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【開催レポート 後編】JMRAオンライン・ミニ・カンファレンス2023

 

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宮寺 一樹(ウェブ・メルマガ委員長)

前回に引き続き、JMRAミニカンファレンス「インサイト産業の進化に向けて」のレビューをお送りします。
今回は『日本型「インサイト産業」のあるべき姿とは?』というテーマでお送りします。4名の方の発表の後にパネルディスカッションを行うという形式です。

まずは、明治学院大学 経済学部 専任講師 中野 暁 氏の発表からです。2017年ごろに、JMRAのマーケティング・リサーチ産業ビジョン委員会という組織で、「情報の力でくらしとビジネスを変革し続ける」ことをテーマとして活動されていたそうです。そこから世の中は大きく変革しているため、今回のテーマである『日本型「インサイト産業」のあるべき姿とは?』を改めて考える必要があります。今回は「人材と専門性」、「目利き」について語ってくださいました。
まずは、人材についてです。私は全く知らなかったのですが、内閣府が出しているAI戦略において、「数理・データサイエンス・AI」をすべての国民が育み、社会のあらゆる分野で人材が活躍することを目指す、とあるそうです。2025年の実現を念頭に様々な計画(文系理系を問わず、全ての大学・高専生が初級レベルの数理・データサイエンス・AIを習得する、等)をしているとのことです。中野氏が所属する明治学院大学では「数理・データサイエンス基礎科目カリキュラム」が提供されるようになり、それ以外でも「マーケティング科目内でのデータを活用した講義」の比重が増えたり、マーケティングの講義の中でマーケティングリサーチ教育も入れていく、ということも行われているそうです。
これにより、今後の新卒社員のデータリテラシー能力は急速に高まっていくと予想されています。同時に、我々がどのように彼らのポテンシャルを引き出していくのかが鍵になりそうです。
次に「生活者インサイトを得るための目利き」についてです。まずは昨今のデータと社会環境の変化をおさらい、ということでビッグデータやChat GPTを始めAIが産業の中に入り込んている話から、AIの嘘であったりそれらの誤情報の拡散によるネット炎上、人が接触する情報の偏りなど問題点についても触れています。中野氏は「オンラインとリアル小売空間での商品選択の多様性と集中」を研究しているそうで、人気商品への需要の集中を分析しているとのことです。一般的にオンラインのほうが探索コストが低くロングテイルの影響をうけ選択がバラけやすいと言われているそうですが、結果で言うと全く逆でオンラインのほうが過去の購買履歴でのレコメンド機能などで慣性が働きやすく多様性が失われ、オンライン購買経験の豊富な人ほどその傾向が強まりより人気商品に集中しやすくなるそうです。人の行動のおいて慣性が働きやすくなっている状況になりつつあるなか、いかに慣性を崩して予測不可能な体験を作り出していくのかという取り組みがマーケッターとして必要なのでは、というのが中野氏の主張です。

次に、CCCMKホールディングス(株) データアナリスト(ビジネスデータアナリシス / データアナリシス第1)西山 亮太郎 氏から「インサイトユーザー側のデータ(Tポイント等)解析の実例」です。
いくつかデータ解析の事例を上げていただいています。まずは西九州新幹線開通の影響分析からです。沿線の駅周辺でTカードを利用した人を抽出し、開通前後の特徴を抽出、旅行好きクラスターを分析しタイプを5つに分け各クラスターの全国旅行地の利用割合を集計、西九州新幹線の利用者割合と比較することで今後の課題を把握する、という分析内容になっています。利用者は「旅行好きなアクティブミドル層」で、他の観光地と比較すると、若者や親子連れを取り込めていない、という結果でした。今後はこのクラスターを「旅好きデータベース」としてデータベース化し、全国主要都市・観光地の旅行者を知ることができるので、街づくり計画や旅行ツアーや商品開発に活用するとのことです。
もう一つの事例として、T会員のプロモーションに使えるセグメントをパネル化した「セグメントパネル」も紹介されていました。

