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ESOMAR WIN2006ミーティング会議報告

JMRA倫理綱領委員会委員
(株)日経リサーチ マーケティングリサーチ本部長
池田 達哉


World Industry Network
、略してWINと呼ばれる会議が、06年1月16・17日の二日間、スイス・ジュネーブで開催された。 この会議は、世界の大手のマーケティングリサーチ会社、大手クライアント、そして各国のマーケティングリサーチ団体の代表で構成され、マーケティングリサーチの諸問題と今後の活動方針が議論される。 今年は33名参加し、調査会社からはCEOが参加したTNS、IPSOSやSynovateなど、クライアントからはフィリップス、マクドナルドなど、業界団体は米国CASRO、MRA、フランスSYNTEC、ドイツ、英国、ブラジル、メキシコなど。日本からは、JMRAを代表してリサーチ・インターナショナル・ジャパンの小林氏と私、池田が参加した。

1.プレゼンテーション

冒頭、事務局から現状の活動報告があった。

1-1 問題提起
ESOMAR会員に対する調査によると、全体の83%が「2010年にはマーケティングリサーチの事業環境は大きく様変わりしている」と予想している。 具体的には「クライアントからもっとクリエイティビティやビジネス・インテリジェンスを要求される」53%、「インターネットリサーチの更なる台頭」35%、「クライアントが戦略立案するときに必要となるデータ」32%などが挙がった。
今後5年ほどの間に大きく事業が変化せざるを得ないと見ている人がほとんどだが、いわゆるコンサル的な付加価値をつけるべきかどうかはほぼ半々に見方が分かれているという構図。
さらに問題として「クライアントが調査の品質がわからなくなる」54%、「回収率の低下」37%、「他の情報ソースとの競合」32%が挙げられた。

1-2 自主規制

綱領違反を取り締まる懲罰委員会設立など自主規制について、このイニシアティブの名称をResponsible Research Regulation、略称RRRと呼ぶことになったとのこと。 昨年11月のアムステルダムで開催された第1回の準備委員会での議論が報告された。 この会 議には小林氏と池田が参加しており、JMRAニューズレターでも報告した。
今回は活動報告のほかにフランスの事例報告が行われた。フランスではすでにマーケティングリサーチ会社、リサーチャーとクライアントの調査関係3団体で仕 組みが作られ、実行されているとのこと。 そして処分の公表はあくまで会員社に限っている。 ドイツでは非会員も処分公表の範囲に加えているが、弁護士と相談 した結果、フランスでは法律上も行き過ぎと判断したため、非会員社は対象外にしたとのこと。
またフランスでは世論調査の規制が行われており、選挙直前での調査結果の公表が制限されるとともに、客観性と信頼性の確認の意味を込めて、調査スペックの公表が義務付けられている。

 1-3 能力育成
マーケティングリサーチ会社とリサーチャーに求められていることは、事実の基づいた意思決定のため、信頼性のある調査の実施と調査結果を読み取るマーケティング・インテジェンス。 そこでESOMARでは次の3つの活動を行うとの報告があった。
12キラークエスチョンの提示:広報誌に掲載する。調査の設計・実施と分析・提言について問題提起。
調査を活用した成功事例の本を出版(2006年)
HandBook の改訂(2007年):大学でマーケティングリサーチのカリキュラムに使われているが、古くなったので改訂する。 現在マーケティングリサーチのMBA課程を持つのは、IBMも活用している通信教育で修了証を出しているジョージア大学のほか、米国でも全部で5大学程度。 ビジネススクール、大学などへのアプローチを強化するとともに、ワークショップも行うとのこと。

1-4 業界の統計
現在は各国の団体から提供される統計をESOMARが取りまとめている。 しかしワールドワイドの調査プロジェクトも多く、重複カウントされている売上があるなど問題もある。 正確な業界統計は業界の施策を立て実行していく上で必要というのがESOMARの認識。
そこで新たに、マーケティングリサーチのトップ25社から直接データを入手する方法が提案された。 世界的にみると、大手調査会社が大手クライアントの仕事 の多くを獲得し、多くの調査会社がその下請けとなって調査を実施しているという実態に即したもの。 会計監査の事務所と組んで、秘密保持を行いながら情報を収集し信頼性のある統計を作れないかというアイデアだ。
このアイデアに対しては、トップ何位までをカバーするか、そもそも株主やIRの関係があるのに非公開情報を出していけるのか、さらに情報提供側のメリットは何かなど意見や課題が提起された。

1-5 マッピングプロジェクト
各国の協会からニーズを聞き、整理し、そして世界で協力してマーケティングリサーチビジネスの事業環境を育てていこうというプロジェクト。
現在ESOMARの活動に連携しているマーケティングリサーチ業界団体は、世界で72団体。 その加盟社の世界での売り上げ合計は215億ドル(約2兆5千億円)にのぼり、およそ5%の年間成長率である。
マーケティングリサーチ事業にとってもっとも重要なことは品質と倫理規定であり、世界の同一産業としてこれを確立していくことが不可欠。 特に中東とアフリカなどはまだ組織ができない地域もあるので、協会の立ち上げなどの支援策をESOMARは検討している。
また協会同士の協力ということで、ベストプラクティスの共有、倫理規定のワークショップ、協会の交流を促進するWebセミナーや、マーケティングリサーチのイメージ向上策などのアクションが挙げられた。

