JMRA・JIS認証支援センター長
ESOMAR GMR日本アンバサダー
一ノ瀬 裕幸
※)大前提として、『Global Market Research 2020』のデータは2019年度のもの、つまり国際的な「COVID-19パンデミックの前」のデータであることにご留意ください。
1.市場再定義の衝撃
ESOMAR "Insights Festival 2020"の開催に合わせて9月14日に発表された『Global Market Research 2020』が、大きな反響を呼んでいます。経緯に詳しくない方には、「突然、市場規模が2倍になった」と、驚きをもって迎えられたのではないでしょうか? 国・地域別のシェアをはじめ、トレンドが大きく変更されることになりました(図表1・2)。
実際には、過去10年以上にわたって「サブ・セグメント」として集計・推計されてきた、「市場調査業界と同様にさまざまなデータを収集・分析し、顧客にインサイトを提供する」ことを業とする、データ分析企業や自動データ収集企業、コンサルティング・レポート提供企業等を含め、新たな市場調査業界の統計を作成することにしたのです。
背景には、「伝統的な」と定義される市場調査業界の売上高規模が近年横ばいを続ける一方で、こうした新領域の市場は順調に拡大し、ついに2019年、「伝統的な市場」を上回ったことがあります。もはや、どちらが「メイン」か「サブ」かではありません。顧客からみれば求めるもの(インサイト)は同じであり、私たちはより広い、適切な土俵の上で客観的事実を俯瞰し、顧客ニーズにより適切に対応していかなければならないのです(図表3)。
なお、2018年の「サブ・セグメント」を含めた全体の市場規模は798.3億ドルと推計されていたことから、今回の統計(899.0億ドル)を作成するにあたっては調査対象範囲の拡大・探索にも取り組まれたことがうかがえます。実はJMRAを含む各国協会にも事前照会の連絡はあったのですが、新領域への対応については各協会の判断に委ねられるとのことで、日本からは従来通りのセグメント推計による回答を行っていました。来年度以降の対応をどうするかは、毎年実施している『経営業務実態調査』の在り方にも影響するため、早々に議論してまいります。
2.新領域の内訳
現時点で、市場再定義の影響が最も顕著に表れているのは米国マーケットです(図表4)。
市場規模が最も大きく、かつ新領域の伸長も最も著しい米国では、すでに従来型市場調査(Established research)のシェアは43%に過ぎないと推計されています。代わって登場したテクノロジー主導調査(31%:Tech-enabled research)と、レポーティング(26%:Reporting)の定義は図表5の通りです。
3.ESOMARから市場調査関係者への呼びかけ
今回の定義変更は、入念な準備はもちろんのこと、たいへん大きな決意と意図をもってなされたものと思われます。それは、すべての(従来型の)市場調査関係者に対し、上記2.に示されたような新領域に、相応の覚悟で乗り込むべきとのメッセージです。ここ数年のESOMAR大会(今年はオンラインでのInsights Festival)のコンセプトにも、明瞭に表れている通りです。
私たちの事業ドメインを従来の枠組みだけで眺めていると、どうしてもそのカラを破る発想は出て来にくくなるものです。より高く広く、鳥瞰的な視座をもって私たちを取り巻く市場環境を見つめ直し、ここを新たな出発点にしよう、との呼びかけになっています。COVID-19パンデミックは誰にとっても想定外の大混乱をもたらしていますが、開き直って仕切り直しのきっかけとするにはよい機会だったのかも知れないと、後に振り返られるようにできればと思います。
“私たちは新たな挑戦の時代に直面していますが、それは大きなチャンスでもあります。”
- ESOMAR事務局長 Finn Raben氏(GMR 2020 序文より)
※)次回は、『Global Market Research 2020』の詳細についてレポートさせていただく予定です。
以上
2020.10.16掲載