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第2回レポート『定性調査のニューノーマルを考える』(前編)

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宮寺 一樹(ウェブ・メルマガ分科会委員長)


2回目となる今回は、前回の「アフターコロナ時代のオフライン調査のありかたを探る」と似たテーマではありますが、定性調査カリキュラム小委員会のパネルディスカッション「定性調査のニューノーマルを考える」をお伝えします。
1時間半と長めのコンテンツ、かつ様々な気づきのあるパネルディスカッションなので、このレポートは前・後編に分けてお伝えしようかと思います。

コロナ禍で多くの定性調査がオンラインで実施されている中、ツールの使い方やオフライン対面手法との比較で良し悪しを語りがちですが、この新しい経験を重ねた実績を踏まえて、改めて定性調査の本質について考えてみたい、という趣旨のパネルディスカッションとなります。

 司会:
 池谷 雄二郎 (JMRA理事 トークアイ執行責任者COO)
 パネリスト:
 大槻 美聡 (マーケティング・リサーチ・サービス 常務執行役員)
 林 美和子 (統計調査センター プロジェクトマネージャー)
 吉田 朋子 (フリーランス 定性リサーチャー)

まず「定性調査の現在地」として現状の定性調査の実態についての説明からとなります。
おそらく調査会社各社は似た様な状況だと思いますが、現在までの大まかな流れとして
 ・実施自粛
 ・オンライン切り替え(突然全面移行)
 ・オンライン試行錯誤(インフラ、聞き方見え方、新マナー)
 ・オンライン定着(デプスは合っている、観察が楽、経験蓄積、生活者のオンライン慣れ)
 ・オフライン復活模索(対面がやりやすい、提示物コントロールができる、効率よくやりたい)<<現在地
 ・オン・オフハイブリッド(オフができるならオフがいい、オンとオフの棲み分け、オンオフ融合の新しい手法の誕生?)
この様な流れではないかとの提示がありました。
私が所属している調査会社でも概ね上記の様な感じだったので、各社試行錯誤しながらも同じ様な流れでここまで来たんだなぁ、とこれまでの苦労を振り返って遠い目になってしまいました。

繰り返しになってしまいますが、プラットホームやテクニカルな問題ではなく、オンでの試行錯誤と実践から見えてきた「定性調査の本質」から「これからの定性調査のニューノーマル」「これからの当たり前を考える」、というのが今回のパネルディスカッションの趣旨となります。

次に各パネリストの紹介を兼ねて、これまでの経験を踏まえた上での現在地について語ります。
まずは統計調査センターの林氏からです。
かなり前からWebでの生活者調査を行なっていたということで、初期の頃は「ネットにつながらない」「突然画面が切れる」など様々なトラブルがあったそうです。メリットとしては「現地に行かなくてもいい」「画面共有してのブレストがやりやすい」などがあったそうです。このあたり、現在とあまり変わらないですね。
また、海外に住んでいる日本人に対する調査や、スカイプ食事会(今でいうzoom飲み会的)なども当時から行なっていたそうです。具体的に何年前かはわかりませんが、接続料金の話が出ていたのでネット接続が従量課金の時代の話なのでしょうか、かなり前(90年代~00年代?ダイヤルアップ接続の時代?)からオンラインでの定性調査を行なっておられた様です。当時の環境を考えるとあまりにも先進的というか、よく実施できたなぁと思います。
それらを経て、コロナ以降にオンライン定性の必要性が急激に高まりzoomをインストールして試しに使ってみたところ、当時と比較して画質音質のめざましい向上にびっくりしたとともに、些細な表情も読み取れるので、これで問題なくインタビューなどができると嬉しくなったそうです。それ以降は、他の方にオンライン定性をお勧め(もちろんオフラインと違いがあることを認識した上で)しているとのことです。

マーケティング・リサーチ・サービスの大槻氏からは、今回様々な調査をコーディネートする営業の立場で、コロナ発生からこれまでの取り組みを語っていただきました。
まず、コロナの発生により、対面調査が自粛となり調査設計が見直しになり実査が延期になったりする中で、オンラインに少しずつチャレンジすることになったそうです。すぐにオンラインへ移行するクライアントとオフラインでの開催が可能になるまで調査をやめるクライアント、またオフラインができるようになるまで待てない、ということでオンラインに踏み切るクライアントなど様々な対応があったようです。オフラインができるまで待つ、というクライアントは古くから調査をやっている会社が多いと感じているそうです。一方若い人はオンラインでのコミュニケーションに慣れているため、これからの調査はそういった人たちを相手にしているということを意識してやっていかなければならないと感じているそうです。

次はESOMARで講演するなど海外でも活躍しているフリーランスの吉田氏です。
海外ではコロナパンデミック前からオンラインでのFGIなど普通に存在していたそうです。ですので海外在住の同業者は「なぜ日本はファシリティベースの調査にこだわるのか」と不思議がっていたそうです。
吉田氏は、日本人はオンラインに慣れていないのではなく、オフラインで満足していたのではないか、という考察をしています。ただ、コロナ後は否応なしにオンラインに移行せざるを得なくなってしまったため、心の準備がないままオンラインに舵を切った印象を持ったそうです。
実際にオンライン定性を行なって、初期の頃は「やっぱりオンラインはやりづらい」などという意見もあったそうですが、だんだん慣れてきており、オンライン定性というものを知ってしまった以上、コロナ収束後もこの流れは止まらないのでは、とのことでした。

オフライン定性とオンライン定性は対立構造として語られるケースが多いですが、両立するものではなく代替手段に過ぎないのか?ここから、この辺りについてのディスカッションが行われました。

大槻氏曰く、クライアントが「オフラインで社員にちゃんとしたグルインを見せたい」とおっしゃっていたそうです。すなわちオンラインはちゃんとしてない、という認識なのでしょう。「安物」「いい加減」などというふうに思っている節があるそうです。仮にオンラインで行っても、あくまでピンチヒッターという考えでいるのかなぁという感想を持ったとのことでした。

林氏は調査の相談を受けた際に、オンラインでやることのデメリットや対象者の条件などを変更することについて、クライアントへ事前に明確に説明したとのことです。やはりクライアントはこれまでやっていた調査とやり方が変わることによる漠然とした不安を持っているので、この辺りをきっちり説明して大丈夫だと納得させる必要があったとのことです。

吉田氏は、オンライン調査の「経験知」の有無が全てなのではないかと感じているそうです。当然ながらこれまでやってきたオフラインの調査を、急遽オンラインにしたことによって比較すれば違いがあるのは当然だし、慣れていないことを恐れているだけではないか、弱点と言われている部分は慣れてくればほぼ解消できるのではないか、とのことです。

皆さんの話を総合すると、調査会社側、クライアント側双方で漠然とした不安や違和感を感じている方が多いようです。
次回は、オンラインで感じた違和感を元に、オフラインで当たり前だと思っていたことを改めて見直すいい機会ではないかという、今回のパネルディスカッションの大きなテーマについてお届けする予定です。

2020.9.23掲載

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