2019.08.19
報告: JMRA事務局長 中路 達也
JMRA ISO/TC225国内委員会委員長 一ノ瀬 裕幸
● APRC 2019 Sydneyの概要
APRCはアジア太平洋地域の市場調査協会の連合組織で、JMRAを含む10カ国・11団体が加盟しています。シドニーは11年前に初回の会合を開いた場所で、今回「里帰り」を果たすことになりました。参加国は日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランド、タイ、台湾、モンゴル、マレーシアと、特別参加のイギリスでした(シンガポールと、オブザーバーのベトナムは欠席)。
・初日の会議開始前に、先進企業訪問が行われました。
まず、AMSRS総会のプラチナスポンサーにもなっているPotentiate社(IBMが後援)より、ブロックチェーン技術でネットワーク同士をつなぎ、大規模データベース構築をその都度、安価・高速に実現する技術が紹介されました。また、コンサルタントのMike Stevens氏からは、AI技術をリサーチに活用した最新のトレンド10選が披露されました。
これらはいずれも英語圏から発信されているもので、初めて見聞きするものも多く、言葉の壁を感じざるを得ませんでした(ただし、どれが本命の技術として発展していくかは、まだ誰にもわかりません)。
・参加国の代表者によるAPRCサミット会議では、この1年間の各国の動静が交流されました。特徴的なトレンドは、以下の2点に集約されると思われます。
① データサイエンス系の取り組みに関して、風向きが変わった
昨年までは市場調査業界はスルーされてきた(?)状況であったが、やはりデータの「読み方」が重要と理解されるようになり、新しいタイプの業務引き合いにつながっている。
(参考情報として、中国ではECの売上データ分析に限界が指摘され、オフライン店舗での顧客動向分析が見直されている)。
② 若手リサーチャー向け教育研修のニーズが高まっている
どの国でも新しい環境に対応していくための教育研修強化の必要性が指摘されている。台湾からは、APRC参加国間でインターンシップ生の相互交換プログラムを推進することが提案された(すでに中国大陸と台湾間では始まっている)。
・また、特別参加のイギリス市場調査協会(MRS)より、Kantar社と共同で取り組んでいる「知的資本を活用した成長と価値の創造」レポートの概要が紹介されました(詳細は別途報告予定)。
・次回の会合(APRC 2020)は、中国・成都市にて2020年11月に開催することが確認されました。また、2021年には韓国で、2022年はモンゴルでそれぞれ開催することが内定しています。
● AMSRS Festival of Research(年次総会)の概要
・豪州の調査市場規模は日本に次ぐ世界第7位(絶対値は日本の半分弱)、国内比率が95%で、比較的「内に閉じた」市場といえます。地理的にニュージーランドや、フィジーなど太平洋島しょ国家群とのつながりが強いことが特徴です。
人口2,500万人(うち、シドニーに550万人)に対して国土は日本の20倍もあるため、オンライン調査比率が53%(金額ベース)と高くなっています(日本は50%)。
・今回のAMSRS総会には、豪州だけでなくニュージーランド、フィジー、イギリス、アメリカ、タイ等からも発表者が参集し、総勢400名超の盛大な催しとなりました。以下の2点が特徴的なトピックであったと思われます。
① 各国で定性調査が活況、ストーリーテリングの需要拡大
クライアントからの要請が変化してきている。ビッグデータ等の解析だけではダメで、「データをどう読んでアクションに生かすか?」がより強く問われるようになっている。
② 各種規制に対する的確な対応を模索
ソーシャルメディアへの広告出稿規制(豪州では自主規制ルールがある)、プライバシー規制(EUのGDPR対応)、世論調査関連の規制などが適切に守られているか、今後どのように対応していくべきか、が大きなテーマの1つとして取り上げられていた。
・なお、市場調査との直接的な関連はないものの、総会冒頭にアボリジニ(先住民族)への補償問題がかなりの時間を割いて取り上げられたこと(豪州で開催される国際会議では定番らしい)、総会の最後にコメディアンが登場し、シドニーの都市開発を題材に会場参加者との掛け合い漫談(?)で盛り上がったことなど、政治事情と国民性の違いを感じさせられるプログラムもありました。
● 世界各国でほぼ同時並行する業界の課題
今回のAPRC 2019を通じて、私たちの市場調査業界を取り巻く環境変化は世界同時並行で進んでいることを改めて実感させられました。いわゆる「時差」は、ほとんどないと言ってよさそうです。ただし、日本やアジア諸国には「言語の壁」もあるため、そうした変化への対応となると一歩遅れがちになる感は否めません。
今後も、日本国内はもちろん、世界で起きている変化をいち早くキャッチしてその本質を見きわめ、対策に生かしていくことの重要性を痛感させられました。