宮寺 一樹(ウェブ・メルマガ分科会委員長)
昨今の「SDGs (Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))」に取り組む企業が増えています。JMRAではこのテーマいち早く着目し、市場調査業界との関わりついて、2020年のオンライン・ミニ・カンファレンスにて講演をいただきました。
こちらについての発表である『ビジネスの新常識「SDGs」~リサーチ会社はどう取り組むべきか~リサーチャーが“今”最低限知っておくべきSDGs』をレポートします。
もう皆さんは御存知だと思いますが、2030年までに持続可能な世界を築くことを目指し、17のゴール(目標)を設定、2015年国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、略してSDGs、エスディージーズと読む)」。これは発展途上国に限った話と誤解されがちですが、世界の国々は環境・経済・社会が密接に関係しているので、世界の人々が将来に渡って幸せに暮らしていけるように国際社会全体で取り組む必要がありますよ、というのがSDGsの考え方となります。近年、ビジネスの分野でSDGsへの関心が急速に高まっており、リサーチ業界も「知らない」「分からない」では済まされません。
このセミナーでは、株式会社インテージの星 晶子氏によるSDGsの簡単な解説と、リサーチ会社がどのように貢献できるのかについて事例をまじえて紹介しています。
SDGsは17の項目がありますが、5つの要素、5つのPで整理できるそうです。
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People(人間)17のうち1〜6までの項目。貧困と飢餓を解決し、すべての人が平等で衛生的な環境のもとで教育が受けられる
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Prosperity(豊かさ)7〜11までの項目。すべての人が経済的に豊かで満たされた生活ができる
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Planet(地球)12〜15までの項目。持続可能な消費と生産、自然環境の持続的な管理など地球環境保護の取り組み
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Peace(平和)16番目の項目。平和で校正な社会の育成
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Partnership(パートナーシップ)17番目の項目。世界的なパートナーシップで上記の目標を実現する
2020年1月に、SDGsの認知率を調査したところ、約3割の方が、内容を知っている、あるいは内容をある程度知っている、言葉は聞いたことがあると回答したそうです。
ちなみに2018年1月だと9.3%の認知率だったそうです。この2年間でかなり認知度が上がったように見えます。また、他社の調査も踏まえて言うと、若年層(10〜20代)の認知率が高い傾向があるそうです。
2020年から学習指導要領に「持続可能な社会の創り手となる」などの文言が盛り込まれる、幼児向け雑誌にSDGs関連の連載が掲載される、ファッション界でSDGs推進、レジ袋有料化などにより、とくに若年層の生活者の意識・行動が変わったように見えるとのことです。
学習指導要領にSDGs関連の文言が盛り込まれていたのは全く知りませんでした。それと幼児向け雑誌にSDGs関連の連載が掲載されるとは、かなり意識の高い編集部なのではないでしょうか。レジ袋有料化も挙げられていますが、たしかにPlanetの項目に当てはまる動きかもしれません。
政治・経済界でもSDGs推進の動きが顕著で、日本政府は「SDGs推進本部」というのを立ち上げたそうです。本部長が総理大臣、副本部長が官房長官と外務大臣、部員はその他すべての大臣となっているそうで、政府の本気ぶりが伺えます。この推進本部が策定したSDGsアクションプラン2020は企業経営へのSDGsの取り組み及びESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資)の後押しも盛り込まれています。また経団連は「Society5.0 for SDGsで新たな次代を切り開く」というの2019年度事業方針を策定しました。各企業のIRサイトをみてもESGを重視した経営を謳うところがかなり多いです。これにより企業は間接的にSDGsの達成に間接的に寄与しているといっていいでしょう。
我々のクライアントはこのように既に様々な取り組みを行っています。
そもそも企業がSDGsに取り組むメリットは何なのでしょうか。
星氏はよると「SDGsに取り組むことは、事業・企業の成長にも重要な意味を持つ」とのこと。例として上げているのは、「取引先の選定において、環境問題や人権問題に取り組んでいるかを基準として定めている」ようなケースです。これにより、選定段階で漏れる企業が出てくる可能性があるとのことです。また新卒が企業に応募する際に、その企業がSDGsにどのように取り組んでいるかを基準として持っているケースも最近見られるそうです。
星氏が所属するインテージの取り組みについても紹介してくれています。
JMRAもブースを出していたようですがインテージは横浜で行われたSustainable Brands国際会議に協賛、リサーチパートナーとして参加し生活者調査の結果を発表したそうです。2018、2019はCSR担当や経営企画周りの参加者が多かったそうですが2020年はマーケターの参加が増え、実際に案件に繋がったそうです。
星氏によると、SDGsの推進を支援するサービスを考えたときに、既存サービスにサステナビリティやエシカルの視点を加えることで対応ができるのでは、とのこと。企業にとってSDGsの重要性が増すとしても何のためにリサーチするのか、何をリサーチしたいのか、という部分については実はそれほど変わらないのではという意見です。ただ、今までのフレームだと対応しきれない課題があるのも事実で、例えば生活者の深堀りをする際にこれまでのプロファイリング項目では捉えきれなくなってきているとのことです。サステナビリティやエシカルを重視しているお客様に商品が響いているのかどうかをクライアントは知りたがりますが、これまで質問していた項目では不十分だということに直面したそうです。
そこで、横浜で行われた国際会議で発表した生活者調査で、サステナブルな行動を行っている人がどのくらいいるのかをセグメントし、その調査で使った項目を応用してそういった方々が何を購入しているのかというデータを見られるようにする、といった取り組みを始めたとのことです。このデータについては大手クライアントも興味関心を示しているそうです。その他、社会課題を企業のサービスでどう解決するのかを考えるワークショップを社内で開き、ディスカッションをしたものを可視化したりなどしているそうです。
リサーチ各社も既存サービスをベースにSDGsの視点を加えたものを提供しているそうですが、星氏は最後のスライドで「リサーチ会社のスタンスも変わるべき」と今回のセミナーで一番言いたかったそうです。
これまでリサーチ会社は第三者として調べて終わり感がありましたが、サステナブルなライフスタイルの推進に踏み込み、世の中の今を反映するだけでなく社会で地球を良くしていくために「世の中はこうであるべき」をリードすべきではないだろうか提言で最後を締めていただきました。ブラックライブスマターに賛同しない企業に批判が集まるなど、今後の社会状況を考えるとリサーチ会社がクライアントに提案する内容にSDGsの要素を加味することが今後増えることが予想されます。業界としてもSDGsへの取り組みは今後一層重要性が増すと言ってもいいかもしれません。
2021.8.11掲載