ESOMAR GMR日本アンバサダー 一ノ瀬 裕幸
9月18日~21日、カナダのトロントにて、1947年の設立から75周年を迎えたESOMARのCongress(大会)が、3年ぶりとなる対面方式で開催されました。コロナ禍の余波が残る中、日本から直接参加された方は少なかったと思われますが、一部のプログラムはオンラインでも視聴することができました。また、同時に国際業界統計「ESOMAR Global Market Research 2022」が発表されました。ご購入はこちら(EAOMAR会員は無料)
時差が大きく、筆者も少数のセッションしか見られなかったため、限られた情報量ではありますが、それらのトピックスについてお伝えします。また、ESOMARのホームページに当日の写真が載っていますので、ご興味のある方は参照してください。コロナ前と変わらず、盛況であったようです。
https://esomar.org/newsroom
なお、この9月から事務局長・CEOにDr. Parves Khan氏が就任され、Kristin Luck会長とともにツートップが女性となりました。ダイバーシティが着実に進行しています。
来年はESOMAR本部のあるオランダのアムステルダムで、9月10日~13日に開催される予定です。
暫定CEOのPravin Shekar氏から新CEO Parves Khan氏にバトンタッチ
1.V字回復への確信
「ESOMAR Global Market Research 2022」によれば、世界のインサイト産業は2020年の苦境から脱し、2021年に10.8%成長のV字回復を果たして総額1,188億USDの市場規模へと成長しました。国や地域によって回復度のバラツキはあるものの、総じてコロナ前への復帰を果たしたと言ってよいでしょう。冒頭のKristin Luck会長のあいさつからも、われわれが取り組んで来たことへの確信があふれていました。
また、GMR 2022の分析担当者からは、以下のような未来予測が語られていました。
- クライアント側の内製化などの問題はあるが、2024年までの成長は手堅いとみられる。
- 業界の成長はMarTechが牽引しているが、既存の調査領域も安定的に伸びている。
- 一方で、M&A等をへてトップ50社のシェアが増加しており、上流から下流までの全行程を一括受注するビジネスモデルが台頭しつつある(上位社集中が懸念される)。
- それでも、戦略提言等を含むレポーティングの領域は、(既存調査会社にとって)最後の砦として残るだろう。
2.”What If …?”
今回の大会のキーワードとして、”What If …?”(もし、○○が○○だったら~?)が掲げられました。すべてのセッションのタイトルがこの ”What If” で始まっています。プログラムを見渡した範囲では、データサイエンス領域や広告業界との協業の話題、新技術活用の議論などのほかに、地球環境や社会問題などに関心を広げた演題が並んでいました。現時点でのすぐに対応すべき課題もさることながら、近未来に向けた仮説を立て、そこから導かれる課題に対してどう取り組んで行くかが取り上げられたようです。
3.” What If We Stopped Asking Questions?”
ここでは、クライアントの代表チームに議論をお願いした「もし私たちが質問すること(調査)をやめたら?」というパネルディスカッションを取り上げてみたいと思います。JMRAでも「クライアントの取り組みを聞く」シリーズを実施していますが、顧客ニーズを直接お聞きする機会は非常に重要と考えます。
登壇者は、TikTok(USA)、ネスレ(スイス)、イタウ・ウニバンコ(ブラジルの銀行)、フィリップス(オランダ)の4名でした。30分間の討論は、おおむね以下のように要約できました。
- これは2~3年前に流行った「ビッグデータが調査を駆逐するか?」と似たような問いだが、サーベイ(調査対象者に質問すること)が滅びるとは思わない。
- 新しいテクノロジーは追加的な情報を提供してくれているのであって、調査の役割自体は変わらない。ブラジルでは人口の15%がインターネットにアクセスできないため、サーベイが必須という事情もあるが、ネット普及率が100%近い国でも調査は必要である。TikTokのようなデジタル企業であっても、消費者の意識を深掘りするための調査を大量に実施している。
- 調査会社に期待したいのは、サンプルの品質を確保することと、データを結びつけてコンテキスト(文脈)を明らかにし、ストーリーテリングにつなげること。
- どのクライアントも、調査を含む各種のデータを総合的に収集・分析・評価している。社会と同様にダイバーシティ(多様性)が重要で、多数の情報ソースのバランスを取ることが大切。常に新しいものを取り入れ、フレキシブルに変化させている。
- 機械学習はすでに使用し、新手法も次々にチェックしているが、妥当性評価をどうするかという問題が依然として残っている。管理できることが重要で、ブラックボックス化は好ましくない。
- 質問(調査)をやめることを心配するよりも、「適切な質問」をすることに頑張ってほしい。
基本線は今までにもたびたび言われてきたことと変わらないと思いますが、いかがでしょうか?
今後とも国際的な潮流をウオッチしつつ、日本でも参考にでき、また取り入れられそうな話題を提供していきたいと思います。
(番外編)ウクライナ侵攻の余波
大会当日、ウクライナのリサーチャーから、ESOMARの執行部や私を含む各国の協会代表者宛(約190名)に「ウクライナ問題が取り上げられていないことに抗議する」メールが飛び込むというハプニングがありました。大会プログラムの詳細が発表された6月以降、大会事務局とやり取りがなされていたようなのですが、すでに発表者やテーマが確定していたため、受け入れは難しいとなったようです。キーウ(キエフ)在住の彼女らは、「ウクライナ人の戦争の物語」と題した定性調査を継続しているとのことでした。こうした大会にも国際情勢の影響が及ぶことに、複雑な感情を抱かざるを得ませんでした。
以上
2022.10.18掲載