本文へスキップします。

フリーワード検索 検索

【全】ヘッタリンク
【全・SP】バーガーリンク
さぶたいとる

ESOMAR Insights Festival 2021
開催報告


本文

JMRA・JIS認証支援センター長 一ノ瀬 裕幸

ESOMARの大会に代わるオンラインInsights Festivalが、「Amplify & Accelerate(増幅させ、加速させよう)」を統一テーマに、9月20日~22日の3日間にわたって開催されました。コロナ禍を受け、今年は全プログラムが無料公開となりました。

全体の基調は、市場調査業界を含む世界経済に大きな傷を負わせたコロナ「後」を見据え、どう回復を図っていくか、そのためのドライバーは何かを探ろうとするものでした。 そうした複数のサブテーマの冒頭を飾ったのは、「多様性・平等性・包括性(DEI: Diversity, Equality & Inclusion)」でした。これは、欧米を中心にクライアント企業に最重視されるマーケティング課題の1つとなっており、市場調査業界が今後どう対応していくべきか、真摯な問題提起がなされました。

1.DEI(多様性・平等性・包括性)ギャップへの対応

そうした複数のサブテーマの冒頭を飾ったのは、「多様性・平等性・包括性(DEI: Diversity, Equality & Inclusion)」でした。これは、欧米を中心にクライアント企業に最重視されるマーケティング課題の1つとなっており、市場調査業界が今後どう対応していくべきか、真摯な問題提起がなされました。
英蘭ユニリーバ、仏ロレアル、米マクドナルド等では社内のマーケティング部門に専門チームが立ち上がっており、文化的に機微なテーマへの対処策が検討されているそうです。課題そのものは以前から存在していたはずですが、コロナ禍による混乱や社会の分断が進んだ結果、一気に注目を浴びるようになったとも解されています。今後のマーケティング施策の焦点の1つになるものと予測されます。
<参考> ご存じの方も多いと思いますが、世界経済フォーラムが毎年発表する「ジェンダー・ギャップ指数(各国の男女格差を数値化した指標)」で、日本は156カ国中120位(2021年)と、最低レベルに近い順位となっています。

「市場調査業界ではどうか?」を確認するため、JMRAも参画している国際的な市場調査業界団体であるGRBNでは、10月20日から日本を含む世界13カ国でDEIに関するリサーチャー向けと一般市民向けのオンライン・アンケート調査を実施することになりました。JMRAの会員社には別途ご案内をいたしますが、メルマガ読者の皆さんにもぜひご協力をお願いしたいと存じます(回答画面はすべて日本語、締切は11月10日の予定です)。リサーチャー向け回答用URLは、到着し次第、改めてご案内させていただきます。
この調査の結果は、JMRAのホームページやメルマガを通じて後日ご紹介させていただきます。また、ESOMARでもDEI対応に関するワーキンググループを発足させ、市場調査分野でのガイダンスを作成・公表する予定です。

2.AIや新ツールを活用した消費者データ主導型インサイト抽出への挑戦

コロナによって消費者と直接接する情報収集が難しくなったことから、Web上の行動やSNSへの投稿、スマホのアプリを通じた大量のデータ収集などと、AI活用を伴う分析の試行がいっそう進んでいる印象を受けました。まだ汎用的と言えるほどの完成度には至っていないように思いますが、実際の成果につながる事例が複数紹介されていました。

また、表情/画像解析やアイトラッキング、ニューロなどテクノロジー主導型の新しいツールも実績を重ねているようですし、既存の調査手法を補完する使い方も試みられていました。日本市場ですぐに普及するかどうかは何とも言えないところですが、経験量の蓄積が質に転化する可能性を感じさせました。
興味深いのは、AIや新ツールで収集・整理を試みるものの、「最後は人間の手でまとめる」ことの重要性が強調されていたことでしょうか。定性調査のレジェンドとも言える著名モデレーターへのインタビューでも、「Zoomになってもモデレーションの本質は変わらない」とのメッセージが象徴的でした。最終的にインサイトを導き出す領域や、それをクライアントに伝えるストーリーテリングの場面では、リサーチャーが活躍すべきことは明白です。

3.クライアントや関連業界の協力を得た総力戦へ

全体を通じて、従来以上にクライアント側のリサーチャーの参画が増えた印象を受けました(クライアントと調査会社双方のリサーチャーによる、対話型プレゼンテーションの割合が増加した)。
また、本イベントの運営費はアクセスパネル提供会社やITツールベンダー等のスポンサー企業に支えられているのですが、(その全てを見られた訳ではないものの)スポンサー枠の時間が単なる営業アピールではなく、それ自体が研究発表の場になっているプレゼンを多数見ることができました。
コロナ禍を経て、調査会社だけで頑張るのではなく、クライアントや協力企業/業界の方々を含めた、インサイト産業界全体での取り組みが必要となっている気運の「証」ではないかと感じた次第です。

 

コロナワクチンの普及はまだまだ先進国が中心ですが、治療薬の開発・市場投入など明るいニュースもあり、世界は「コロナ後」または「withコロナ」に向けた経済活動の再開に動いています。
「来年こそは、9月にカナダのトロントに集まろう!」との呼びかけを受けて、今年のInsights Festivalは閉幕しました。

以上

2021.10.14掲載