本文へスキップします。

フリーワード検索 検索

【全】ヘッタリンク
【全・SP】バーガーリンク
共通いめーじがぞう

ほんぶん

第2部 組織の変革を推進する
第12章 まず理解しようとすることからはじめる

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


あなたは職場でどんな質問をよくされるだろう。顧客に関するインサイトについてだろうか、それとも自社ブランドの最新のインサイトについてだろうか。それとも最新の消費者トレンドに関するインサイトについてだろうか。

どの組織でも独自の旬な話題があり、どこのインサイトチームもよくある質問(FAQ)のリストを作成することができる。しかし、私たちの仕事の報告先である組織の意思決定者についてのインサイトを持っているかをどの程度自問しているだろうか。

企業が顧客の行動に影響を与えるには外部顧客を理解する必要があるように、インサイトチームが意思決定に影響を与えるには内部顧客を理解する必要がある。私たちは皆、組織に対して顧客を理解するためにもっと時間をかけるべきだと言う。では私たちは一体どのくらいそれを実践しているだろうか。

私たちは意思決定者のことを本当に理解しているだろうか?

顧客インサイトの仕事に携わる利点の1つは、長年にわたって培った専門知識を生かす機会がよくあることだ。専門的な市場調査のリサーチャーになる人もいれば、分析に力を入れる人、デスクリサーチや競合情報、より幅広いトレンドのモニタリングに取り組む人もいる。

しかし、このような長年にわたるインサイトの経験の不利な点は、私たち自身が意思決定の役割を果たす時間があまりないことだ。また大企業の場合、他のインサイトの専門家に囲まれていることが多く、技術的な知識や市場の理解を共有する上ではよいが、意思決定者の世界から孤立してしまう可能性がある。

そのため、少し時間をとって社内の報告先である意思決定者の世界について、彼らが決定を下す方法やそのような意思決定をすることをどのように感じているのかを考える時間をもとう。

私たちは本当に意思決定者を理解しているだろうか?

シニア・ディレクターの労働時間はますます長くなり、信じられないほど大量の情報を吟味しなければならず、また役割も頻繁に変わる。彼らは決断するたびに、売上、収益、評判の低下につながるビジネス上のリスクを負うだけではない。自分のキャリアや同僚の中で築いた評判、そしてもちろん自分自身の成功や失敗という個人的なリスクも負っている。

このような環境下で多くのエグゼクティブは、自分の部署の信頼できるアドバイザーに相談したり、個人的で限られた経験に過度に影響された意思決定を行ったりするのが常だ。これは当然といえば当然で、私たちも同じようなことをしている。しかし、もし私たちが上級ステークホルダーにとっての社内コンサルタントでありたいと思うのであれば、彼らに対してもっと共感を示す必要があるのではないだろうか。

スティーブン・コヴィー氏は有名な「7つの習慣」という本の中で、「まず理解し、次に理解されることを目指せ」と説いている。これはインサイトの視点を捨てることではないし、顧客に関する知識に基づいて作り上げた熱い想いを捨てるということでもない。上級幹部らにもっと共感を示し、彼らの理性と感情の両方のニーズをもっと感じとることを意味している。

IMAは、すべての先進的なインサイトチームが以下を開発すべきであると考えている。

  • ストレスと時間的な制約がある今日の環境下で大きな決断を下すことがどのようなも のかを理解する
  • 私たちが影響を与えようとしている意思決定者個人についての知識:優先順位、性格のタイプ、好みのコミュニケーション

一般的に、意思決定者の世界を理解すればするほど、彼らが私たちに何を求めているのかを理解できるようになる。このような理解は、人間関係を構築するための良い基盤になる。もちろんステークホルダー個人の特徴をもっと具体的に理解し、性格や好みのコミュニケーションと相いれないものがあるかどうかをよく考える必要がある。

過去15年間、IM Aのコンサルタントは数多くのインサイトチームを訪問し、性格や好みのコミュニケーションについて話をしてきた。その結果、チーム内におけるアナリストとリサーチャー間、またアナリストグループとリサーチャーグループの間、マーケティングチームと組織の間には、顕著な違いがあることがわかった。性格のタイプに関する研究と同様に、あるタイプが正しく、別のタイプが間違っているというものではない。すべてのタイプには長所と短所があり、勤務する部署が自分とよく似た人々に構造的に偏っている場合、それがさらに悪化する傾向がある。

重要なのは、自分のスタイルと他人のスタイルをもっと意識し、そのスタイルの違いがコミュニケーションにどのような影響を与えるかをよく考えることだ。また用語の問題についても考慮する必要がある。インサイトチームは、調査や分析、顧客、市場指標に関する専門用語を使って話す傾向がある。これらはすべての関係者が理解できる言語、つまり販売、オペレーション、収益、コストに関する言葉に翻訳する必要がある。

成功するインサイトチームの12番目の秘訣は、自社の組織の意思決定者についてのインサイトを深めることだ。
重要ポイント:
  1. インサイトチームは、自分たちのインサイトの仕事の社内の利用者に関するインサイトをほとんど持っていない。
  2. スティーブン・コヴィー氏が述べているように、私たちは自分自身を理解されることを期待する前に、まず他人を理解することから始めるべきだ。
  3. インサイトチームは、大きな意思決定に伴うビジネス上のリスクと意思決定者の個人的なリスクについて深く理解することによって利益が得られる。
  4. 意思決定者個人の性格や好みのコミュニケーションについて、理解を深める必要がある。
  5. インサイトチームは、自分たちのもつ顧客と市場の知識を他のビジネス部門が使用する言葉に翻訳する必要がある。

インサイトマネージャー、企業内のリサーチャー、アナリストの皆さんには、安心してもらいたい。人に影響を与えるまでの道のりはいくつかの新しいインサイトから始まる。私たちはインサイトに基づいて変化を起こさなければならない。そして今度は、私たち自身の中にその変化が起こる。13章で説明する。

エディタV2

2023.2.21掲載


© Insight Management Academy Ltd