ESOMAR GMR日本アンバサダー 一ノ瀬 裕幸
世界各国の市場調査協会の連合体であるGRBN*)は、2020年に引き続き、日本を含む世界8カ国で『グローバル信頼度調査2022』を実施し、このほどその結果を公表しました。
*) Global Research Business Network : APRC(アジア太平洋:JMRAを含む)、EFAMRO(欧州)、ARIA(南北アメリカ)、AMRA(アフリカ)の4団体で構成
1.調査の目的と結果をご覧いただく際の留意点
今回の調査は、市場調査業界を含め、各国の政府機関や民間の専門組織が、一般市民からどの程度の信頼をかち得ているのかにつき、8ヵ国の協会と9企業の協力を得て、約7,600人を対象としたアンケート調査を実施・分析したものです。2020年のデータとの比較検討も行っています。
実査時期は2022年7月下旬から8月で、日本ではちょうど新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第7波が猛威を振るっていた時期と重なります。このことが日本の調査結果に影響を及ぼした可能性があることに留意が必要です。
なお、政治情勢やそれぞれのお国柄(調査に対する回答傾向等)が異なるため、各国間の比較にあまり意味はありません。全体平均及び他国のデータは、あくまでも参考情報としてご覧いただきたいと思います。
2.調査結果の重要なポイント
コロナ禍を受け、国際的に政府機関や保健当局への信頼度が著しく低下する中、市場調査業界(企業)に対する信頼度は全体として横ばいでしたが、日本では大きく下落した(総合信頼度指数±0→ -13)ことがわかりました。また、日本では他の専門機関への信頼度もおしなべて低下(対象業界全体:-4ポイント、データ分析業界:同-3、世論調査業界:同-11)しており、この2年の間に構造的な意識変化が生じた可能性があります。
なぜこのような結果に至ったのか、今回の限られた調査データからはその真相に迫り切れませんが、日本では特に「市場調査が消費者に利益をもたらしていると感じられない」こと、「調査に協力する時間が長すぎる」こと、「調査に協力しても楽しいと感じられない」こと、「個人情報の収集と使用方法に関する認知度が低く」、「個人情報保護の不正使用に関する懸念が強い」ことなどが示唆されています。
3.日本市場の変化に関する仮説
私たちはこの結果をどう受け止め、今後に向けて何をなすべきなのでしょうか?
サンプル数を含む調査方法、調査実施機関、調査票の内容などについては前回と変わっていませんので、今回の大きな変動はやはり日本社会や消費者の意識に変化があったものと考えるべきでしょう。
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日本では市場調査会社だけでなく、データ分析企業や選挙・世論調査機関への信頼度も落ち込んでいること、「個人情報の収集と利用に関する知識」が他国に比べて著しく低く、「個人情報保護と適切な利用に対する信頼」も低いままとなっていることが背景にあり、コロナ禍がそれらに拍車をかけたのではないかと思われます。
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2020年から2022年にかけての世情を振り返ると、まずコロナ禍がより深刻化し、長期化したことが挙げられます。また、個人情報保護規制が一貫して強化されてきたにもかかわらず、依然として漏えい事故が絶えないこと、選挙情勢調査でいえば直近の参議院議員選挙(2022年7月)での予測がおおむね「外れ」とみなされたことが思い起こされます。
さらに社会的な逆風として、「振り込め詐欺」等の犯罪行為への警戒心の高まりが見知らぬ相手との接触を避ける方向に働いていること、頻発するSNS等での「炎上」騒動、政府のコロナ対策やワクチン接種に関する専門家への信頼感が失われ、世論や人々の意識が政策に反映されていないと失望する感情などが、総合的に影響しているのではないかと考えられます。
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影響度としてはさほど大きくないかも知れませんが、2022年初頭にJMRAが提起した「No.1調査」問題が広告業界や各種マスコミに多大な反響を呼び起こしたことは、人々の「調査結果というが、信頼してよいのだろうか?」という素朴な疑問に火を付けた結果と言えるのかも知れません。
私たちは、これらのことに正しく危機感を持つ必要があると思います。
総じて、社会の流れに身を任せるだけでは事態が改善に向かうとは考えにくく、当業界からも積極的な情報発信を続けていく必要性があると思われます。
市場調査に対する一般市民の信頼度を高めていくことは、すべての市場調査産業従事者の責務と考えます。前回及び今回の調査結果から、日本では調査所要時間をより短くして対象者の負担感を軽減していくとともに、「調査に協力することが楽しい」、「消費者の役に立つ」、「個人情報が適切に取り扱われ、保護されている」と感じられる環境を整えていくことが重要と考えられます。
本メルマガ読者の皆さんの間でも、議論が進むことを期待したいと思います。
抜粋(日本語抄録)レポートはこちら
原文(英語版)レポートはこちら
なお、前回に引き続き今回も、日本の市民対象の調査にご協力をいただいた楽天インサイト株式会社様には、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
以上
2022.12.19掲載