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ESOMAR Connect Japan 2023イベントレポート


2023年5月25日(木)、GMOリサーチ社の渋谷フクラスオフィス16Fにて、ESOMAR Connect Japan(旧名称:ESOMAR Best of Japan)が開催されました。このイベントは、ESOMARの掲げる「IMRD( International Market Research Day:国際市場調査デー)」にちなんだ連携企画です。4名による講演発表をメインコンテンツとする本イベントは、JMRAが主催/共催するイベントとしては、コロナ・パンデミック以来初となるオフラインも交えたハイブリット形式での開催となり、GMOリサーチ社とESOMARの協力のもと、オフライン参加者112名、オンライン参加者が91名、合計203名の参加がありました。

「生成AI×サイバネティック・アバター」がもたらすメリットとリスク

最初の講演は「マーケティングリサーチにおけるサイバネティック・アバター活用の可能性とルール作りへの布石」、新保史生氏(慶応義塾大学 総合政策学部 教授)による発表です。

これまで20年にわたりJMRAの外部理事を担い、憲法・情報法・ロボット法のプロフェッショナルである新保氏は、市場調査業界におけるサイバネティック・アバター(CA)の活用の可能性について語ります。昨今話題になっている生成AIとロボットの組み合わせは非常に強力で、自立型ロボットに生成AIが搭載されて調査をするようになると、従来の調査手法とは大きな変化が起こり環境が一変するだろうと予想します。

新保氏は、リサーチ業界におけるCA活用のメリットについて、ご自身が関わられているムーンショット研究開発プロジェクトやロボット工学者の石黒浩氏と研究を進める対話知能システム学などの成果を踏まえて、次の4つを紹介しました。

<サイバネティック・アバター(CA)の活用がもたらす4つのメリット>

  1. 人的不足への開発
  2. BCP(事業継続計画)
  3. 人的コストの低減
  4. イノベーションの促進

講演の最後に新保氏は、「私たちは生成AIやCAのような新しい技術を使っている一方で、『利用されている』側面があることを認識したほうがよい」と述べた上で、「今後はCAの使用にあたって、第三者による認証・公証制度の重要性が増していく」「JMRAなどの業界団体がそうした制度の管理や仕組みづくりを担っていただきたい」と期待を寄せました。

クッキーレス時代の生成AI活用法

つづいて登壇したのはTeads Japan、Head of DataのBenjamin Rehberg氏。日本だけでなく、APAC全体のターゲットソリューションについて、クライアントのターゲティング戦略支援や新しいソリューションの開発・改善・導入に携わっています。Teads社は、フランスのアドテック企業で、世界のプレミアムパブリッシャーにシングルアクセスできるメディア・バイイング・プラットフォーム(ウェブ上の広告枠を購入するためのツール)を提供しています。日本でも400社以上とのネットワークを持ち、日経BP社やファッション、ビューティー、ライフスタイル、スポーツや趣味など、幅広い領域にリーチしています。

Rehberg氏は「クッキーレス=データレスの世界となるのか?」と題したプレゼンの中で、 Apple社がSafariブラウザにクッキーを使用しないように対策を講じたことなどを例に、世界的にクッキーレス化が進んでいることに言及します。日本でもiPhoneの普及などの影響により、およそ55%がクッキーレスの状況になっているとのこと。

このようなクッキーレスの課題に対し、 Rehberg氏はTeads社が提供する「ポートフォリオアプローチ」という新しいソリューションを紹介します。これは、ユニークIDやパブリシャーのファーストパーティデータ、予測ターゲティングなどを組み合わせたもので、分析・予測によってオンライン上のユーザーをターゲットにする手法です。このソリューションには独自の生成AI技術が活用されており、既にクッキーベースと同等か、より優れたパフォーマンスを発揮しているのだそうです。ビジネスシーンやオンライン環境の変化から新たなイノベーションをうみだす上でも、ますますAI活用の重要度が高まっていることを感じさせるプレゼンテーションでした。

小売業が抱えるジレンマと生成AIによるソリューション

3番目に登場したのはGoogle Asia Pacifics社の中原啓智氏(Senior Marketing Effectiveness Research Manager)です。シンガポール在住で、マーケティング・エフェクティブネスに関するリサーチとAPACのリテーラーのデジタルトランスフォーメーションを担当する中原氏は、「生活者のニーズと効率化の間でジレンマ、小売業はデータ活用で全社連携に活路あり」とのタイトルで、小売業の抱えるジレンマと、それに対する生成AIを活用したソリューションを紹介しました。

