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たいとる

Withコロナ時代に向けたリサーチ業界の準備 第13回

さぶたいとる

「リサーチ」業界の定義変更とグローバルランキングの変動

ほんぶん

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子

リサーチ業界からの定義変更

2020年の秋、市場調査・世論調査の世界的組織であるESOMARは、業界の定義を「リサーチ」業界から、「インサイト」産業へと変更しました。新しい定義では、「さまざまなデータを収集・分析し、クライアントにインサイトを提供する」産業となります。
この定義変更は、定量調査、定性調査を中心とした従来の(狭義の)市場調査から、新領域としてマーケティングテクノロジーやデジタル・データ分析などの「テクノロジーが主導する調査」が加わりました。例えばDIY型ツールや「マーテック(マーケティングテクノロジー)系のプラットフォームなどのデジタル技術のことであり、これらが業界構造の大きな変革を牽引しています。この流れでデジタルテクノロジー企業がこの業界に含まれるようになります。
もう一つの新領域は、アウトプット形態の多様化によるもので、例えば特化した領域に向けた業界レポート(ホワイトペーパー)、ビジネス・プロセスに関するカウンセリングやアドバイザリーサービスなどが含まれます。経営コンサルティング企業もこの新しい業界定義に合致し、この業界に含まれるようになります。また、同時に調査会社もその業態を拡大しています。
JMRAのマーケティング・リサーチ産業ビジョンにおいて「イノベーションエンジン」と捉えましたが、世界的に業種を問わず、ビジネスにデータを最大限に活用することの重要性が加速しています。
米国の市場調査協会(旧CASRO)も2017年インサイト協会(Insights Association)」へと名称変更しており、この流れは対岸の火事ではなく、日本も含めた世界的なトレンドといえます。

リサーチ/インサイト業界の市場規模が倍増

ESOMARでは今回の定義変更に先立ち、数年前から準備をしていましたが、この新定義に移行した”ESOMAR Global Market Research(GMR)”によると、2018年の世界の市場規模は473.6憶ドル(約5.2兆円)から、2019年には899.0億ドル(約9.9兆円)と2倍近くになっています。

参考)
従来と同様のリサーチ業界       売上高: 464.7億ドル
追加されたリサーチ/インサイト業界  売上高: 434.3億ドル

世界の地域別に見ると、デジタル技術の進展が著しい北米のシェアが大きくなっています。
(2018年 45% → 2019年 54%)

新定義での世界ランキング

ESOMARの新しい定義「さまざまなデータを収集・分析し、クライアントにインサイトを提供する」インサイト産業の2019年の売上高の世界ランキングをみていきます。

1位~10位

この中で目立つのは、4位アドビシステムズと6位セールスフォースです。
どちらも有名なデジタルテクノロジー企業ですが、下表の売上高は両社の事業の中で、新しい定義に該当する事業のみの金額です。前年からの成長率が、どちらも30%以上と非常に大きいことがわかります。

11位~20位

このランクには、コンサルティング会社(緑のハッチング)が5社入っています。(うち4社は今回初めてランクイン)。また、マーケティングテクノロジー企業(青のハッチング)が3社。従来型の調査会社はたった2社しかありません。

21位~25位

こちらもすべてが今回初のランクインです。
ちなみに、前回10位のインテージは、前年比+7.0%と成長しているにもかかわらず、28位に順位を下げています。同様に米国のWestat(従来型の大手調査会社)も、前回9位から30位へと順位を下げており、新定義の中では新規領域企業の成長が著しいため「調査会社」の順位が下降したことがわかります。

データ・テクノロジー系企業の参入

今回、ランキングに初登場のテクノロジー企業を見ていきます。マーケティングプラットフォームの提供企業が上位にランクインしていますが、どのような企業なのか注目企業をご紹介します。

注目企業  アドビシステムズ(4位)

アドビといえば、クリエイティブ関係のソフトウェア(イラストレーターやフォトショップ)などが有名ですが、2018年のマルケト(Marketo)を始めとしてマーケティングテクノロジー企業を次々と買収してきています。そこから、デジタルマーケティングのプロセス全体に対して包括的にサービス展開を行い、業容を拡大しています。
(参照:Adobe https://adobe.ly/3luBaaV )
デジタルプラットフォーム上で、変化に気づきすぐに対処できるだけでなく、さらに原因や理由を分析し、予測まで可能なツールであることがわかります。

2020年秋にESOMARが実施したクライアント調査では、今後のトレンドとしてクライアント側の「内製化の進行」が予測されています。コロナ禍による経済的課題とともに、リサーチクライアントが自分で処理・解決できるこのようなツールが発展していることも関係しています。

専門性の高い領域を強みとする企業

特定の専門分野のサービスを拡充し、他社の追随を許さないレベルまでサービスを磨いている企業が上位にランクインしています。

上位の(従来型)調査会社

世界ランキング上位常連の調査会社は、グローバルネットワークを強みとしています。
成長している調査会社が多いですが、その成長率はマーケティングテクノロジー企業には及びません。M&Aが盛んに行われていますが、この領域の競争の厳しさを物語っています。

注目企業 クアルトリクス(24位)

DIY型のリサーチシステムですが、当初は学術系を中心に愛用者が増え、その後顧客満足度調査、従業員満足度調査といった「個人情報」が関わる調査の内製化ニーズに応える形で伸びていきました。Salesforceやマーケティングプラットフォームなどの既存の社内システムとの連携が可能で、営業活動に生かせる調査を実行しやすいという特徴があります。2019年、SAPに80億ドルで買収され、開発スピードが高まったようです。日本では価格競争の激しいインターネット調査領域ですが、世界的な技術や機能の進化には目覚ましいものがあります。
クアルトリクスの特徴は、アウトプットまでのスピード感、予測分析や自動で改善提言などを行う分析機能が充実していることです。

<スピード感>

リサーチのスピード感がますます高まっていますが、そのようなスピードが可能になると、クライアントの開発スピードやサービス向上にも変化を与えることがわかります。
・顧客が回答するとすぐに、ディーラーのダッシュボードに反映される
・製品テストのテストユーザーのフィードバックがテスト後すぐに反映される

<分析機能>

・Voice IQ
通話音声から自動でトピックと感情を分類。音声通話の傾向を割り出す。

・Static IQ
データの構造を直ちに自動的に理解し、最も適切な表示方法で視覚化。
他のシステムからのデータをシームレスにインポート可能。

・Text IQ
機械学習と自然言語処理により、フリーテキスト回答の中にパターンと傾向を発見する。
タグ付け不要・データは自動更新。

リサーチシステムの普及には、進化した機能だけでなく、手離れのよさや手頃な価格感などさまざまな要素があるとは思いますが、このような開発が世界的に進んでいるということを念頭においておく必要があるでしょう。
(参照:Qualtrics https://www.qualtrics.com/jp/ )

グローバル上位企業の特徴

ESOMARによる新しい業界定義「さまざまなデータを収集・分析し、クライアントにインサイトを提供する」で、上位を占めた企業の多くに共通したのは以下のような点でした。

  • グローバル展開している
  • デジタルデータ(SNS、POSなど)を扱う
  • AI 活用やオートメーションへの取り組み
  • 強い専門領域で、アドバイザリーサービスやコンサルティングを行う
  • デジタルプラットフォームの活用

リサーチ業界から「インサイト産業」へと向かうグローバルトレンドの中で、私たちが実現できることを一緒に考えていきましょう。

 

2021.4.20掲載