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第1回レポート『アフターコロナ時代のオフライン調査のありかたを探る』

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宮寺 一樹(ウェブ・メルマガ分科会委員長)

リサーチャーの交流会、同窓会的な面もあったJMRAカンファレンスが、コロナ禍によってオンライン開催に変更となりました。
これまで経験したものより遥かに大きな問題の中で様々な施策を取らざるを得ない事態の中で、マクロ的な視点で見れば小さな決定なのでしょうが、これが業界のみならず都市、国、全世界の人々を等しく覆っている問題なのだという事実に愕然としてしまいます。

人と人との接触に制限がかかっている今、オフライン調査の実施の可否などリサーチ業界の現場も大きな影響を受けています。
全3回でお送りするカンファレンスレポートの最初は、まさに喫緊の課題である『アフターコロナ時代のオフライン調査のありかたを探る』と題したパネルディスカッションからお送りします。参加者は以下の方々です。

司会: 
鈴木 文雄 氏(JMRA理事:日本リサーチセンター 取締役)
パネリスト:
山田 直昭 氏(CLT対策協議会委員長:消費者行動研究所 代表取締役社長)
水城 良祐 氏(情報共有基盤整備委員会委員:アスマーク 取締役)
持木 俊介 氏(リサーチ・イノベーション委員会委員:日経リサーチ)

冒頭で、よくメディアで使用されている東京都のコロナ新規感染者数の推移のグラフについて、リサーチャーの視点から新規感染者数に検査数、重症患者数を追加した複合グラフにしていました。
確かにこれにより新規感染者数がただ増えているという視点だけでなく、検査数が遥かに増えていること、重症患者数が増えていないことがよくわかります。このようなグラフで見ることで、コロナの状況の認識においてさらに多くの気付きが得られるのではないでしょうか。

まずは「コロナ禍における訪問調査の現状」について、日本リサーチセンター鈴木氏からのレポートです。
平常時の調査フローのうち、「調査員が自治体に出向き住民基本台帳から名簿抽出」「応諾者への調査員訪問」「調査概要説明+面札または調査票留め置き」「調査員による調査票回収または郵送投函」についてはコロナ禍で対応に変化があったそうです。
全国の複数自治体から住民基本台帳の閲覧見合わせの連絡があり名簿抽出が実質ストップ、毎月実施していた全国訪問留め置き調査は3、4、5月の実施を中止、6月から再開したそうです。ちなみに東日本大震災の時は4月の1カ月間だけの中止だったとのこと。
また高齢の調査員の家族からの調査員活動停止依頼や、調査対象者との近距離接触の回避、企業の社会責任としての対象者及び調査員の感染防止施策などを行ったとのことです。
また、エリアにより対象者の感染状況や予防意識が異なり回収状況に大きな乖離が出る可能性があるのと、対象者調査員の予防の観点から2020年の時系列調査は中止になったそうです。

これらを踏まえ、Withコロナの訪問調査として幾つかの施策(会場の座席間隔を2m以上開ける、用具は都度消毒、換気、発熱、風邪症状があるスタッフは出席不可等)を実施しています。おそらくこの辺りは各社同様の施策をとっているものと思われますが、ワクチンが開発され、コロナが完全に収束するまではこのような感染防止施策を継続して続けていかなければ対象者が安全に協力できません。
この辺り、各社一丸となって調査でのクラスター発生など最悪の事態が発生しないよう、油断せず進めていきたいものです。

次に、「CLT協議会の暫定ガイドラインと現在のフィールド環境」について消費者行動研究所山田氏からのレポートです。
CLTも訪問調査同様、3月からの3カ月間は調査を実施できなかったそうで、協議会では予防対策ガイドラインを策定し6月4日にリリース、CLT以外の調査手法においても活用が期待できるとのことです。
具体的にはホテルや飲食店がとっている施策と同様のもの、またリクルーターや調査員に具体的な感染防止施策を説明するなどを行っているそうです。
とにかく、「調査員の安全」と「徹底的な予防対策で対象者の不安を取り除く」という面を重視しているとのこと。
調査実施後に対象者へアンケートを行ったそうですが、徹底的な感染対策に感心する方や励ましの声がほとんどだったとのこと。こういった対策を地道に続けることにより、対象者の不安を解消していくことは業界にとって非常に重要ではないでしょうか。


