令和6年11月1日より、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランスフリーランス・事業者間取引適正化等法、以下「本法」とします)が施行されました。本法が適用される会員も多いことが予想されるため、今回は本法について解説します。
1.保護対象となる特定受託事業者
本法の保護対象となる「特定受託事業者」(以下「フリーランス」とします)とは、業務委託の受託者であって、(1)個人であって従業員を使用しないもの、又は、(2)代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもののいずれかをいいます。なお、1週間の所定労働時間が20時間未満の労働者を雇用しているにすぎない場合や、雇用期間が30日未満の労働者を一時的に雇用しているのみの場合も「従業員を使用しないもの」として本法の保護を受けることになります。
また、ここでいう「業務委託」の内容について、業種や業界等の限定はありません。物品の製造・加工委託、情報成果物の作成委託のほか、単なる役務提供委託も「業務委託」に含まれます。
2.義務(1):取引条件の明示義務(3条)
フリーランスに対し業務を委託するすべての発注事業者は、フリーランスに対し業務を委託した場合、直ちに、(1)発注事業者とフリーランスそれぞれの名称、(2)業務委託した日、(3)給付の内容、(4)給付を受領又は役務提供を受ける期日、(5)給付を受領又は役務提供を受ける場所、(6)(給付内容について検査する場合)検査を完了する期日、(7)報酬の額(具体的な金額を明示することが困難な場合は算定方法)及び支払期日、(8)(手形など、現金以外の方法で報酬を支払う場合)支払方法の各事項を、書面又は電磁的方法によりフリーランスに明示しなければなりません。
電磁的方法には、電子メール、電子メールへのPDFの添付、SNSのメッセージ、チャットツール等も含まれます。また、これらの電磁的方法によるか書面によるかという明示方法は、発注事業者が選択できます。ただし、電磁的方法で明示した場合にフリーランスから書面の交付を求められた場合には、原則として書面を交付する必要があります。
なお、明示事項のうち、その内容が定められないことに正当な理由がある未定事項については、その内容が定められない理由と、未定事項の内容が決まる予定日を委託時に明示する必要があります。また、未定事項が確定したら、直ちに当該確定事項の明示(補充の明示)をする必要があります。
この取引条件の明示義務は、フリーランスに業務委託する全ての発注事業者が遵守しなければなりません。したがって、自身がフリーランスである発注者が別のフリーランスに業務委託する場合にも、自身がフリーランスである発注者は取引条件を明示する必要がある点にご注意ください。
3.義務(2):期日報酬支払義務、募集情報の的確表示義務、ハラスメント対策整備義務
義務(2)は、特定業務委託事業者(従業員を使用する個人事業者、又は、従業員を使用又は2人以上の役員がいる企業)がフリーランスに業務を委託する場合に遵守しなければならない義務です。
1) 期日報酬支払義務(4条)
特定業務委託事業者は、検査をするかどうかを問わず、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定め、当該期日までに支払いを完了する義務があります。当事者間で特に支払期日を定めなかった場合には、物品等を実際に受領した日が支払期日になります。また、物品受領日から起算して60日を超える日を支払期日として定めた場合には、受領した日から起算して60日を経過した日の前日が自動的に支払期日となります。
例外として、特定業務委託事業者が元委託者から受けた業務の全部又は一部をフリーランスに再委託する場合、再委託である旨や元委託者からの支払期日等を明示すれば、フリーランスへの支払期日を、元委託からの支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内に設定することができます。
2) 募集情報の的確表示義務(12条)
特定業務委託事業者は、広告等によりフリーランスの募集を行うときは、その情報について、虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容を保つ義務があります。
例えば、意図的に実際の報酬額よりも高い報酬額を表示したり、実際に募集を行う企業と別の企業名で募集したり、募集を終了しているにもかかわらず表示を継続する等が的確表示義務違反となります。
3) ハラスメント対策に係る体制整備義務(14条)
特定業務委託事業者は、ハラスメント行為によりフリーランスの就業環境を害することのないように相談対応のための体制整備等の必要な措置を講じる義務があります。
具体的には、(1)ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化、周知、啓発、(2)相談窓口の整備、(3)ハラスメントへの迅速かつ適切な対応が求められます。
