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Withコロナ時代に向けたリサーチ業界の準備 第24回

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多様性・平等性・包括性DEI(Diversity, Equality & Inclusion)グローバル調査 結果報告(2)

本文

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


JMRAが参画しているGRBN(Global Research Business Network)では、「多様性・平等性・包括性(DEI: Diversity, Equality & Inclusion)」に関する調査を2021年10月~11月に実施しました。 今回は前回に引き続き、その調査結果を報告します。

<調査結果>(続き)

4.DEIへの懸念から組織や役職を離れることを検討した経験(過去1年間)
差別やダイバーシティ、インクルージョンおよび平等の欠如に関連した懸念があるために、組織や役職を離れることを考えたことがありますか?

    ■前回(第23回)の結果報告では、日本は、「公平ではない」とする比率、差別を直接体験したり目撃したりする比率が他の調査対象国と比べ、非常に低いことがわかった。しかし、この「DEIへの懸念から組織や役職を辞めた、または辞めることを検討した」比率は、日本は他の調査対象国とほぼ同じレベルにある。(MR業界 日本 23%, 各国平均 21%)
    DEI(多様性・平等性・包括性)がない職場では、人は組織を辞めることを検討し始め、組織は活力をなくし、大きな損失となる。

    【差別やDEIへの懸念により退職や役職を離れることを考えた経験 (過去1年間)】(%)

 

5.健康状態・障がいの有無とその影響
あなた自身が影響を受けている健康状態や障がいがありますか?
あなたの健康状態や障がいは、あなたのキャリアアップに影響を与えましたか?

    ■健康状態・障がいの状況を問う質問では、健康状態や障がいに関する3つの因子「ストレス・不安」「メンタル不調」「疲れやすい・スタミナの欠如」の中で、日本は「ストレス・不安」が調査対象国中で最も低い。
    「ストレス・不安」(MR業界 日本 5%, 各国平均 20%)
    一方で日本では、「健康状態・障がいがキャリアアップにデメリットになった」という比率が、調査対象国中で最も高いという結果となっている。(基数が少ないため参考値)
    健康状態・障がいがキャリアアップにデメリットになると思われているいうことは、不調があっても話すことができず、孤立させてしまう恐れがある。DEIの欠如に対するケアが必要とされている。

    【健康状態・障がいがキャリアアップに不利益になった】 (%)

6.育児休業の取得経験
育児休業を取得した経験がありますか?(子供がある人対象)

    日本での育児休業取得率は、調査対象国中の最低で、各国平均の半分以下のレベルである。(MR業界:日本28%, 各国平均61%)
    その原因としては、日本の職場での女性比率、女性が子供を産んで働き続けることの難しさ、男性の育児休業の取得率が低いことなどがあるだろう。
    この質問では、「育児休業(Parental leave)」の内容について、詳しく定義していない。しかし休業期間の長短やその内容を問わず、「育児のために休む」ことが、男性にとっても当たり前のことだと考えられるかどうかが大きな数字の違いとなっているのではないだろうか。「育児」に対し、女性が対処すべき問題という思い込みが、働きにくい職場を作っているのかもしれない。

    【育児休業の取得経験】(%)

7.女性の地位の向上について(日本のみ質問)
日本は世界の中でも女性の地位が低いと言われていますが、あなたは女性の地位をさらに向上させる必要があると思いますか?

    世界経済フォーラム(WEF)による男女格差を測るジェンダーギャップ指数で、日本は156か国中120位(2021年)である。「経済」「政治」「教育」「健康」の4分野の指標のうち、特に「政治」「経済」での格差が大きいとされている。これは、先進国の中で最低レベル、アジア諸国の中では韓国や中国、ASEAN諸国よりも低い結果である。
    しかしながら、男女格差に対して不公平だという比率は、調査対象各国平均よりも低い。日本のみ「女性の地位をさらに向上させる必要があると思うか」について追加質問をした。
    MR業界の女性は、81%が女性の地位を向上させる必要があるとしているが、男性では53%にすぎない。
    (なお、日本の勤労者全体についてみると、女性の方が地位向上に対する意識が低い)。
    改めてみなさんの周囲を見回してどうだろうか。
    なぜパートや非正規雇用は女性が多いのか。なぜ管理職や役員の女性比率は低いのか。あえて苦労を背負いたくないというような女性の意欲の問題もあるだろう。
    たとえ一人一人に差別意識がなかったとしても、社会や企業の構造によって引き起こされる「構造的差別」に目を向ける必要がある。

