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ほんぶん

第2部 組織の変革を推進する
第13章 ステークホルダーとの関係を改善する

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


最先端のインサイトチームは、自分たちが受け身のサービス提供者から、重要なビジネスパートナーへと変貌しつつあることを認識しているはずだ。彼らは意思決定者やその決定に影響を与えたいと考えている。彼らはビジネス上の課題について早い段階から議論に参加して、自分の意見、経験、情報を評価されることを望んでいる。また、すでに決定されたことにゴム印を押すだけのために後からインサイトを 利用されることを望んではいない。

第12章では、どのような集団であろうとも、相手をより理解するための対応を取らずに相手に影響を与えることはできないこと、そして多くのインサイトチームは自分たちの仕事の社内の利用者に関するインサイトをもっと改善できることを示唆した。しかし意思決定者全般、特に主要なステークホルダーをより理解するための対応をとった後は、そのインサイトを行動に移し、インサイトチーム内で変化を推進する必要がある。

ここまでのインサイトを変革するためのステップでは、主にチーム全体のマインドセットとチーム全体の行動に焦点を当ててきた。次のステップは、チーム全体で取り組むべきものでもあるが、その課題の本質は、これまで見てきた課題よりももっと個人的なものになるだろう。同僚の中には、これまでで最大の試練になる人もいるだろう。

自然な形で人間関係を築き、自分なりの方法で友人を獲得し、他者に影響を与える人々がいる。私たちは、そういう人たちに特有なことを観察し、そのヒントから学ぼうとした。私の記憶に残っている一例だが、ある同僚が、上層部が自分のチームのことをいつも「ノー」と言い、変えようとすることを常に妨害する存在だと認識していることに気づいた時のできごとだ。

彼は、それ以降すべてに 「イエス」 と言うことにした。それほど無謀なことではない。彼は、もし彼らが求めるように行動したら、その結果として起こることに気づくようにしたからだ。ある行動がもたらす負の影響を説明するたびに、どのように少し異なった決断をすれば、ビジネスが潜在的な問題を回避できるかという前向きな提案をした。彼はいつもの返答を「イエス」に変え、これまでよりはるかにポジティブなやり方でその後のやりとりをすることによって、彼と彼のチームに対する関係者の認識はビジネスを妨害する人から問題解決する人へと急速に変化した。

しかし、誰もがこのように行動を変える独自の方法を見出せるわけではないし、職場でインフルエンサーになるのは難しいと感じる人もいるだろう。では、私たちの個人生活は、誰から影響を受けているか、なぜその人たちに説得力を感じるのかを考えてみよう。

私たちは誰の助言をもっとも受け入れそうか。

誰のアドバイスが一番受け入れられやすいかと聞かれたら、おそらく2つのグループを思い浮かべるだろう。1つは、明らかに私たちの味方であり、常に私たちの利益を考えてくれる家族や友人である。もう1つは、ある特定のテーマについてあなたが権威を認めている人たち、特に私たちが納得できる形で知識を共有することに長けている人たちである。私たちが好きで、かつそのテーマについて私たちよりも知識があると思う人たちが完璧な組み合わせだ。私たちの意見は、自分でも気づかないうちに彼らの意見によって形成されることが多い。私たちはいつもメッセージそのものではなく、メッセージを伝える人を選んでいる。

反対に、本能的に不信感を抱いている人や、信頼できるかどうか判断できるほどよく知らない人からは、あまり影響を受けないものだ。知恵に疑問がある人や問題解決以外の動機がありそうな人からの助言は、それ自体に疑問を持つ可能性が高い。一度助言者に疑いを持つと、たとえそれが客観的に正しい場合でも、その助言に耳を傾けることは非常に難しくなる。これは個人レベルでもカテゴリーレベルでも同様だ。中古車のセールスマンが大勢いる中で、どうやって本当の掘り出し物を選ぶことができるだろうか。目の前に座っている財務アドバイザーに不信感がある場合、年金支給について客観的な判断ができるだろうか。

