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さぶたいとる

Global Market Research 2020 レポート: 第3回
激変したトップ25社の顔ぶれ:広がった土俵!!

ないよう

JMRA・JIS認証支援センター長
ESOMAR GMR日本アンバサダー
一ノ瀬 裕幸


1.定義変更後の勢力図

前回までに、ESOMARの国際業界統計である『Global Market Research 2020』がその調査対象定義を拡大させ、新領域として「テクノロジー主導調査」と「レポーティング」を加えたことで市場規模が一気に約2倍になったこと、それらの内訳となる8つのサブセグメントについて解説してきました。

その結果、従来の市場調査業界の勢力図は大きく塗り変わりました。図表2は、今回ESOMARが集計した2019年度のTop-50(世界売上高上位50社)から上位25社と、前回までTop-10に入っていた2社を抜粋したものです。Top-10内にAdobe、Salesforce、IHS Markit、CoStarといった、「知られてはいたけれども(私たちからは)調査会社とは認識されていなかった」企業が入っています。また、11位から25位までも新たな顔ぶればかりで、前年の登場社は2社しか残っておらず、さらに前年の9位と10位(日本勢唯一のインテージ)は28位以下に後退しています。まさしく、「様変わり」と言ってよいでしょう。

率直なところ、この表をご覧になって違和感を覚える方も少なくないと思われます。中には私たちのクライアントになる企業もあり、また時には業務を委託(外注)する企業も含まれていることでしょう。しかし、「データを収集・加工・分析して顧客にインサイトを提供する」という機能価値を考えれば、私たちは同じ土俵で勝負している同業者であり、時には競合であり、パートナーでもあると理解されると思います。

なお、この表は来年また、大きく変動するかもしれません。それは以下のような事情によります。

  • 新たな定義に従い、さらに追加される企業またはサブセグメントがあり得ること
    (今回の追加企業は欧米先進国に集中している)
  • 今回のデータはいわゆる「コロナ前」のもので、コロナ禍が大きな影響を及ぼすであろうこと
  • 市場全体が大きく動いており、M&Aや合従連衡が進む可能性があること*
    * 実際に、8位に登場したIHS Markitは、米金融情報サービス会社であるS&P Globalに買収されることになりました(2020/11/30公表)。Adobeの急成長もM&A効果に支えられています。また、長年この市場を牽引してきたNielsenは2020年末までに分社化され、その一方は売却(経営主体の変更)されることが決まっています。Kantarも投資会社の傘下に入り、この先何が起こっても不思議ではありません。

2.成長の機会・土俵が広がっている!

視点を変えてみましょう。従来の市場調査業界は、少なくとも私たちの中では比較的「成熟した」、「静かな」、「安定」した産業と見られていたのではないかと思われます。ときには大型のM&Aなどもありましたが、ここ数年は(アジアを除き、世界全体としては)成長率が鈍化し、上位10社の顔ぶれにもあまり変化はありませんでした。しかし、ふと気がついてみると、私たちの周囲ではデジタルデータの分析やビジネスへの活用が大いに注目を浴び、巨額のM&A資金が投入されるような「ホットな市場」になっていたのです。これは、「大いなるチャンス」なのだとは言えないでしょうか?

図表2によれば、私たちになじみの深い市場調査会社の2019年度売上高成長率で、(久々に好調だったとはいえ)10%を超えた企業はありませんでした。ご参考までに、日本市場は4.6%の成長でした(出所:JMRA『第45回経営業務実態調査』)。 
一方で、デジタルデータ分析系の企業は、Adobe(4位)、Salesforce(6位)、NICE(15位)、HubSpot(18位)に見られるように、軒並み20~30%以上の成長率をたたき出しています。世界の変化を感じさせられずにはいられません。

図表3を見てください。新定義による2019年の成長率は世界全体で3.9%でしたが、その原動力が北米(6.1%:大半がアメリカ合衆国)にあったことは明らかです。米国の市場調査協会(旧CASRO)が、その名称を「インサイト協会(Insights Association)」に変更した事情もうなずけるというものです。
図表2によっても、米国が圧倒的な影響力を誇っていることがわかります。アイルランドのAccenture(13位)、カナダのKPMG(20位)も、本社所在地はともかく主たる活動の舞台は米国でしょう。イスラエルのNICEが15位に食い込んでいることが注目されますが、こちらも主たる顧客は米国企業と思われます。

日本を含むアジア太平洋地域は比較的堅調(2.7%)でしたが、北米に次ぐ大市場である欧州はマイナスに沈んでいます。(アフリカはまだ母数が小さいため、データが安定していないものと推察されます)。
ただし、一見すると「米国ひとり勝ち」状態ですが、実は欧米以外では新セグメントの企業探索が十分には進んでいないことも忘れてはなりません。米国企業の日本支社の売上高は本社で計上されているはずですが、日本発祥のデータ分析企業や、他国で新セグメントに属する独立系企業も少なくないはずです。そのような事情もあり、図表2は今後もさらに進化していくものと思われます。

JMRAとしても、新セグメントの対象となる企業の探索に務め、協力関係を構築・発展させていきたいと考えています。メルマガ読者の皆さまにも、可能な範囲で情報提供をお願いできればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

この連載はここでいったん終了しますが、これからの時代は、テクノロジーの進化、消費者行動の変容などに合わせて、ますます社会経済環境の変化が早くなり、市場調査会社の事業活動もいやおうなく変化して行かざるを得ないと思われます。コロナ禍が、そうした動きをさらに加速させることでしょう。
そうかといって、1社1社の市場調査企業が単独ですべての変化に対応していくことは不可能と思われます。自社の強みを磨きつつ、足りない分野は協業の道を探り、パートナーと協力共同して、クライアントの期待に応えていく方向性を追求する必要があるのではないかと思われます。
JMRAとしても変化への対応を意識した施策に、より精力的に取り組んで行きたいと思います。

GMRレポート(英文)の購入/ダウンロードはこちらから(ESOMAR会員は無料)
https://www.esomar.org/knowledge-center/library/Global-Market-Research-2020-pub2942

以上

2020.12.14掲載