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ほんぶん

第1部 組織にとっての価値を特定する
第7章 インサイト・ファーミング(農業)への進化

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


本書の冒頭で、インサイツとインサイトの定義、およびインサイトチームの目的について述べた。そして、私たちの組織がどのようにビジネスを行うかを変える可能性をもつ、コンテクストに沿った新しい発見であるインサイツに着目した。インサイトチームは、新しいインサイツを日常的に発見する能力がなければ効果的に活動できない。しかし、それでよいのだろうか?

2005年、私はバークレイズ初の統合したインサイトチームを率いる機会を得た。このチームには、市場調査、市場分析、顧客分析、および英国リテール銀行の競合情報などが組み込まれていた。私は、このチームの活動が組織に見えるようにし、また組織への影響力を高めるために、経営幹部のスケジュールを確認し、私たちのプロジェクトについて話をするように努めた。当時、バークレイズは米国から多くの新しいシニアマネージャーを採用しており、しばらくして私は彼らの就任式に招かれ、新経営陣への銀行紹介の一環として出入りするようになった。

しかし私が発見したのは、聴衆が上級幹部であるほど、インサイトのプロジェクトについてあまり知りたがらないということだった。彼らは、特定の分析結果や調査から得られた知見を知りたいわけではないのだ。彼らが興味を持ったのは、私たちが何百ものプロジェクトを通じて培った全体像の把握なのだ。彼らが知りたがっていたのは、どのようにして、そしてなぜ市場の消費者が私たちの組織の顧客になったのか、そして彼らがどのように組織の価値を生み出したり、破壊したりしたのかということだった。

当時の私にとっての、そして現在も多くのインサイト部門のリーダーが抱えている問題は、状況の一部を直感的に理解することはできても、2つの理由からそれがうまくいかないこともあるということだ。一つ目は、インサイトプロジェクトはボトムアップで計画される傾向があることだ。毎年私たちの仕事を振り返ると、さまざまな意思決定を支援するために実施されたプロジェクトの集合体であり、個々の調査や分析が貢献した包括的な1つのプロジェクトではない。

二つ目は、インサイトの専門家は、ほとんどの時間を新しいプロジェクトに費やしているため、上級管理職から全体像の説明を求められても、その場で考えなければならないことが多く、同僚と見解が異なる可能性もある。

もしインサイトチームがインサイツだけでなく包括的なインサイトを担当するのであれば、時間計画、リソース配分、成功の測定方法を変革する必要がある。賢明なインサイトチームは、新しいインサイツを探して日々を費やす世界から離れ、インサイト・ファーム(農業)の方が組織にとってより価値があり、チーム自体もより持続可能であることを認識する必要がある。

あなたはインサイトを狩るのか、それともインサイトを耕すのか?

インサイトを農業に例えることは探求する価値がある。なぜならインサイトチームの進化についての基本的なことや、最も効果的なチームの特徴を説明するのに役立つからだ。

  • 農家は、収入を得るための短期的な仕事の必要性と、長期的な土地の管理のバランスを取る
  • 農家は経験を重視し、それを利用して自然のあらゆる要素がどのように組み合わさって環境を形成しているかという全体像を把握する。
  • 農家は耕し、種を蒔き、丁寧に土地を準備する。
  • 農家は根気よく作物を育て、長年にわたって土地を維持するための灌漑システムに投資する。
  • 農家は、畑から何度でも収穫することができ、自分たちの楽しみのために狩りをするのではなく、国民に供給するという満足感を得ることができる。

では、これがインサイトチームにどのような関係があるのだろうか。インサイトチームは、新しい発見を追い求めるスリルに引き込まれ、目標を達成したら次の目標に向かうというハンターのように行動することが多いのではないだろうか。新しいインサイト調査が必要ないとは言わないが、新しいプロジェクトに全力を注いでしまうと、すでに知っていることを振り返り、これまで気づかなかったつながりを見つけ、矛盾点を調べ、顧客や市場、組織について包括的に考える時間をもつことができない。

IMAが主張するのは、一つの新しいプロジェクトよりも、蓄積された知識の方が常により高い価値があるということだ。したがって、既存の知見の蓄積にリソースの大半を費やし、新しいプロジェクトをより大きなジグソーパズルのピースのように捉えれば、インサイトへの投資に対するリターンはより高くなるはずだ。

バークレイズの経営幹部が必要としていることとインサイトチームが取り組んでいることを一致させたいとの思いに突き動かされ、私はその後の10年間、新しい調査や分析に焦点を置くことと、組織のための知識資産を開発するという幅広い任務のバランスをとることに多くのエネルギーを注いだ。そして、この2つの活動の間にある矛盾は非常に表面的なことであり、顧客や市場の知識の集合体と市場を管理するために費やした時間は、何倍にもなって返ってくることを発見した。

あなたが次のプロジェクトにすぐに取りかかるのではなく、過去のプロジェクトに時間をかけてもすぐに見返りはないだろうと考えるのは無理もない。しかし、このような大局的な知識を身につけることで、重複を省き、次に誰かに質問されたときにずっと機敏に対応することができる。また意思決定者に対して、これまでの研究成果に基づいて幅広い理解をすぐに得るか、お金をかけて新しい調査結果を数週間待つかの選択肢を提供することもできる。

さらに、よりよいインサイトを日々生み出すこともできる。なぜなら、もしインサイツがコンテクストに沿った観測であるならば、私たちが目にする新しいものを解釈するために必要とする多くのコンテクストを提供するのは、あなたの顧客と市場の知識ベースだからだ。知識ベースがあるからこそ、新しい数字を見るときの視点やスケールの大きさを感じることができるのだ。

成功するインサイトチームの第7の秘訣は、インサイト・ファーマーになることを目指し、蓄積された知識を耕し、収穫することだ
重要ポイント:
  1. 進歩的なインサイトチームは、新しいインサイツだけでなく、インサイトの全体像を作り出す責任があることを認識している。
  2. インサイトの全体像を作るには、狩猟というより農業に近い異なるマインドセットを必要とする。
  3. インサイト・ファーミングは、過去の調査を調べて知識を深めるために、時間と忍耐を必要とする
  4. しかし、インサイトチームは重複を排除し、より良い、よりコンテクストに沿ったインサイトを作り出すことで見返りを得る。
  5. インサイト・ファーミングは、最終的に、より価値があり、より持続可能で、よりすばやい意思決定をサポートする。

狩猟採集から農耕への進化は、人間社会にとって重要なステップだった。インサイト・ファーマーになる取り組みは、自らの部門が組織に持続的な影響を与えられるようにしたいと望むリサーチャーやアナリストにとって重要である。そのための最初のステップは何だろうか。次の章で見てゆく。

エディタV2

2022.10.18掲載


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