職場での影響力は、私たちが考える以上に、個人生活での影響力と共通している。人々は月曜から金曜の午前9時から午後5時までの間も、週末の家庭生活と同じように人から物を買っている。したがって、もし私たちがインサイトによって上級幹部職に影響を与え、変化を促したいのであれば、インサイトをより良くしようとするだけでは役に立たないことを理解する必要がある。また個人として、また部門として、他の人々の私たちへの認識を高める必要がある。

インサイトの専門家が、信頼されるアドバイザーになるには

IMAで最も効率的な方法として提案しているのは、インサイトチームが組織の上級の意思決定者から信頼されるアドバイザーを目指すことである。「信頼されるアドバイザー」という言葉は、他人に影響を与えようとする人がよく使う言葉だが、マイスター、グリーン、ガルフォードの共著による「信頼されるアドバイザー」(2000年出版)という本では、この言葉がより具体的に定義されている。これは当初、米国のプロのアドバイザーを指導するために書かれたものだが、世界中のインサイトチームを目指す人にとって非常に重要なものだと考えている。

マイスター、グリーン、ガルフォードは信頼されるアドバイザーになるためには、まず自分の信頼性を高める必要があり、信頼性と確実性、そして適切な親近感を伝えることによって築かれる信用にまず取り組むべきだと述べている。しかし、もし私たちが自己中心的で、アドバイスする相手ではなく自分にとって何がベストかを考えていると見なされると、このすべてが損なわれる可能性がある。職場で誰かに自分を信頼してもらうことも、家庭で愛されることもできない。しかし自分自身を信頼できるようにするために統制のとれたアプローチをとることはできる。では、どのような実践が可能なのだろうか。

マイスター、グリーン、ガルフォードからヒントを得て、次のことに取り組もう。

信頼性(Credibility:知識の正しさ・能力への信頼):多くのアナリストやリサーチャーは、すでに上級管理職から頼りになると思われているが、この信頼性が 「分析する」 または 「調査する」 という技術的な専門性に大きく依存しているのであれば、ビジネス課題を解決するために顧客の知識を応用できる人材として、どのように信頼性を築くかを考える時期にきている。

信用(Reliability : 頼りになる・責任感への信頼):すべてのインサイト専門家は、信用できると思われたいと願っているが、期待に応え、約束したものを毎度期限通りに提供する実績を築くためには、常に改善すべき点がある。

親密さ(Intimacy:好感がもてる・親しみ):職場で親しみやすい人でいることは、一部の人にとっては難しいが、相手の気持ちを考え、自分の気持ちをもっとオープンにすることは、誰にでもできることだ。

自分志向(Self-orientation:自己中心の度合い・自分の得を優先する):自分の行動や関係者との対話の方法を意識的に振り返らない限り、自分志向になっていることを認識するのは難しいものだ。意識的に努力するしかない。

成功するインサイトチームの13番目の秘密は、上級の意思決定者にとって信頼できるアドバイザーを目指すことだ。
重要ポイント:
  1. 企業のインサイトの専門家は、伝えるメッセージそのものと同様に、メッセージを伝える人としての評価も高める必要がある。
  2. 私たちは、 ビジネスアドバイザーとしての信頼(Credibility)を高める方法を探求するべきだ。
  3. 私たちは、信用(Reliability)への評価を積極的に高めるべきだ。
  4. 私たちは、自分の感情や性格をオープンに共有し、同僚を個人のレベルで知ることの重要性を認識すべきだ。
  5. 私たちは、個人としても部署としても、無意識的に自分志向で行うことに対して振り返りを行うべきだ。

 

エディタV2

本書ではこれまでにも何度か外向的な人と内向的な人の特徴とそれがインサイトチームにもたらす問題に注意を促してきた。これは特に影響の大きい問題なので、次の第14章では、このトピックについて詳しく説明する。

2023.2.21掲載


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