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【開催レポート 前編】JMRAオンライン・ミニ・カンファレンス2023

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宮寺 一樹(ウェブ・メルマガ委員長)

2023年4月25日にJMRAミニカンファレンスが開催されました。
テーマは「インサイト産業の進化に向けて」とのタイトルで、AIやメタバースでインサイト産業が今後どのように変わっていくのかが、今回のテーマです。

開催の挨拶で内田会長は、様々なデータソースをうまくまとめてインサイトを導き出し、いくつかのシナリオを描き、メタバース上でバーチャルテストをしてみる、などが今後出てくるのだろうと予測しています。 ChatGPTに「AIでの業務サポートの後、リサーチャーに残る仕事・責任とは」を聞いたところ、クライアントや消費者を守る倫理的な面、どのようにこの答えが導き出されたかがわかるような透明性の担保を挙げてきたとのことです。
個人的には、昨今のAIの進化をみていると、それすらいつかカバーしてくれそうな日が来るのではと思ってしまいます。完全な倫理面の理解を備えたAIは、もはや人間に取って代わって知的産業すべてをカバーしてしまうのではないか、というディストピア的な発想になってしまいそうなので、一旦それは置いておきましょう。

今回はインサイト業界の進化に対する様々な取り組みについて紹介していくとのことで、最初のテーマはメタバースについてです。

登壇者はインテージR&DセンターメタバースXR分科会の方々で、メタバースでのIDI(インデプスインタビュー)実験報告、「メタバースready? アバターを使ったIDIをやってみた」を紹介するとのことで、興味深いタイトルです。

説明するのはvtuberチックな女の子のアバターで、しかも男性(分科会リーダーの田邉氏)の声で話し始めるという、インパクト大な感じで始まりました。説明している方の動作をトレースして、口もしゃべりに合わせて動いています。「VRチャット」という仮想空間を使用しているとのことです。

VRチャットはVR空間でユーザーと交流ができる「ソーシャルVR」と呼ばれるプラットフォームで、ユーザーが好みのアバターを使い、多種多様な仮想空間でのコミュニケーションが可能となっていて、企業によるメタバース施策でも数多く利用されているそうです。

まずはメタバースの定義の解説から始まります。皆さん、なんとなくは理解していると思いますが、きちんと定義から説明いただけるのは私的にもありがたいところです。

  • メタバースとは、インターネット上に構築される仮想空間の総称で、「meta(超越した)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語。
  • ユーザーは仮想空間上のアバターを操作して仮想空間内を自由に移動したり、他のアバターと交流したり、ショッピングしたり、仕事をしたりが可能。
  • 厳密な定義(Matthew Ball氏が提唱する内容。諸説あり)としては
    1. 永続的である
    2. 同時性&ライブ性
    3. 同時参加人数無制限
    4. 参加者によるモノの制作・保有・投資・売買などが可能
    5. デジタルと物理、両方の世界にまたがる体験
    6. 今までにない相互運用性
    7. 数多くの企業/個人がコンテンツや体験を生み出す
    だそうです(出所:アーツ・アンド・クラフツ社ホームページ https://www.arts-crafts.co.jp/post-12632/)。

ただし、今回の分科会での定義は「インターネット上に作られた仮想空間。メタバースの利用者は、3DCG空間で自分の姿をアバターに変えて、他者との交流や各種の経済活動を行える。」とのことです。

インテージグループでは、リサーチ・インサイト分析の高度化を目指して様々な取り組み、例えばメタバースを活用した座談会や、大型メタバースイベントでのアンケート調査・行動ログ分析などを実施しているそうです。

今回は「デプスインタビュー実務におけるアバター活用可能性の検証」ということで、素顔を隠した「アバター」は被験者が「話しやすい」状況を生み出すかを検証した結果の報告となります。コロナ禍を経てインタビューがオンラインにシフトし、今後も継続して使用されていくことが予想され、また、アバター関連の技術の進展でリアルタイムのやり取りが可能になったため、アバターをオンラインインタビューに活用すると、より被験者が「話しやすい」環境を構築できるのでは、という仮説のもとに企画したとのことです。

