査のためのプラットフォームの利用
- データのビジュアライズや統合のためのツール、
- デスクリサーチや難しいプロジェクトのサポート要員
- クライアント常駐スタッフや一時ヘルプ要員の派遣
このようなニーズに応えるために、フリーランスやパートナーの需要も増すと思われます。