次に、(株)クロス・マーケティング リサーチソリューション本部の小川 湧司 氏の「文章生成AIをはじめとする環境変化と若手リサーチャーとしての目線」です。
GPTと仕事をするとどうなるのかの例をあげています。まず「調査企画」、「調査票作成」、「コンセプト画像作成」、「レポート作成」、「プレゼン」それぞれの項目での生成系AIの活用についてです。各フェーズにてChatGPTのみならず様々な生成系AIが活用できそうであるとの解説です。各社では様々なテストを行っているとは思いますが、すでにそれぞれの業務に最適なAIツールがすでにあることが驚きです。説明の中でサンプルとして調査項目や調査票の作成をしていますが、それなりに使えそうなアウトプットが出力されていました。またコンセプトメッセージをGPTで作成してSTableDiffusionというツールで画像化するという実例も見せてくれました。出力された画像はなんかちょっと変な感じで、誤解された日本的なものになっていましたが、いずれ改善されるのは間違いないでしょう。次に、クロス集計の結果からどんな人に刺さるかについても、ChatGPTで出力していました。こうしてみると、リサーチャーの作業は、遠からずAIで代替できるのでは、と考えてしまいます。現時点でもある程度の工数短縮につながるのは見えてきているのですが、各社の差別性が薄くなることにより、競争が激化するのでは、と小川氏は述べています。「インサイト」ではなく、売れる商品をもたらすための方法を提供する必要性があるとしています。

最後に、(株)アンド・ディ 社長(リサーチ・イノベーション委員会 委員)の佐藤 哲也 氏から、「生成系AIを使ったリサーチツールの開発事例」についてお話しいただきました。
まずAIの変化からです。以前のAIは、予め定義されたカテゴリのいずれかに当てはまるかを予測するしくみだったのが、生成系AIの登場で「言語での指示出し」、「事前学習無く知識が取り出せる」に変化していったとのこと。ただし、単なる言語計算機なのに、流暢に記述するために、正解を期待する人が多すぎるとの問題点をあげています。アンド・ディ社では、Chat GPTを用いたサービスとして、AIdeatorという新商品アイデアの発想を手助けするものを提供しているそうです。
例えば「アイデアを出したい商品やサービスカテゴリ」に、「商品カテゴリ名」を入力し、ターゲットを設定(複数設定可能)、「アイデアを生成する」というボタンを押すと、それぞれのターゲット層向けにアイデアをそれぞれ5つずつ提示されます。その中からターゲットを1つ選択し、「アイデア評価を行う」を押すと、そのターゲットでのアイデアをランキングで評価されます。さらに1位になったアイデアの「商品説明とイメージ画像」を押すと、簡単な商品コンセプト文と商品画像のサンプルをを生成するそうです。
もう一つのツールの紹介は「Table2Report」という、集計表から報告書を生成するツールの説明です。集計表(excel)から報告書(pptx)を生成してくれるという優れものです。集計結果を分析して、報告書の体裁にするまでのパターン生成を自動化しているとのことです。
ポイントとしては、生成系AIによる自然で正確なコメント、選択肢や質問の意図・意味を解釈してチャート化(色の選択なども)・スライド化、自動化によるデータチェック不要、大手調査会社仕様の集計表タイプ(マクロミル、クロス・マーケティング、マーケティングアプリケーションズ)を取り込み可能な点があげられます。サンプルデータを使用して、デモをみせてくれていますが、集計表から報告書の体裁でのパワポデータが出力されていました。

ここまで皆様の発表を紹介させていただきました。
JMRAでは、リサーチャーのDX/リスキリング推進としてセミナーを開催するとのことです。第1回は立教大学の佐々木先生と、最後に発表いただいたアンドディーの佐藤氏が講師をつとめ、「GPTモデルの衝撃ー変わるリサーチ業務」というタイトルで行われます。今回の発表で興味を持たれた方はぜひご参加ください。

2022.6.20掲載

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