2.Workshop

以下の3つのテーマについて、討議が行われた。やり方は、問題提起のプレゼンテーション、3つのグループに分かれて議論、全体会で発表という形態

2-1 Consumer Centric Measurement
WFA(World Federation of Advertisers)のSwann氏から。WFAはP&Gなど日用品、食品、飲料、クルマなどの世界の大手広告主の集まり。 Swann氏はケロッグの社員で、WFAのメディア委員会に属する。 テーマは、TVだけでなくマルチメディアのクロスを調べられるシングルソースのメディア接触調査を立ち上げてほしいというもの。 メディア接触、ブランドへの好意度など態度などを測定する調査が望まれている。 調査データの価格はたぶんメディアの予算の1%くらいまでとのこと。 まずは北米、ヨーロッパ、インド、中国などで立ち上げようという声が上がった。

 2-2 リサーチの事業定義
厳しい倫理規定を遵守することは、ダイレクトマーケティングと差別化でき、米国ではDo Not Call Listの適応外を獲得するなど成果をもたらした。 その一方で、倫理規定上は違反となる可能性があるいわゆるグレイゾーンが隆盛になりつつある。 例えば従業員名を明かすミステリーショッピングや、顧客名を明かすCS調査などである。
また、マーケティングリサーチの定義も、調査対象者の匿名性の保持と営業目的のコミュニケーションの禁止など方法論中心で、どういう役割を果たすのかが明確ではなく、消費者など調査対象者にわかりにくい。 マーケティングリサーチの意義を伝えられないことが、回収率低下の一因になっているのではないかという問題提起もあった。 定義については、わかりやすいものにし、同時にPRが必要である。
さらに通行人100人に聞きましたというような調査がテレビなどで公表され、あたかも母集団を反映しているかのように扱われているときもある。 信頼性のないものとマーケティングリサーチを差別化することも急務である。
会議の参加者の中では、「調査対象者のパーミッションがとれればクライアントに開示してよい、但し営業目的でないこと」など倫理綱領を緩めてよいのではないかという意見が大勢を占めた。 今後はすべてのガイドラインの見直しに向かっていくと思われる。
さらにESOMARの加入規定では、自分の会社やその傘下でダイレクトマーケティングをしていないことが条件。 これも同一社内でダイレクトマーケティングを行うのは禁止としても別会社であればよいのではないかという意見も出た。
ESOMARではヨーロッパのソニーでPRを担当していた人をスカウトし、PR会社をチームに入れてキャンペーンの計画を練っている。

 2-3 リサーチを越えたリサーチ

上記のマーケティングリサーチの再定義の議論と関連するが、いわゆるマーケティングインテリジェンスやコンサルティングなど上流の付加価値を意識したテーマ。
まず次の定義案が提案された。
“Market Research as A KEY STRATEGIC TOOL FOR BUSINESS DECISION MAKING”
ワークショップの議論の結果、今回の会合では、次のようになった。
“Research as KEY STRATEGIC TOOL for DECISION MAKING”
まず「マーケティングリサーチ」という言葉についてだが、いわゆる市場調査以外に、世論調査や社会調査があり、それらの分野も含まれるべき。 しかし「マーケティングリサーチ」という言葉でどこまでカバーしているか不明確。 米国では世論調査と社会調査を含めて「サーベイリサーチ」という言葉を利用しているようだが、今回は単に「リサーチ」とした。また「ビジネス デシジョン メイキング」(ビジネス上の意識決定)については、クライアントは私企業とは限ら ず、意思決定するのはビジネスばかりではないので、単に「Decision Making」とした。
私が参加したワークショップではこの定義に関わる「バリア」(障壁)について議論した。マーケティングリサーチはデータコレクションのみのイメージが強く、そのためクライアントからの値下げ圧力が厳しく、コモディティ化している状況。コモディティ化を避けていくには、よい調査の判断基準をクライアントに提案するなどのPR活動が大切。 特にPRにあたっては、ジャーナリストにマーケティングリサーチの認識を新たにしてもらうことがぜひ必要という意見が聞かれた。
またマーケティングリサーチは、意思決定の判断に関わるデータとアドバイスを提供するのみならず、同時に意思決定に伴うリスクを低減することにもつながっているとの意見も聞かれた。

3.全体の印象

ESOMARの活動は、調査対象者の匿名性保持を中心とした厳正な倫理綱領により、プライバシー保護の高まりの中、ダイレクトマーケティングとの差別化を明確にすることで、マーケティングリサーチ事業を守ることに成功した。
その一方で弊害も見られるようになった。周辺分野が拡大しているが、倫理規定により、例えばCS調査で対象者がクレームをもっていても、その個人名をクライアントに伝えることはできない。
またマーティングリサーチがどういう役割を持ち、社会に貢献しているかマーケティングリサーチの定義・意義とそのPRが行われず、調査対象者への啓蒙活動が低調だったことが、回収率の低下の一因にもなっている。 少なからず人材採用にも影響を与えていると思われる。
さらには低価格で信頼性の低い調査(のようなもの)が新規参入してきており、「マーケティングリサーチ」を明確に区別させることができずに圧されぎみの情勢。 そのほかインプリケーションやコンサルなどの付加価値分野の取り込みも十分には進んでいない。
このような厳しい事業環境の中で、ESOMARそしてマーケティングリサーチ業界が、マーケティングリサーチの地位向上へ積極策に踏み出した感が強い会議だった。 事務局も一新され、定義、綱領の見直しそしてPRへと、ESOMARは大きく動いていきそうである。
ESOMARの動きは、ガイドラインはいうに及ばず、私のビジネスに大きな影響を与える。 活動を注視し、適宜JMRAとしての意見を述べるとともに、引き続き状況を報告していきたい。(以上)





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