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さぶたいとる

ESOMAR Insights Festival 2020参加報告
― デジタル化・AI化は試行錯誤から実践段階へ

ないよう

JMRA・JIS認証支援センター長 一ノ瀬 裕幸

日時: 9月14日(月)~17日(木)
オンライン会議(ON24 Webinar、Microsoft Teamsほか)

1.Insights Festival:コロナ禍による初のオンライン開催

(1) 成果を確認できたオンライン対応

新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延により、ESOMAR大会もその名称をInsights Festivalと改め、初めてオンラインで開催されました。例年、ある都市の大会会場にリアルで参集していたことから、800~1,000名程度の参加が限界であった制約を突破する挑戦的取り組みでもありました。
実は昨年までも、大会の(一部の)プログラムはオンラインで生配信されていました。相応の準備はできていたものと考えられます。今年は最初からオンラインを前提としての企画でしたので、参加者数を大幅に伸ばすことができたのではないかと期待されます(詳細は後日公表予定)。

ふたを開けてみると、メイン会場は試され済みのウェビナー方式(ON24 Webinar)で、付属(Fringe)会場はオンライン会議方式(Microsoft Teams)で、さらにインタビュー等のライブ中継(Livestreaming)を織り交ぜてと、テーマや規模、内容に応じた配信の工夫がなされていました。バックヤードはかなり大変だったのではないかと推察します。予想通り(?)、オンラインならではの音声・映像の途絶、雑音の発生(機器トラブルや飼い犬の鳴き声混入等)、発表者のPCが故障して電話(音声)のみでの参加など、さまざまなトラブルも発生していましたが、全体としては及第点をあげてよい出来であったと感じられました。


(図1 セッション担当責任者を紹介するESOMARのFinn Raben事務局長)

(2)発表の主流はデジタル化/AI化などの新技術対応事例

世界各国からの発表内容に目を向けると、今年もデジタル化やAI化、自動化(オートメーション化)といった新技術への対応、新たなイノベーションへの挑戦といった演題が中心となっていました。
一例をあげると、心理学の成果を用いたサーベイ結果の蓄積をAI技術で分析し、あるイベントや広告での「記憶のピーク」を最大化することで、その「ブランドの記憶」を長期化でき、その後のマーケティング効果につながることを実証できたとの発表がありました(今年のベスト・ペーパー賞に輝いたMicrosoftのDavid Evans博士)。


(図2 ベスト・ペーパー賞に選出されたDavid Evans博士:Microsoft, USA)

また、クライアント部門の第1位を獲得した”Formula 1”の発表は、F1レースを観戦するファンに体感を図るセンサーを装着してもらい、「秒単位で彼らの興奮結果を解析する」というものでした。ファンを引き留め、さらに拡張するための作戦に活用するとのことでしたが、ちょっと普通の調査会社にはマネができないレベルに行ってしまっているかも知れません。

全体として、昨年までは「新技術をどう活用してみたか?」というトライアルや試行錯誤の報告が目立っていたように思われますが、今年は単なる技術紹介にとどまらず、いかに「アクションにつながるインサイトを導くか?」がより前面に出て来ていた印象を受けました。上記のほかにも、AIや機械学習を用いた「音声認識→ テキスト変換→ テキスト解析→ 可視化」が、一連のパッケージとして報告された例があり、ストーリーテリングやデザイン・シンキングといった手法と組み合わせることで、次世代のコンサルタント的な対応を目指しているとの事例もありました。ソーシャルリスニング(SNS等)活用も引き続き活況です。
また、コロナ(COVID-19)にどう対応して生き残りを図るか、といったテーマも(今年ならではと思われますが)時宜にかなっていました。

(3)今後の課題と感じられたこと

しかし、初めての試みであっただけに課題も残りました。今後、日本でオンライン企画を実施していく際の参考にできればと思います。

① 臨場感の希薄さ

オンライン開催なので必然的に…、という側面はあるのですが、発表者のプレゼンの過半数が事前に録画撮りされたものでした。当日の不確定要素を極力少なくするという背景事情もわかるのですが、逆にこれが作りこまれすぎていると、「リアル感がなくなる」ことが強く感じられました。中にはドラマ仕立てで、本物の俳優さんが出ているのでは? と思われるほどの演技力と、相当なお金をかけたであろう演出がふんだんなものがありましたが、そちらに目を奪われるあまり、終わってみると「はて、どんな発表だったのかな?」と、内容が頭に残っていないことがありました。
それは極端な例としても、ただでさえ一方的になりがちな環境下だからこそ、いかにプレゼン効果を高めるかという工夫がより必要と思われます。

② タイムコントロールの難しさ

上記の①とも関連するのですが、録画済みのプレゼンが長すぎる時でも切ることができず、制限時間オーバーになりがちで、質疑応答の時間を確保できないセッションが少なからず見受けられました。オンライン開催ならではのルール作りが必要と思われます。
注)配信制限時間を越えた場合でも、質問者はオンライン上の別ルームに移動して、発表者に質問することができるようになっていました(もちろん、他の視聴者との共有は困難ですが)。ご参考までに。

③ 時差対応

これは国際イベントにつきものの制約で、どうしようもないことではあります。4日間、日によって多少時間帯をずらし、「公平性」を確保しようとはしていましたが、どうしても欧州を中心に考えるとアメリカは早朝、日本などアジア・大洋州は夜中(時には深夜)の開催となってしまい、「後日、録画されたものを視聴」となってしまいがちです。
今後、より多くの参加者を募ろうとするならば、何らかのブレイクスルーがほしいところです。

2.ESOMAR会員年次総会(AGM)の概要

 

Insights Festivalの開催に先立ち、ESOMAR会員を対象とした年次総会(Annual General Meeting)がやはりオンラインで開催され、2019年度の会計報告と活動報告が承認されました。
2020年度も引き続き、① 会員及び業界のための政策提言活動、② 知識普及活動とイベントの開催、③ ネットワーキングとビジネスプラットフォームの拡充 …等の取り組みが継続されます。


(図3 活動報告を行うESOMARのJoaquim Bretcha会長)

また、執行部(会長・副会長・評議員)選挙を最大2021年9月まで延期することが確認されました。
本来であれば隔年で7月頃に実施されていた標記執行部選挙(任期2年)ですが、一度半年間の延期を決定していたものの、コロナ第二波の影響を受け、さらに延長される見通しです。現在の執行部が、そのままもう1年間の任に当たることになります。
総会の締めくくりにFinn Raben事務局長より、「国際的な社会経済環境がどうなっているかによるが、ぜひ2021年9月(次期大会)にはカナダのトロントに対面式で集まりたい」との意向表明がなされました。

なお、コロナの影響により、ESOMARの会計(予算)規模も2020年度は半減することが見込まれるなど、諸活動を支える基盤が著しくひっ迫することが予想されています。程度の差はあれ、こうした財政問題はどこの国の協会にも共通する課題であり、より多くの工夫や創造性の発揮によって克服していくことが求められています。

以上

2020.10.15掲載