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ほんぶん

第1部 組織にとっての価値を特定する
第2章 インサイトの目的とは何か

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


第1章では、インサイツ(insights)とインサイト(Insight)について定義した。通常、英国では 「インサイト(Insight) チーム」、米国では 「インサイツ(Insights)チーム」と少し異なる名前で呼ばれているが、このように呼ばれるのは、インサイツとインサイトを組み合わせたものを作ることに時間を費やすということだろうか。その答えは「そういうことも時々ある」ということだと私は考えている。説明しよう。

IMAでは、英国、北米、欧州の組織がインサイト能力を把握できるようベンチマークテストを数多く実施している。インサイト部門のリーダーたちが私たちに相談するということは、彼らが組織におけるインサイトチームの役割について考えているということ、また他のインサイト部門のリーダーたちからも学ぶべきことが多いと認識していることを示している。

最も一般的なファインディングスとは何だろうか。残念ながら多くのインサイト部門のリーダーは、自分たちのチームについて次のように認識しているようだ。

  • 真のインサイツよりも、データやファクト、数字の作成により多くの時間を費やしている。
  • プロジェクト間の点と点の情報を繋ぎ合わせて考えることに十分な時間を割くのは難しい。
  • 他部門からのリサーチやデータの要望に対し、サービス機能として対応している。
  • 意思決定者が報告書を受け取った後に何が起こるかを見失っている。
  • 台車を回るハムスターのように組織の業務をこなすことに精一杯で、インサイトの根本的な目的について考えていない。

インサイト事業はお金のかかるビジネスだ。データを取得し、管理し、分析し、調査会社に市場調査を発注し、分析や調査のスキルを持つ人材を雇用するには、多額の費用がかかる。インサイトチームを採用し、管理し、作業を監督し、メンバー個人をサポートするには、多くの時間と労力が必要だ。

そのため企業の他部門と同様に、インサイトチームにも組織が投資に対する最高のリターンを得られるようにする集団的責任がある。さもなければ、その投資のリソースは他部門に展開されるだろう。

組織がインサイトから最大の価値を得ようとするなら、インサイトチームの責任者は、インサイトチームをサービス機能から先行的なビジネスを牽引するものへと変化させる必要がある。もしも他の部門からビジネスを飛躍させるよう求められたら、「どのくらい飛躍させたいの?」と質問するのではなく、その部門が望むビジネス上の意思決定について質問するべきである。そして、そのような意思決定に対して私たちがどのような情報を提供できるのかを幅広く考えるのだ。

私たちは顧客や市場の調査をするのと同じように、自社の組織についても研究すべきだ。それはなぜか?  インサイトは行動に移されない限り何の価値もないし、行動に移されるかどうかは、インサイトの質だけでなく、大きな決断を下す人たちと得られた学びをどのように共有するかに左右されるからだ。時には、その人たちが誰なのかを正確に把握し、個人的な関係を築こうとすることもある。しかし、多くの場合、重要な決定は私たちがその場にいないときに行われ、事後にしか知ることができない。したがって、多忙な経営陣がインサイトに基づかないで意思決定することを防ぐために、全員に理解を広めることが必要である。

そのため非常に効果的なインサイトチームでは、次の4つの活動に力を注いでいる。

  1. インサイトの生成: ビジネス上の課題を調査し、組織の行動を変え、成功を達成する可能性のある真のインサイト-「消費者の価値、行動、習慣、状況、態度、市場、環境についての文脈化された観測」を生み出す。
  2. インサイトの知識(ナレッジ): 1つの新しい調査や分析よりも、蓄積された知識や理解に常により多くの価値があることを認識している。そのため顧客になって組織の価値を生み出したり破壊したりする市場の消費者について、統合された大局的なインサイトを開発できるよう時間とリソースを管理する。
  3. インサイトの影響力: 企業が判断しなければならない最も重要な意思決定を特定し、その決定を下す幹部との関係を構築する。またプレッシャーの大きい環境では、賢明な意思決定者が最良の方針を採用するには、時には少しの後押しが必要になることを理解している。
  4. インサイトコミュニケーション: インサイトチームは、会議が行われているかを知らなくても、得られたインサイツが重要な意思決定が行われるすべての会議室に存在するよう組織全体に重要な顧客と市場のインサイツを組織に共有することが自分たちの使命であると考えている。
タスクと目的

我々は、過去数年間にわたって、英国、北米、欧州の200以上の組織をベンチマークしてきたが、これらのタスクのすべてに対応できるインサイトチームは、世界に存在しないと断言できる。しかし、これらの4つすべてに焦点を当てることが自分の責任であると認識している企業とそうでない企業とでは、その効果に大きな違いがある。

しかし、非常に効果的なインサイトチームでは、もう一つの特性ももつ。彼らは単にタスクレベルでただ作業をするのではなく、根底にある目的を振り返り、それらについてのインサイトを基準点やインスピレーションの源として利用する。インサイト戦略、目標、ビジョン、ポジショニングのトピックについては本書の後半で解説するが、この点について私は強調したい。

多くのインサイトチームは、自分たちの役割をあまりにも狭く定義している。それは自分たちが習慣的に分析するデータや、自分たちが最も得意とする調査の方法論から始めるためだ。非常に効果的なインサイトチームは、優れたデータ、優れた調査、クリティカルシンキングを目的ではなく、目的のための手段と見なしている。

非常に進歩的なインサイトチームは、組織にとっての価値を特定し、組織内の変化を推進するという目的を根底に持つことを自覚している。

成功するインサイトチームの第2の秘訣は、根底的な目的を認識することだ。それは、価値を特定し、変化を促進することだ。
重要ポイント:
  • インサイトチームは、大きなビジネス上の問題について新しいインサイトを生み出すべきであり、データや市場調査に対する要望に対応することではない。
  • 私たちは、市場における消費者や自社の顧客についての知識を積み重ねて、成果を得るべきである。
  • 私たちは、新しいインサイツと積み重ねたインサイトの両方に基づいて、特定の問題に対する組織の上層部の意思決定者に影響を与える必要がある。
  • すべての重要な意思決定者が顧客の根本的な真実を知ることができるよう、私たちは組織全体とインサイトに関してコミュニケーションを取る必要がある。
  • インサイトの根本的な目的は、組織の価値を特定し、その変化を推進することだ。

インサイツ、インサイト、およびインサイトチームの根本的な目的を定義したが、私たちインサイト部門がビジネス上の問題を検討する方法にはどのような意味があるだろうか。これについては次の章で解説する。

2022.8.16掲載

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