多くの企業では、すでに労働者を保護対象として「職場におけるハラスメント対策」が整備されているはずなので、当該社内体制やツールを活用して、保護対象に「フリーランス」を追加することで対策を講じていることになるはずです。
4.義務(3):禁止行為(5条)
義務(3)は、フリーランスに対する1か月以上の業務の委託について、特定業務委託事業者が遵守しなければならない義務です。ここでいう「1か月以上」とは、基本契約を締結している場合には、基本契約を締結した日を始期とし、基本契約が終了する日を終期として計算します。また、同一の委託内容について契約の更新がある場合には、空白期間が1か月未満であるかぎり、最初の業務委託の始期から、最後の業務委託の終期までが通算されます。
フリーランスに対する1か月以上の業務の委託について、特定業務委託事業者は、(1)フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付の受領を拒否すること、(2)フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬額を減ずること、(3)フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付受領後にその給付物を引き取らせること、(4)通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬額を不当に定めること、(5)正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること、(6)不当な経済上の利益を提供させること、(7)フリーランスの責めに帰すべき事由なく不当な給付内容の変更や不当な給付のやり直しをさせることが禁止されます。
5.義務(4):育児介護等と業務の両立に対する配慮義務、中途解除等の予告義務
義務(4)は、フリーランスに対する6か月以上の業務の委託について、特定業務委託事業者が遵守しなければならない義務です。ここでいう「6か月以上」についても、基本契約を締結している場合には、基本契約を締結した日を始期とし、基本契約が終了する日を終期として計算します。また、同一の委託内容について契約の更新がある場合には、空白期間が1か月未満であるかぎり、最初の業務委託の始期から、最後の業務委託の終期までが通算されます。
1) 育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(13条1項)
フリーランスに対する6か月以上の業務の委託について、特定業務委託事業者は、フリーランスからの申出に応じて、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければなりません。
たとえば、フリーランスから育児のためにオンラインでの業務に変更したいという申し出があった場合、取りうる選択肢を検討して、実施可能であれば実施しますし、やむを得ず実施できない場合にもその理由を説明する義務があります。ただし、あくまでフリーランスからの申し出に応じて配慮すれば足り、すべてのフリーランスの育児介護等の事情を予め把握して配慮することまでは求められません。
なお、フリーランスに対する6か月未満の業務委託についても、特定業務委託事業者には、フリーランスからの申出に応じて、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をする努力義務も課されている点にご注意ください(13条2項)。
2) 中途解除等の事前予告・理由開示義務(16条)
フリーランスに対する6か月以上の業務の委託について、特定業務委託事業者は、当該業務にかかる契約を中途解除したり、更新しない場合には、フリーランスに対し、少なくとも30日前までにその旨を予告しなければなりません(16条1項)。また、予告の日から契約満了日までに、フリーランスから中途解除や更新拒絶の理由の開示請求を受けた場合には、これを開示しなければなりません(16条2項)。
但し、(1)災害などのやむを得ない事由により予告が困難な場合、(2)フリーランスに再委託をした場合で、上流の事業者の契約解除などにより直ちに解除せざるを得ない場合、(3)業務委託期間が30日以下など短期間である場合、(4)基本契約を締結している場合で、フリーランス側の事情で相当な期間、個別契約が締結されていない場合、(5)フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合には、予告義務は免除されます。また、上記(1)~(5)のいずれかに該当する場合や、理由の中に第三者の秘密情報が含まれる等により理由開示することによって第三者の利益を害するおそれがある場合、法令上の守秘義務等の他の法令に違反することとなる場合には、理由開示も不要となります。
以上