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ほんぶん

第2部 組織の変革を推進する
第11章 影響力による変革の推進

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


本書の第一部「第1部 組織にとっての価値を特定する」では、企業のインサイトチームに求められる新しいインサイトを生み出すことと、顧客や市場、自社のビジネスに関する蓄積された知識を発展させることの2つの要件について探った。インサイトチームを変革したいのであれば、調査・分析プロジェクトに対する考え方を変えるだけでなく、インサイトの創出からインサイトの育成へと焦点を合わせ直す必要があることを提案した。

しかし、組織がインサイトチームの仕事がなかったかのように行動し続けるのであれば、新しいインサイトを生み出すことも、顧客についての知識を育てることも意味がない。インサイトチームは、自社にとって価値ある機会を特定し、その機会から利益を得るために必要な企業変革を推進する必要があるのだ。

この時点で、「優れたインサイトを生み出すだけでは十分ではないか?」と思われるかもしれない。残念ながら、そうではない。素晴らしいインサイトもうまく伝わらなければ跡形もなく沈んでしまうが、理にかなったインサイトが見事に伝われば、野火のように広がっていく。本書の第2部では、私たちの知識とアイデアをどのように広めるかは、それらをどのように生み出すかと同じくらい重要であるため、私たちの時間とリソースのバランスをさらに大きく見直すことを提案したい。


変化を促す2つの方法

IMAは過去15年間にわたり、インサイトチームが変革を推進するには、まったく異なる2つの方法があるという見解を示してきた。

まず、供給と需要について考えてみよう。供給側では、共有すべき新しいインサイトを多く持ち、かつ全体像に関する知識や意見を豊富に持つインサイトチームを作ろうとしている。一方、需要側では、私たちの多くが、顧客や私たちが提供する提案に影響を与えるような決定を日々下す大規模で複雑な組織で働いている。もしインサイトチームが、私たちが提供できる豊富な知識でこの複雑な組織の要求に応えようとするなら、私たちは大規模な知識普及プログラムを検討し、主要なコミュニケーションスキルにも焦点を当てる必要がある。

しかし、インサイト・コミュニケーションという大きなテーマを詳しく見る前に、『パレートの法則』がビジネスライフの多くの側面に当てはまるように、企業の意思決定にも当てはまることを認識する必要がある。重要な意思決定の80%は、最大でも20%の上級管理職によって行われるため、私たちはその上級管理職グループに影響を与えるために注意を大きく傾ける必要がある。


どうすれば意思決定者に影響を与えられるのだろうか。

多くのインサイトの専門家は、「難しい!」と言いたくなるのではないだろうか。私もそれには大いに共感するが一方で、営利部門、非営利部門の多くの組織では意思決定がうまくいかず、顧客や市場について断片的な見方しかできないのが普通だ。しかしその責任は私たちにもある。リサーチャーや顧客アナリストは、その技術的なスキルによって採用、開発、昇進される傾向があり、自分の同僚の変化を促進する能力にはあまりに焦点が当てられていないのだ。

これは特に上級管理職に影響を与える場合にその傾向が顕著になる。前章で、インサイトの専門家の中にはデータを解釈することに消極的な人がいると述べたが、多くの人はその解釈に基づいた意見を述べるのをためらう。したがって、上級管理職のドアを叩いて自分のアイデアを売り込むよう依頼すると、かなりの割合の社員が本能的に机の下に隠れてしまうのも無理はない。

その対応策は、そういう人を殴ったりコンフォートゾーンから無理やり引き出したりすることではない。これについては本書の後半で触れる。しかし、今ここでIMAは、すべてのインサイト・リーダーが検討可能な一連のことがあることを信じている。これは、インサイトチームが効果を発揮している英国、北米、ヨーロッパの組織で違いを生み出すことが確認されていることだ。

インサイト・リーダーのためのヒント

最初に考慮すべきなのは、影響を与えようとする人々のニーズである。インサイトチームは、消費者をもっと理解する必要があるということを組織に伝えるために多くの時間を費やしている。しかし、これは企業内についても同じことが言える。まず理解を深めなければ、影響力を高めることはできない。つまり皮肉なことにインサイトチームは主要なステークホルダーに関するより良いインサイトを開発する必要があるのだ。この点については、第12章で詳しく説明する。

第二に、私たちは個人的に自分が好きな人、よく知っている人、信頼している人から最も影響を受けやすいということを知っている。職場の上級幹部層は、信頼できる少数のアドバイザーに囲まれていることが多いようだ。その多くは直属の部下だが、コンサルタント、戦略家、財務担当者、人事担当者などが加わっている場合もある。彼らは自分たちのインナーサークルを形成しているのだ。最終的に、インサイト・リーダーとそのチームはそのインナーサークルに加わることで、より大きな影響力を持つようになる。この点については第13章で見てゆく。

第三に、インサイトチームのメンバーの多くは、影響力に関して特定の開発ニーズを持っているが、他の部門よりも分析・調査チームに多く見られる内向的な人に共通したニーズもある。第14章では、内向的な人のためのインフルエンサー・スキルについても解説する。

最後に、私たちは、ステークホルダーについて知りたいことをすべて知ることも、彼らとすぐに親密な関係を築くことも、内向的な人が影響を与えることに慣れることもできないことを現実的に認識する必要がある。しかし意思決定者が示す行動のバイアスに注目し、彼らを「ナッジ(そっと後押し)」する方法を考え出すことで、賢明な方法をすぐに学ぶことができる。多くのインサイトチームが行動経済学の伝道者になっているのは、消費者がなぜそのような購買決定を下すのかを理解することが最も重要だからである。今こそ、社内に影響を及ぼすための行動経済学的な台本を作る時だ。この点については15章で見てゆく。

成功するインサイトチームの11番目の秘訣は、上級幹部職の意思決定者に影響を与えることで変化を促すことである。

重要ポイント:
  1. 新しいインサイトを生み出しても、その結果、組織内で何かが変わらなければ意味がない。
  2. 組織が顧客中心主義を目指すのであれば、組織の全員が顧客と市場について知っている必要がある。
  3. しかし、インサイトチームは、まず大きな決断を下す少数の上級管理職に影響を与えることに焦点を当てるべきである。
  4. インサイトの専門家は、技術的なスキルによって採用・昇進される傾向があり、人に影響を与えることに抵抗があるかもしれない。
  5. インサイト・リーダーは、チームの戦略的な影響力のスキルとステークホルダーを誘導する戦術的な能力の両方を向上させることを目指すべきである。

 

次を読み進める前に、インサイトチームが意思決定者のことをどれだけ理解しているかを考えてみよう。次の第12章では、この点について説明する

エディタV2

2023.1.17掲載


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