ESOMAR GMR日本アンバサダー 一ノ瀬 裕幸
1.コロナ禍からのV字回復を達成
9月のESOMAR大会に合わせて公表された国際業界統計「ESOMAR Global Market Research 2022」では、世界のインサイト産業が2020年の苦境から脱し、2021年に10.8%成長(インフレ率調整後の実質値)のV字回復を果たして総額1,188億USDの市場規模へと成長したことが報告されました。
ー>ご購入はこちら(EAOMAR会員は無料)
この復活を牽引したのは「テクノロジー主導調査(実質18.9%増)」と呼ばれる領域ですが、従来型の「確立された市場調査(同4.9%増)」、「レポーティング(同5.5%増)」も相応の回復をみたことで、元の(比較的緩やかな)成長トレンドに復帰しています。全体的な傾向は、日本市場と近似しているといってよいでしょう(第47回経営業務実態調査結果を参照ください)。また、2022年にかけての予測では、伸び率は下がりますが5.2%程度の堅調な成長が見込めるとのことです。
2.新セグメント企業の増勢続く
売上高上位企業のランキングは50位まで発表されていますが、日本ではなじみの薄い企業も多数含まれていることから、ここではTop 15社を下表に掲載しました。青いハッチングが新セグメントに属する企業、白地は従来型の調査会社です。
Nielsenが2社に分割されたことを含め、多少の順位の入れ替わりはみられますが、上位12社までに大きな変化はありませんでした。コロナ禍による2020年の落ち込みの反動もあってか、前年比では総じて高い成長率を記録したことがわかります。
なお、今回13位のHubspot(+47.3%)と15位のQualtrics(+40.9%)が、驚異的な伸び率で順位を上げていることが注目されます。いずれもテクノロジー主導調査の伸長が理由とされています。日本勢では2社、INTAGE(36位)とMacromill(45位)がTop 50入りしましたが、米国勢の急速な成長とランクアップにより、昨年よりも大きく順位を落としています。テクノロジー主導調査(=MarTech)への対応成否が、明暗を分けていることは疑いありません。
3.内製化・自動化が進むと市場調査業界はどうなるのか?
ここでは“GMR 2022”の特集から、Jo Bowman氏によるインタビュー取材記事「調査の内製化:既存業界にとって難問か、Saas移行のための機会か?」のキーワードをご紹介しておきたいと思います。取材対象者は、以下の各氏です。
Ray Poynter(英国)、 Simon Chadwick(USA)、 Vanessa 大嶋(日本)、
Samuel Bakouch(Momentive = SurveyMonkey)
- パンデミックを経験し、これまでの消費者行動モデルは機能しなくなった。
- 確立された調査市場は「単なる調査」以上のものを提供していくように変化するだろう。
- 調査会社は、自らがパズルのピースの1つであること、異なるインサイト企業やテック企業と相互に協力しあう必要があることを受け入れなければならない。
(データ分析と調査の境界も、定量と定性の境界も曖昧になり、ますます絡み合っている)
- 小さな100%のパイをめぐって争うよりも、10倍に広がったパイの25%を獲得するべき。
著作権等の問題で、残念ですが全文をご紹介することが出来ません。ご興味のある方は、ぜひ原文にあたってみていただくようにお願いいたします。
最後に、先月のESOMAR大会報告レポートにも記載した内容ですが、GMR 2022の分析担当者から語られた以下の未来予測を再掲しておきます。それらの妥当性に関するご判断は、読者の皆さまに委ねたいと思います。
- クライアント側の内製化などの問題はあるが、2024年までの成長は手堅いとみられる。
- 業界の成長はMarTechが牽引しているが、既存の調査領域も安定的に伸びている。
- 一方で、M&A等をへてトップ50社のシェアが増加しており、上流から下流までの全行程を一括受注するビジネスモデルが台頭しつつある(上位社集中が懸念される)。
- それでも、戦略提言等を含むレポーティングの領域は、(既存調査会社にとって)最後の砦として残るだろう。
以上
2022.11.08掲載