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ほんぶん

第3部 インサイトの戦略と人材をリードする
第22章 変化をもたらすチャンス

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


あなたがインサイトディレクターとして、これまで働いたことのない会社で働くことになったとしよう。もしかしたら全然知らない分野かもしれない。まったく新しいスタートだ。入社式が終わると、CEOやマネージング・ディレクターに会う。それはおそらく直属の上司ではなく、上司の直属の上司だろう。

CEOは単刀直入に話を切り出す。彼女はハーバード・ビジネス・レビューで、「最も先進的な企業はインサイトが組織のパフォーマンスを変える力を持つと信じている」という記事を読んでいた。しかし、彼女がこの会社で経験したインサイトは、まったく違うものだった。彼女はインサイトチームのことはよく知らないが、分析スキルの技術面や市場調査手法の理解が評価される部門だということは理解している。しかし、そこが会社全体の業績を牽引するような部門ではないことは確かだ。人材に問題があるわけではなく、それがインサイトがここで果たす役割ではなく、経営幹部が期待する役割ではなかったというだけだ。

そのため、彼女のあなたに対する課題はいたってシンプルだ。「90日後に来て、インサイトによって本当に変化を起こすために必要なことを教えてください。インサイトに対するあなたのビジョンは何ですか?」ということだ。

将来のビジョンを問われるのは、新任のインサイトリーダーだけではない。組織における新しいビジョンはいつでも描くことができるし、誰かに聞かれるのを待つ必要もない。しかし、新しくリーダーになった人のマインドセットには、物事を明確に考えやすい時期というものがある。もし、あなたが今の役職、会社、部署に長くいるのなら、自分がその役割に新しく就いたのだと想像することが助けになるかもしれない。2018年9月にロンドンで開催されたIMAのインサイトフォーラムの第54回会合では、この点を強化するために代表者全員に新しい仕事を与えるワークを行った。

インサイトの将来のビジョンについて考えるのが好きな人がいる一方で、恐怖でいっぱいになる人もいる。あなたなら何から始めるだろうか? 以下はIMAのメンバーからのアドバイスである。

  • 構造化された方法で、きちんと考えるための時間と空間を自分自身に与える。
  • アイデアは常に縮小されるので、大きく考える勇気を持つこと。

もしこれが重責だと感じるなら、最初の段階ではCEOをすぐに満足させ、同僚をやる気にさせるような見事な言葉を思いつくことではないというのが良いニュースだ。まずは、分析を行って、本当に情勢を理解しているかどうかを確認する必要がある。インサイトがどのような変化をもたらすことができるかを見極めた上で、インサイトが実際に組織に変化をもたらすことができるよう野心を抱くことができるのだ。

情勢の理解

これから6つのステップでこの問題を探ってゆく。最初の2つのステップは、インサイトの機能とは全く関係なく、自社が事業展開している市場とその市場の中での自社の組織を理解することなので意外に思われるかもしれない。

1) 分析を始めるには、まず組織を超えて外の現実の人々の生活に目を向けることが大切だ。あなたの組織は、彼らの生活のどの側面を改善しようとしているのだろうか? あなたの会社はどのような市場にいるのだろうか? その市場は固定的なのか、変化しているのか、成長しているのか、消滅しようとしているのか?

2) そして、組織がその市場でどのように成功し、あるいは失敗しているかを見ることができる。顧客とどのように接し、その接し方は成功しているのか?それは、消費者にとっての価値、企業にとっての価値を生み出しているのか? 業績を向上させたい場合、どのような課題と機会に直面しているのか?

次のステップは、別の市場、つまり社内のインサイト市場に関するものだ。

3)まず、企業の前提を理解する必要がある。インサイトチームは孤立した環境で機能するのではなく、他の多くの部門とその幹部職からなる環境で役割を果たす。これらのチームは、それぞれが異なる考え方を持っている可能性が高く、各マネジャーは、自分が社内でのポジションや自分の性格や経験によって焦点を左右される。しかし、組織には、集合的なマインドセット、つまり物事の進め方、心配すべきこと、無視しても大丈夫なことについての思い込みがある可能性も高い。

4) 次のステップは、CEOや上級管理職の意思決定の方法を検討することである。なぜならインサイトチームが変化をもたらすことができるのはそうした決断によって影響を与えることによってのみだからだ。インサイトチームが消費者の意思決定の原動力を理解したいと考えるのと同じように、意思決定の方法(例えば、役員会などの正式な委員会)についても主張がある可能性が高い。さらに行動バイアスによる深い理由があるかもしれないという認識もあるだろうが、それを明らかにするのはより難しい。

5)その上で、自分の現在のインサイトの能力と知識に目を向け、もし会社の業績を変革したいのであれば、それがどの程度目的にかなっているのかを検討すべきである。まず、あなたの組織の現在のインサイト能力を測定する。どのようなことが得意なのか?どの領域が最高なのか?他社に遅れをとっているところはどこか?よくわからない場合は、IMAが提供するベンチマークツールを活用して、リーダーをサポートすることができる。

6)最後に、自社の現在の「知識資産」を評価することも重要だ。市場、顧客、顧客と組織の相互作用、そして消費者と企業の双方にとってどのように価値が生み出されるかについて、企業は何を知っているのだろうか。顧客に関する知識は、ほとんどの組織でバラバラになりがちであり、さまざまな場所にさまざまなバージョンの真実が存在し、同じ結果に対しても信頼度は異なっている。これは驚くべきことではない。多くの企業では、そもそも新しいインサイトを生み出すためのアプローチが断片的であるか、インサイトの活動を新しいことを発見することに集中させ、すでにわかっていることが互いにどのように関連しているかを解明することには重点が置かれていない。

これらの6つのステップで結果を集めたら、点と点を結び、自社にとっての成功とは何か、そのためにインサイトが果たすべき役割とは何か、そして現在その役割を果たすための用意はどの程度整っているのかを考えてみよう。

成功するインサイトチームの22番目の秘密は、 インサイトの機会を理解するために、情勢を調べよ。

重要ポイント:
  1. 組織におけるインサイトの新しいビジョンは、いつでも設計できる。依頼されるのを待つ必要はない。
  2. 新しい役割、会社、部署に新たに加わることは、インサイトの新たなビジョンの設計を容易にする。 その機会をつかもう。
  3. インサイトの機会を理解するには、まず外部市場とその中での組織の位置づけを考えよう。
  4. 次に、インサイトのための内部市場、つまりあなたの会社の現在の計画と意思決定の方法について検討しよう。
  5. 最後に、現在の自分のインサイトの能力と知識を把握しよう。もし会社の業績を変革したい場合、それは適しているだろうか。

 

次章紹介

この段階で結論を出して、インサイトの新たなビジョンを書き始めようという思いにかられるかもしれない。しかし、それに飛びつく前に、もう一つ質問について考えてほしい。それはインサイトに対する真の野心は何かということだ。それは私たちがあまり頻繁に考える質問ではないので、次の章で探求していこう。

2023.7.18掲載