次に「オフライン調査再開への取り組みと施策」についてアスマーク水城氏からのレポートです。
アスマークではモニターリクルート業務を多数行っているそうですが、やはりコロナ禍で2月中旬から影響が出始めたとのこと、決まっていたオフライン調査のほとんどが延期または中止になったそうです。ほぼ全ての業務に影響が出た中で、オンラインインタビューがが、3月以降300件以上(リクルート含む)実施と大きく伸びたそうです。今では専属チームを設けさらに対応強化しているとのこと。
今ではデプスインタビューはオフラインと遜色ない環境で実施できているそうです。
オンラインインタビューについては各社取り組みを始めていると思いますが、すでに大きな実績を上げている事例があるということで、インタビューのオンライン化の加速はより進んでいくものと思われます。
また、オフライン調査のニーズにも応えるため、ガイドラインを策定し、感染予防対策を徹底しながらの調査にも対応しているとのことです。オフライン調査の見学をリモートで行うなど先進的な施策を行っているのも参考になるかと思います。

次に「オフライン調査の調査員向け施策」について持木氏からのレポートです。
こちらも緊急事態宣言中は該当地域でのオフライン調査は原則中止、緊急事態宣言の解除に伴い6月1日から調査再開。
また再開にあたっては調査員に「感染しない、させない」を最優先に指導し、会場においても感染予防施策を徹底しているとのことです。
訪問調査についても前述の事例同様、接客業と同等のコロナ対策を行い、調査員についても健康状態記録書を作成するなど体調管理も十分に行っているとのことです。

ただ、課題として
・高齢化が進む調査員のメンタルケア、人員不足
・調査員の熱中症対策、実査スピード
・在宅率が上がっているコールセンターの調査管理
・会場調査において様々な制限がある中で従来同様の調査結果が担保できるか
があるそうです。同様の業務を行っている会社は同じ問題に直面していることが容易に想像できます。

4社のレポートを踏まえると、やはり3〜5月の緊急事態宣言中はオフライン調査がほぼ実施できない状態にありつつも、
その後を見据えて様々な手を打っていることがわかります。その後のパネルディスカッションでは現場の生の声を聞くことができました。

例えば、コロナ後に会場調査を行うことが困難になり、一部ホームユーステストに切り替える場合もあったそうです。
ただし、全ての条件を一定にして行う調査と対象者に委ねられるホームユーステストでは結果に齟齬が見られたが、コロナ下で行った会場調査の結果はこれまでの結果と遜色なかったそうです。これを踏まえると今後も会場調査は必要になるとの強い確信を持ったとのことです。
もちろん同一商品の継続利用など、ホームユーステストは必要になりますが、これまで会場調査で行っていたものを無理に切り替えるのは違うのでしょう。

また、定性調査のオンライン化は数年前から少しずつ進めていたのが、コロナ禍で一気に広まり、今では「デプスはオンラインでいいよね」と言われるようになったそうです。またこれまで1都3県でしか行うことができませんでしたが、オンラインでは全国を対象に行うことができるようになったりなど、メリットも大きいようです。オフライン、オンラインそれぞれ良し悪しを把握しつつ取り組んでいければ、新たにビジネスチャンスを得ることにもつながるかもしれません。

最後になりますが、鈴木氏曰く「営業面で言うと、オンラインミーティングが主流になったことによって、プレゼン用のパワポの作り方が少し変わってきた」という話が興味深かったです。要はスクリーンへの投影前提の資料だと文字を大きくし要点だけ書いたものが当たり前だったのが、オンラインだと視認性が上がるため、文字数が詰め込んでも意図が伝わるようになった、ということです。私も当然のことのように「フォントサイズ大きく」「要点だけ載せて文字数少なく」と考えていたので、この話を聞いて眼から鱗でした。

2020.8.19掲載

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