    【女性の地位をさらに向上させる必要があると思う】(%)

8.DEIの欠如に関連した問題を提起しにくい「空気」(日本のみ質問)
あなたの職場では、DEIの欠如に関連した懸念を抱えた人が、問題を提起しにくい「空気」があると思いますか?

    前回報告した調査結果の3.によれば、日本では差別の体験や目撃をしたという比率は低く、不公平だと感じる比率も低い。しかし、差別やダイバーシティ、インクルージョンおよび平等性の欠如と言った問題を提起しにくい「空気」といったものがあるのかもしれない。
    この追加質問で、DEIの欠如に関連した懸念を提起しにくい「空気」があるという人は、全体では32%(MR業界)だった。しかし、過去1年間にDEIに関する懸念から組織や役職を離れることを考えた人では、61%である。
    DEIの欠如に関する問題を感じている人は、多数派ではないが存在している。DEIに関する懸念を表立って言うのが難しいとしたら、それは心理的な安全性がない職場であり、創造性などを期待することもできない閉塞感のある職場である。

    【DEIの懸念を提起しにくい空気がある】(%)

■まとめ

    差別や不平等の問題は、マイノリティの立場にある人により起こりやすい。日本が「差別を体験した」比率が低いのは、多様性が低い社会であることだけでなく、DEIの問題を自分ごととして感じられていないところからきているのかもしれない。マイノリティの意見は、数値としては見えにくい。マジョリティの側にいる人が少数派の声を注意深くとりあげる必要がある。
    ジェンダーやセクシュアリティ、家族や扶養の問題、人種・エスニシティ、障がい、年齢、宗教などによる差別や不平等を受けるマイノリティを理解し、支援することや支援する人をALLY(アライ)という。同盟・支援という意味だ。DEIの問題の解決は、マジョリティの意識が変わり、共に解決するという連帯感がなければ難しい。
    今回の調査結果から、日本は、従業員自身の帰属意識、組織の一員として自分が大切な存在であると感じられているかという点で大きな問題を抱えていることが明らかになった。また、組織としてのDEIへの取り組みに対する評価も非常に低く、問題は山積している。

<調査概要>

この調査は、日本を含む世界10カ国で、リサーチャー向けと一般勤労者向けのオンライン・アンケート形式で実施され、多様性・平等性・包括性に関する市場調査業界の現状と課題、一般勤労者の認識との差異等について分析を行った。

以下の2つの調査からなる。

■調査対象者
調査1 市場調査(MR)部門 
18歳以上の市場調査(MR)部門(市場調査、インサイト、データ分析など)で現在働いている、もしくは最近働いたことがある人
調査2 一般勤労者
18歳から64歳までの、現在被雇用者、自営業者、最近一時解雇された人、退職した人、自主的に仕事をやめたを含む一般の勤労者

■調査実施期間
2021年10月20日から11月22日

■各国の回収サンプル数


 

本レポートは、JMRAがGRBNの調査結果を元に、独自に日本版レポートとして作成したものです。
本調査結果に関するお問い合わせはJMRA事務局までお願いいたします。
著作権
©2021TheGlobalResearchBusinessNetwork(GRBN)andTheMarketResearchSociety(MRS)GRBNGグローバルDiversity,Equality&Inclusivity(DEI)Survey2021Reportの著作権は、 TheGlobalResearchBusinessNetwork(GRBN)に帰属します

この調査の日本での実施にあたり、楽天インサイト様のご協力をいただきました。
ご協力に感謝いたします。

2022.4.12掲載