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ほんぶん

第1部 組織にとっての価値を特定する
第5章 本当の課題を突き止める

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


インサイトチームは、日常的に新しいインサイツを発見する能力を身につけなければ、効果的に活動することはできない。しかし、市場調査のカンファレンスに出席したり、調査会社の提案書の話を聞いたりすると、あなたはインサイツを生み出すプロセスは謎に包まれていると思うかもしれない。ある人は、卑金属を金にする科学である錬金術に例え、また、ある人はインサイツを生み出すことは騎士物語の「聖杯の探求」だと表現する人もいる。

しかしIMAは、これが複雑である必要ないと考えている。知的な人間であれば、魔法の呪文を使わなくても、データや観察から商業的に有用な結論や提言を導き出すことは完全に可能なはずだ。

では、我々は新しいインサイツを生み出すことに長けているだろうか。

多くのインサイトチームでは、本来必要なだけの優れたインサイツを生み出せていない。世界中のインサイト部門のリーダーたちが、いかに自分たちのチームがデータに関する問い合わせに答えたり、他の営業部門から渡された調査プロジェクトの管理に時間を費やしたりしているかを語っている。

企業が事実や数字をより多く求めるようになれば、経営陣はより多くの分析者の採用を促す。そうすると顧客や市場の知識を活用して成功する方法について組織に提言する責任を負うはずの部門が、結局のところデータ工場になってしまう。

どうすればより良いインサイトを生み出せるだろうか。

第3章、第4章では、ビジネス課題を市場から金額に落とし込むことの重要性と、完璧なデータとアジャイルなインサイトのバランスを取ることの重要性について見てきた。しかし、何らかの支援を必要としているステークホルダーを目の前にしたとき、私たちは実際に何をすればよいのだろうか。私たちがすべきことは、次のことである。

    1. 最初に、対処する必要がある根本的なビジネス課題を突き止める
    2. 探偵的な技能で、統合されたインサイト調査を実行する
通常、最も注目されるのは、この2番目のものだ。つまり探偵的な部分、データの収集、そしてアハ体験につながる推論のプロセスだ。しかしアインシュタインは、問題解決に一時間かかるとしたら、55分間はその根底にある問題について考え、5分間その解決策について考えるだろうと述べている。そのため、この章では 「突き止めること」 について考え、次章で 「詳細に調査すること」について考えることにする。

 

どうすればビジネス上の課題を突き止めることができるだろうか。

インサイトプロジェクトの多くは、スタート地点が間違っているために失敗する。インサイトチームのアナリストやリサーチャーは、誰かが課題のある部分に関連すると信じる情報を要望され、そのデータを見つけるために律儀に調査や分析を行う。もし私たちのチームがビジネス上の課題を解決する本物のインサイツを生成したい場合は、データの要望を受けたりや調査の要望書を受け取ることから脱却しなければならない。私たちはマインドセットを変えて、解決すべき根本的なビジネス課題を特定する能力を向上させなければならない。

IMAでは、次の3段階のREDプロセスを推奨している。

振り返る(Reflect:ステークホルダーからの要望に応える前に、立ち止まって考えてみよう。質問された問いの文脈や背景は何か。この市場、顧客セグメント、ブランド、製品について、これまでの分析でわかっていることは何か。それに関連する収益とコストについて何がわかっているか。この分野で我が社は以前何をしようとしたのか。今は何をしようとしているのか。

連携する(Engage:インサイツを生成するためには、孤立していてはできない。ビジネスの意思決定者と話をする必要がある。新しい調査を依頼したステークホルダーは、新しいデータを使って問題を解決したり新しい機会をつかんだりする何かよいプランを持っているかもしれない。あるいは、上司からの依頼を他の部署に伝え、矛盾したデータや混乱した戦略の種をまいているのかもしれない。あなたの会社ではどちらの可能性が高いかはあなたが決めることだ。

しかし、IMAのメンバーは皆、意思決定者と話をし、仮説を探り、背景情報を提供し、問題の枠組みを疑うことによって、より良いインサイトを生み出すことができることを理解している。

診断する(Diagnose:医師や経営コンサルタントと同じように根本的な問題を診断する。IMAの共同設立者であるサリー・ウェブは、経営コンサルタントを育成するためのバーバラ・ミントスのSCQAモデルをベースに、インサイトプロジェクトを構築するためにSCQABモデルを導入した。このツールについて詳しく考えてみよう。

コンサルタントの考え方を取り入れる

SCQABとは、状況(Situation)、複雑な要因(Complication)、課題(Question)、解決策(Answer)、利益(Benefit)の頭文字を表す。

状況(Situation)とは、インサイト調査の背景を説明するものだ。それは、顧客セグメントや幅広い市場に関する重要な統計情報を収集し、アナリストやリサーチャーに全体の背景を認識させるものだ。

複雑な要因(Complication)とは、仮説を変更したり、疑問を感じたりする側面を捉える。これらは、ビジネスが今インサイツを求めている理由であることが多く、ビジネス的には財務数値が悪いことが引き起こしていることがある。

課題(Question)は、状況と複雑な要因を明確にしたことで辿り着いた真のビジネス課題だ。このセクションではできるだけ少ない言葉で、対処すべき根本的なビジネス課題を捉える。上記で見てきたように、これはインサイトチームが最初に受け取った「課題」とは異なることがよくある。一旦課題を捉えると、その重要な課題がプロジェクトの残りの部分を構成する。その間に「解決策」(Answer)と「利益」(Benefit)のセクションを完成させる。

そういうわけで、私はアインシュタインと同意見だ。課題を正しく理解することには、適切な時間をかける価値がある。営利企業においては、重要な課題は何らかの形で利益に関連し、財務用語で記述されるべきだ。これはあなたが問題の核心に迫ったことを確認する重要なチェックポイントであるだけでなく、もしすべてに「$」記号が付いていれば、あなたが最後に提案書で説得するのがずっと容易になるだろう。

成功しているインサイトチームの5つ目の秘訣は、新しい調査や分析を始める前に、根本的なビジネス課題を突き止めておくことだ。
重要ポイント:
  1. 探偵的な仕事を始める前に、振り返る(Reflect)連携する(Engage)診断する(Diagnose)のREDモデルを使って解決すべき根本的なビジネス課題を突き止める。
  2. 調査と分析の依頼の背景を振り返り、これまでにどのような関連するインサイツが得られてきたのかを確認する。
  3. ​上級の意思決定者と連携して、彼らの仮説について質問をする
  4. 状況(Situation)、複雑な要因(Complication)、課題(Question)、解決策(Answer)、利益(Benefit)のSCQABを使用して根本的なビジネス上の問題を診断する。
  5. 状況(Situation)、複雑な要因(Complication)、課題(Question)のSCQは、インサイトプロジェクトの残りの部分を構成するもので、解決策(Answer)、利益(Benefit)は課題を解決しながら完成させる。

A「解決策」とB「利益」のセクションは、調査がさらに深く進むまで完成できない。しかし最終的な目的を念頭に置いて調査を開始し、その後の調査を通じて、その重要な問いに取り組む必要がある。それをどのように行うかは、次章のトピックとなる。

エディタV2

2022.9.15掲載


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