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第3回レポート『定性調査のニューノーマルを考える』(後編)

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宮寺 一樹(ウェブ・メルマガ分科会委員長)


『定性調査のニューノーマルを考える』の後編です。

 司会:
 池谷 雄二郎 (JMRA理事 トークアイ執行責任者COO)
 パネリスト:
 大槻 美聡 (マーケティング・リサーチ・サービス 常務執行役員)
 林 美和子 (統計調査センター プロジェクトマネージャー)
 吉田 朋子 (フリーランス 定性リサーチャー)

オンライン調査で感じた違和感を元に、オフライン調査で当たり前だと思っていたことを改めて見直してみよう、というパネルディスカッションとなります。

オンラインで調査を行ったときに出てくる違和感とは、「これまでオフラインではこうだったよね?」からくる違和感でした。
オフラインに慣れていると、オンラインで「できる」/「できない」のような話になりがちです。
そういう「良い/悪い」、「できる/できない」論をするのではなく、これまでオフラインで当たり前のようにやっていたことが正しいことだったのかを検証するいい機会かもしれません。
固定観念にとらわれたオフライン調査の考え方を、やわらかい考え方で拡張し、定性調査の世界を広げていこう、というのが今回の趣旨となります。
オンラインで感じるもどかしさ、には以下の点があるとのこと。

・全身が見えないもどかしさ
・対象者との信頼関係が築きにくい
・対象者の感情が感じられない
・雰囲気をつかめない
・肌感が伝わらない
・対象者同士のインタラクションがおきにくい
・話者が変わるとゼロリセットされる感じ
・表面的で上滑り感がある
・もう1歩突っ込みにくい
・非言語情報がない

吉田さん曰く、「これまでモデレータをやっているときは回答者と同じ部屋で暑い寒いなどの感覚を共有して行っていて、相手が目の前にいることで全身の情報を肌感として
みようとしていたのがオンラインでは平面にかわった。すべての回答者が同じようにこちらを向いて並んでいてプラットフォームによっては自分もその中に含まれるという、
ある種アルバムを見ているような感覚がある。それがなんとなくモデレータのもやもやにつながっているのでは?」
表情だけではなく、全身の動きなどから感情や思考を読みとっていたモデレータからすると、情報が制限されているような感覚になるのは仕方のないことなのかもしれません。
大槻さんはそれを「丸テーブルの呪縛」とよんでいます。バックルームで見ているクライアントや観察しているリサーチャーからすると、マジックミラー越しに見るのもオンラインで見るのも大して変わらず、むしろオンラインのほうが回答者の表情がよく見えるために有益とのことです。丸テーブルはやや神格化されているのでは、と考えているそうです。
長年調査に携わっている林さんも、かつては「丸テーブルが私の場所!」と考えていたそうですが、よく考えたら地方の設備が整っていない会場でガタガタする椅子や長机でインタビューをやっても何も問題はなかったそうです。ただ、丸テーブルがない寂しさはあったそうです。
ここから、丸テーブルに象徴される定性調査の当たり前を疑ってみましょう、ということでそれぞれの事項についてなぜ当たり前なのか、どうして当たり前になったのかを探っていきます。
ここでオフラインの4つの当たり前が提示されます。

・丸テーブルによる参加者の非序列化
・グループダイナミクスで対象者相互が刺激しあう
・時間と場の共有から生まれる空気感を捉えることが大事
・主催者側の予めの設定に合わせてくれる

「グループダイナミクスに関する思い込みを見直す」ということで、まずグループダイナミクスについての解説から入ります。
グループダイナミクスとは、他人の思いに気付くための他花受粉であるとしています。要するに他の人の意見を聞くことによって刺激を受け、自分の思いに気付いて反応し、それが連鎖することによってグループ全体が活性化するという仕組みです。
林さんは、「グループダイナミクスとは自分の思いに気付いてもらう手段である」、と話します。会話が多いとか、盛り上がっているとかはグループダイナミクスではないと断言しています。
吉田さんも、「グループインタビューがすごい盛り上がったね?」といってその後見直すと、特定の人だけが発言していたりしているケースも多々あるそうです。
「グループインタビューは気付きの連鎖を起こすための1つのツールではあるが、それが起きることによって他花受粉が確実に起きるというわけではない」、と述べていました。
大槻さんは、「盛り上げることによる安心感がこちら側にもあるのではないか」と指摘しています。

オンとオフで象徴的に違うところといえば、やはり丸テーブルなのか四角い画面なのかです。オフだと同じ場を共有していることによる連帯感で話が盛り上がり、グループが活性化した「ように」見える、見ている側はその状態で安心します。オンだと、誰かの発言ですぐに気付きや反応は起きず、じっくり考える傾向があるとのこと。画面を通じた離れた関係性の中で内省し、自らの思いに気付き表現、ただ、画面でみると刺激を受けていない人は明確にわかるため、見ているクライアントは不安になる、ということが起きているのではないでしょうか。参加者の立場で考えると、オフの場合は自分の居場所じゃないところで話していて、なおかつ鏡の向こうから見られている不安がある一方で、オンだと自分の場所で話している安心感があるようです。
午前11時からのグループインタビューに遅れて参加してきた人が寝起きかつスッピンで参加してきたことがあり、そういう状態でも参加できるという利点もあることに気付いたそうです。