検証のために「薄毛に関する悩み」という回答しづらいテーマでインタビューし、通常のオンラインインタビュー、カメラをオフにしてのオンラインインタビュー、アバターを使用したオンラインインタビューの三方式を行うことで、インタビュー形式が回答者に与える印象を比較してみたとのことです。結論から言うと「ソーシャルプレゼンスを減らす操作(アバター利用、音声のみ等)が話しやすい状況をつくる」という仮説は引き続き維持されたそうです。

まず、今回のテーマに関するインタビューには対象者の過半数が参加したくないと回答、インタビュー形式は顔を映さない手法を選択する人が一番多く、つぎに顔あり、最下位はアバターでした。顔を映す、映さないで分けると、6割以上が映さない手法を選択しています。また、薄毛・抜け毛の悩み度合いは形式への影響は少なく、性格(内向的・外向的)によって異なるという結果も出ています。このあたりはなんとなく想像できる結果かと思います。

インタビュー対象者の行動や発言を見ると、アバターでの参加者はこのテーマに抵抗感を持ったものの「話しやすい」との評価が高く、提供している情報も多いとのことです。音声のみの参加者は「テーマに抵抗感があり、かつ緊張する」と回答した方が多いが、実際に提供してくれた情報は顔有り形式と同じくらいとのことです。ちなみに、顔有りの方は「抵抗もなく緊張もしていない」人がほとんどと、こちらは選択肢ごとの性格傾向がそのままでているようです。

事後アンケートでは、アバター形式でのインタビュアーは自身の落ち着き度合いが低いと評価したものの、参加者から見たインタビュアーは落ち着きがあると回答されています。顔を映す状態のほうが、インタビュアーは、より参加者の状態を把握可能とのことです。各インタビュー形式とも、参加者は自分の選択にメリットを感じているとのことですが、インタビュアーはアバター形式に抵抗感有り、との結果が出ています。
最初に立てた仮説は、サンプル数は少ない(15人)ものの、概ね維持されているようです。

今後の展開としては、グループインタビューでのグループダイナミズム検証や、今回のテストでは2Dアバターだったものを3Dアバターにして仮想空間内で行うメタバース応用、アバターとリアル会場でおこなう会場インタビューのバリエーション検証、センシティブなテーマではなく一般的なマーケティングテーマでの検証、AIを活用した自動インタビューなどを想定しているそうです。

今回の取り組みを経てもたらすものとしては、

  1. 【生活者、医療消費者】
    • 参加しづらかった調査に参加できるようになる
    • 言いにくいことをはっきり言えるようになる
  2. 【クライアント】
    • 生活者、医療消費者などのインサイトを深く知ることができるようになる
    • 拾いきれなかった声が聞きやすくなる
  3. 【リサーチ企業】
    • リーチできなかった生活者、医療消費者などにリーチ可能になる
    • 新たなリサーチ手法を獲得し、より多彩なマネタイズが可能になる

と、それぞれの立場でメリットがある、ということでした。

2Dアバターは既存の機材で利用できますが、メタバースとなるとVRゴーグルが必要になるため代表性の担保という意味でハードルが高いような気がします。このあたりは質疑応答にもありました。ただ、2Dアバターでの利用前提でも、ある程度のメリットは享受でき、PCがあれば対応可能なので、ハードルは意外に低いかもしれません。参加者の表情が読み取れないというデメリットはあるかもしれませんが、上記で挙げたようなメリットがそれを上回るようであれば「有り」だと思います。今後、AIの進化など我々を取り巻く環境が大きく変わっていくなかで、様々なリサーチ施策も新たな段階に入ってくるのかもしれません。

2023.5.16掲載

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