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ほんぶん

第1部 組織にとっての価値を特定する
第1章 インサイトとは何か

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


 この記事をお読みになっているあなたは、インサイトチーム*で働いている可能性が高いかもしれない。ではインサイツ(insights)とは何だろうか。
 *訳注:Insightをインサイト、insightsをインサイツとする。本書では、概念や機能を説明するときには 「Insight」という言葉を大文字にするが、発見や知識を説明するときは大文字にしない。


 インサイツはデータや事実や情報と異なるものであることについては、ほとんどの人が同意するだろう。インサイツはこれらのものから引き出すことはできるが、これら自体はインサイツとは異なる。

 インサイト部門以外の多くの人は、インサイト(Insight)を市場調査、顧客分析、または競合情報(インテリジェンス)と表現するかもしれない。しかし私たちは、これらはインサイト生成プロセスの機能的なインプットの一部を説明するラベルであると言いたい。これらもまたインサイツと同じものではない。

ではインサイツ(insights)とは何だろうか。

 告白の時間: 私は、インサイトマネジメントアカデミー(IMC)でフルタイムで働く以前は、英国のバークレイズ銀行で10年以上インサイトと分析部門を管理していたが、その間、正確な定義をあまり信用をしていなかった。インサイトと見なされるどうかは、それが特定の定義に合致しているかどうかよりも、消費者や消費者がそれまでに知っていたこと、知らなかったことの方が大きく関係している言えるだろう。それよりも私は組織を正しい方向に向かわせるような根拠に基づいた意見を出しているかどうかに関心があった。

しかし定義づけは役立つこともあるので、ここで説明する。IMAではインサイツを次のように定義している。

 インサイツとは、消費者の価値、行動、習慣、状況、態度、市場、環境に関するコンテクスト(背景・文脈)に沿った観察結果であり、組織がどのように行動し成功を収めるかを変える可能性があるものである。

 これでは言葉が多いので、この定義の3つの部分に注目しよう。

 「インサイツはコンテクスト(背景・文脈)に沿った観察結果である。」

 インサイツは孤立した事実や数字ではなく、より広い背景的理解の観点から提示される知見のことである。

 例えば2020年4月現在、毎日何人の人がコロナウイルスで感染し入院したかが報告されている。その一つ一つが誰かの家族の危機を表している。しかし、毎日の数字はそれ自体では統計として何の意味も持たない。それがインサイツになるのは、入院患者数が前日よりも多いのか少ないのか、病院の収容能力よりも多いのか少ないのか、予想よりも多いのか少ないのか、他の国での人数などが同時に伝えられて初めて統計としての意味をもつのだ。


 「..消費者の価値、行動、習慣、状況、態度、市場、環境に関する...」

 この真ん中の長い部分はもっと言葉を追加してもよいのだが、顧客と市場インサイトを専門とするチームにとっても焦点の範囲が広いことを反映している。

 市場の消費者がどのように、そしてなぜ顧客となり、組織の価値を創造または破壊するのかを説明するのに役立つ根拠はすべてインサイトチームの役割に関係している。

 そのため以下のような様々な種類のデータのインプットがインサイト創出のプロセスになりうる。

 顧客データベース:もし幸運にもデータベースがあれば、顧客の身元、顧客との関係の性質、顧客の取引内容、取引の価値などが分かるかもしれない。

 内部データ:他の部署から、従業員のやり取り、業務上の制約、財務上の影響、苦情など、知識のジグソーパズルの重要な断片を入手できるかもしれない。

 市場データ:自社の顧客データを分析する能力と、市場データへの依存度の高さは、業種によって異なることが多い。しかしすべての企業は、市場の規模と価値、市場における自社のシェア、より広範なトレンド(消費者、人口動態、社会、経済、技術など)についての外部の視点を必要としている。

 消費者調査:最後に、多くの企業でインサイト業務のバックボーンを形成している市場調査だ。定量調査、定性調査、エスノングラフィック調査、観察調査、その他(ここにあなたの好きな調査方法を挿入してください)。私たちは皆、顧客と対話し、彼らがなぜそのような行動を取るのか、またどのような状況下で異なる行動を取るのかを理解する必要がある


 「...それは、組織がどのように行動し、成功を収めるかを変える可能性があるもの。」

 これはインサイツと情報を区別する重要なポイントだ。インサイツは実行可能でなければならず、その行動が組織の成功に貢献しなければならないということに先進的なインサイト部門のリーダーは皆、同意している。十中八九、その成功は、「$」や「£」のような通貨記号で定量化することが可能であり、実際それは必須である。第一に、価値あるインサイツを生み出したことを自分たちに証明するため、第二に、意思決定者に私たちの提言による利益を実証するためである。


 これがIMAのインサイツの定義だ。別の言葉をお好みの方は、自由に自分で作ってください。ただし、あなたの定義がこれと同じベースをカバーしていることを確認してほしい。そうしないとインサイトチームがその作業をあまりにも狭く定義してしまう危険性がある。


 インサイト(insight)とは何か?

 私たちは今、「インサイツ(insights)とは何か?」という問いに対する答えが得られた。では、「インサイト(insight)とは何か?」という2つ目の質問への答えもわかっているということだろうか。必ずしもそうではない。

 インサイツが個々の文脈・背景に沿った発見であるとすれば、インサイトは数多くのインサイツから構築される蓄積された理解である。複数のプロジェクトや情報源から得た証拠や発見を 照合し、関連性を考察し、矛盾を調査するプロセスに関連する

 企業のインサイト担当者が、市場の消費者がどのように、そしてなぜ組織の顧客になり、どのように組織の価値を創造または破壊するのかを自他共に説明できる根拠に基づいた意見を形成できるのは、この全体像があるからだ。

 組織内でインサイト機能が効果を発揮するための出発点は、インサイトとインサイツの定義、そして両者の違いを理解することである。

成功するインサイトチームの第一の秘訣は、その後のすべての活動の基礎となるインサイツとインサイトの定義に同意していることである。
重要ポイント:
  1. インサイトは、コンテクスト(背景・文脈)に沿った観察結果であり、データや単独の事実や数字ではない。
  2. インサイトは、なぜ消費者が組織の顧客になり、組織の価値を生み出すのかを説明するのに役立つものであれば、どんなものでも関連づけることができる。
  3. インサイトは、組織の内部や外部のさまざまなデータソースから導き出すことができる。
  4. インサイトは、組織がどのように行動し、どのように成功を収めるかを変える可能性がなければならない。
  5. インサイト(Insight)は、数多くのインサイツ(insights)に加え、それらの関連性を理解することで得られる集合的な知識である。

 これがインサイツ(insights)とインサイト(insight)だ。では、インサイトチームの仕事とはどのような関係性があるかだろうか。これについては、次の章で説明する。

2022.7.19掲載

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