これまでは主催者側のコントロール下にある特定の場所で、特定の時間に対象者に来ていただいていました。これがオンラインになることにより、例えば調査中に宅配便が来たり、子供が騒いだりということがありました。以前は主催者側から、そういった対象者を使わないような指示もありましたが、そういった対象者のリアルも知ることができる面があるという理解も進んできているとのことです。

オフラインで、モデレータはユーザーの緊張を解すための様々なスキルを用いていましたが、これって実は対象者を緊張する場にいさせているから、だったのです。
対象者は、自分の知らない場所で何を話させられるのかもわからないわけです。まな板の上に鯉を連れてきて、ピチピチしてねと言っているようなものだったんだということに気付いたわけです。
一方、オンラインではそれぞれ参加URLからアクセスします。この時点でモデレーターと対象者の関係性が変わってきているのではないでしょうか。モデレータから「緊張しないでねー」など上から目線で言われることもなく、より日常に近い自然体で参加できているのは間違いないと思います。

ここで、対象者の方から見たオンとオフの違いについて改めて考えてみましょう。
対象者からすれば、

・行かなきゃいけない→繋がるだけ
・場に慣れなきゃ→自分の場に近づいてきてくれる
・テンションを合わせなければならない→マイペースも許される
・全身見られている緊張感→顔だけでいい安心感
という利点があります。

世の中のモードも変わってきていて、例えば知らないインスタグラマーに気軽にコメントしたり、年齢が離れていて社会的地位がある人に対しても辛辣な言葉をなげかけたり
する時代になってきています。こういったことはこれまでやってきた調査のシーンではなかったことですが、実際に世の中はそういったふうに変わってきています。
また、オンラインツールの利用に慣れてきていることもあります。オンラインコミュニケーションの裾野はすごい勢いで広がっていて、年配の方もオンライン会議システムを使って寄り合いを行ったりしているそうです。当然、若い人は言わずもがなですね。世の中がそういうモードになったのなら、定性調査もそれに寄り添って変わっていくのは必然なのかもしれません。
もしかしたら、いわば実験室で行われているような、オフライン調査は世間と大きく乖離している状態だったのかもしれません。

ここから、生活者のモード変化にどう対応するかという話題に移ります。
吉田さんは、「オンラインのツールがどうとかではなく、対象者とモデレータ、リサーチャーの関係性を見直すべきなのでは」とおっしゃっています。
大槻さんいわく、「こんなに長い説明文を読んで集中が切れないだろうかなどと言った心配は、オンラインになって初めて気になりだしたことです。」
また、オフラインで呼ぶ対象者は(語弊はありますが)扱いやすい人を呼ぶ傾向にあったが、最近は本来の意味での意見を聞くべき人を呼びやすくなったとのことです。
これまで文章表現がきちんとできる人を呼ぶ傾向もありましたが、世の中のモードが変わってきているのに、その条件でやっていてよかったのか、ということにも考えが及んだそうです。 また、オンラインでの感情表現の変化に伴い、言葉を手がかりにしていたものが感情表現ツールなどを使うことにより、観察ベースに進み、新しい定性調査が生まれるのではないかということです。

ここまでの話を大きく2つにまとめると、

・オフラインの代替ではないオンラインというツールによる広がり
・生活者のコミュニケーションの変化による調査への参加モードの変化

となります。ここからどんな事が可能になるかというと、それぞれの調査が点で終わるのではなく、繋げることが可能になるのではないでしょうか。
例えばグルインをしながらエスノができたり、朝聞いて夜も聞いてみるなど、これまで費用などで制限があった部分について、やり方が広がったように感じます。
そもそも定性調査はフレキシブルに様々な手法を取れるはずなのに、いつの間にか自分たちが決まった枠でやってしまっていたのでは、という反省にも繋がりました。
大槻さんは、オンラインによってあらためてフレキシビリティの部分に気付いたとのことです。「これからは課題に応じてオンラインオフラインを使い分けていく時代になるのではないでしょうか。手法の広がりによって、リサーチャーの創造性がより期待される時代になると思います。」と述べていました。

「定性調査のニューノーマル」は、

・オンラインによって変化した生活者のモードにあわせて、もっと自由に調査手法を柔軟に使い分ける
・調査のやり方をもっと生活者に寄り添って考えること

が今回のディスカッションを通じての結論でした。

最後に、今回のパネルディスカッションですが、大変興味深い議論で特に面白かったのが、これまでのオフライン環境が対象者に緊張を強いる環境なので
モデレータの場を盛り上げるスキルが必要になったが、オンラインではリラックスして参加できるので関係性が変化してきているというくだりですね。
我々MR業界の人間は、世の中のコミュニケーション変化に柔軟に対応していかなければならないということを痛感させられました。

以上長くなりましたが、今回のJMRAオンライン・ミニ・カンファレンス 2020『アフターコロナ時代におけるリサーチ業界のありかた』についてのレポートを終わります。
最後までお読みいただきありがとうございました。

2020.10.19掲載

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