まず中原氏は、日本のEC市場が拡大している一方で、物流のオペレーションコストが上昇傾向にあり、営業利益率が圧迫されているという、小売業が抱えるジレンマをシェアしました。これは、「小売業は、生活者の満足するECサービス構築・運用ができなければ顧客を競合に奪わてしまう一方で、ECサービスを構築・運用しようとするとコストが上がってしまう」状況にあることを意味します。

ここで中原氏はGoogle社が提案する「バリューリング」というコンセプトに言及します。これは、Google社の強みである広告や生活者の購買インサイトを活かした「顧客体験づくり」を重要な機能と捉え、そこから調達や物流、実店舗やEC業務のオペレーションがリング状に派生していくことを意味します。Google社は小売業が抱えるジレンマに対するソリューションとして、 このコンセプトのもと、顧客のプライベートに配慮した上で顧客データにきめ細やかにアクセスし、コストも削減できるサービスを提供しています。

その具体例として、中原氏はOriient社による「磁場を活用した人流トラッキング」とBrain Corp社が開発した「在庫スキャナーロボット」を紹介しました(両社はいずれもGoogle社のパートナー企業)。前者は、Wi-fiもBeaconsもハードウェアも不要な、シームレスなオンラインからオフライン体験ができるトラッキングシステムです。顧客は買いたい商品を専用アプリで検索することで商品までの最短経路を知ることができ、一方、クライアントは棚の細かな位置情報を含めた顧客に関する精度の高い情報を収集し、顧客データとして分析・活用できるというものです。後者はAIを駆使した自律走行する在庫ロボットです。これまで在庫ロボットは「ディープラーニングのモデル訓練をするために、人間の手によるマニュアル作業の負担が相当量かかる」という課題を共通に抱えていましたが、このロボットは、Google社が裏でトレーニングを実施しており、マニュアル作業の負荷を低減できる特長を持っています。

こうしたプロダクトを活用することで、店舗の需要予測、発注精度の改善、店舗レイアウト・棚割りの改善、店内在庫の最適補充、店内でのリアルタイム販促、過剰値引きの抑制、メーカーの反則監査業務の省力化などの実現が期待できるとのこと。生成AI技術とGoogle社の持つ強みを活かしたこのようなプロダクトは、小売業が現在抱えるジレンマに対するソリューションとして、ますます需要が高まりそうです。

マーケティング・リサーチ業界における「AI活用」の可能性

最後のプレゼンターは GMOリサーチ社の内山祐二氏(イノベーション本部プラットフォーム企画部長)です。「AIを利用したインサイト発掘の手法について」とのタイトルで、市場調査業界における生成AI活用の可能性を語りました。

内山氏によると、生成AIは大規模言語モデル(Large Language Model)が登場したことで、性能が劇的に変化したとのこと。LLMは、大規模大量データの文章を学習し、パターン認識することであたかも言葉を人間が話すように推論して出力する技術を指します。

つづいて急速に進化する生成AIの得意・不得意について、それぞれ次の3点を列挙しました。

<得意>
  1. 自然な文書の生成(大規模言語モデル(LLM)の登場)
  2. アイディアの創出(人間の限界を超えた数のアイディア出しも可能)
  3. タスクの自動化(チャットボット、文字起こし)
<不得意>
  1. ニュアンスを理解できない(具体的な指示が必要)
  2. 学習データの質に依存(ファクトデータの提示に問題)
  3. 人間のサポートが必要(責任を取るのは人間)

上記を踏まえて、現状AIを活用するには「プロンプト・エンジニアリング」、すなわちLLMを活用して最適なアウトプットを得るために入力文(=プロンプト)を工夫して設計することが、とりわけ重要になると言います。

これらの前提を踏まえて、マーケティング・リサーチにおける生成AIの活用について言及します。内山氏によると、調査フローのうち、そのほとんどはAIに置き換えが可能なのだといいます。その一方で、実査や出力結果の確認プロセスなど、人間にしかできない領域ではリサーチャーの役割や重要性がますます高まっていくと予想します。

最後に、生成AIを活用したインサイトの発掘手法として、GMOリサーチ社が提供開始する、「GMO Ask」の紹介がありました。これは、調査テーマを与えるだけで調査票作成からAIによるレポート生成までワンストップで対応可能なシステムであり、AI ConsultantがAIの苦手な領域もカバーする体制も整っているとのこと。近い将来、市場調査の実務の中でもAIの活用がますます拡大していくことを予感させるプレゼンテーションでした。

***

なお、イベントの終わりにはオフライン参加者を対象に、立食パーティー式の情報交流会を実施しました。2020年の春以来、このような交流の場がJMRAで開催されるのは初めてとなります。およそ3年振りとなる交流会は、市場調査業界にとって共通で向き合うインサイト産業の今後に向けた貴重な対話と協働のきっかけとなる場となりました。

2023.6.20掲載