第2部 組織の変革を推進する
第16章 コミュニケーションの力で変革を推進する
JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子
組織は、そのパフォーマンスを向上させるためにインサイト機能に資金を投資する。営利団体では持続的な利益の向上を意味し、公共団体ではより良いコストパフォーマンスを実現すること、慈善団体であれば収入を増加させ成果を向上させることを意味する。インサイトチームの日々の活動は、これとはかけ離れているように見えることがある。
私たちは分析し、顧客行動の変化を調査し、市場調査プロジェクトの管理に多くの時間を費やしている。これらの作業はとても魅力的で、私たちの多くは知的な満足を得ることができるインサイトに惹きつけられている。これらはすべて、インサイト生成プロセスの重要なインプットとしての役割を果たしている。
インサイトの専門家である私たちは、インサイトの美しさだけで経営幹部に何かの行動を変えるよう説得できると考えがちだ。しかし現実には、知識を共有する方法は、少なくともインサイトそのものと同じくらい重要だ。何年か前にIMAの インサイトフォーラムの会員の一人が言っていたのだが、すばらしいインサイトでも伝え方が悪いと跡形もなく消えてしまうが、そこそこのインサイトでも見事に伝えたときは組織全体に野火のように広がってゆくものだ。
ここまでの5章では、重要な意思決定を行う各企業の経営幹部に影響を与える方法に焦点を当ててきたが、それは通常最も大きな影響を与えるための最善の方法だからだ。
しかし、もしあなたの会社が真に顧客中心を目指すのであれば、顧客との人間関係や行動、その促進要因の重要な側面を理解する必要のある社員の数は、あなたが話を伝えられる数よりはるかに多いはずだ。インサイトチームは、企業の意思決定に影響を与えるすべての議論に参加することはできない。しかし、インサイトチームが適切なコミュニケーション・プログラムを持ち、知識の普及、メッセージの構成、ストーリーテリング、ビジュアライゼーションに明確に焦点を当てていれば、気づきのインサイツと私たちの仕事の成果であるインサイトは存在しうる。
インサイトの専門家の中には、心からコミュニケーションを楽しむ人もいる。ストーリーテリングが大好きなマーケットリサーチャーや、顧客や市場分析と同じくらいインフォグラフィックスを作るのが好きなアナリストもいる。しかし、英国、欧州、北米のほとんどのインサイトチームでは、インサイトのコミュニケーションはプロジェクトに後付けされがちで、包括的なコミュニケーション・プログラムの開発にはほとんど、あるいはまったく注意が払われていない。この章と次の4つの章では、インサイトリーダーがコミュニケーションをもっと真剣に考えるよう促し、チームメンバーが重要なスキルを身につけるのに役立つフレームワークを紹介したいと思う。
インサイトリーダーのためのヒント
知識やアイデアをより効果的に共有するためには、調査プロジェクトの運営や分析チームのマネジメントが業務であることを忘れる必要があるのではないだろうか。私たちはインサイトリーダーのように考えるのをやめて、IMAが提唱する「インサイト・コミュニケーションの6つのキャラクター」のように考えるべきなのだ。
インサイトチームのコミュニケーション・プログラムを計画するためには、
1)CMO(マーケティング最高責任者)のように考える…あなたが知識を共有する対象、コンテンツ、チャネルについて検討しよう。エレベーターで顧客インタビューのビデオを見せる? それともスタッフ用レストランで? オフサイトミーティングや経営幹部のプレゼンテーションで? ゲーミフィケーション、ポストカード、ポスター、顧客ペルソナの等身大画像を使用する? インサイトのイントラサイトはどの程度専門的だろうか? 毎週クリックしてもっと読みたくなるようなサイトだろうか? マルチチャンネルのコミュニケーション戦略を持っているか? それともただパワーポイントに貼り付けただけで、誰かが聞いてくれることを期待しているのだろうか?
2)コンサルタントのように考える... 第5章では、インサイトプロジェクトを構築するSCQABの方法を見てきた。
注)SCQABとは、状況(Situation)、複雑な要因(Complication)、課題(Question)、解決策(Answer)、利益(Benefit)の頭文字を表す。
幸いなことに、これはインサイトのコミュニケーションでも有効だ。各プレゼンテーションの冒頭で、状況(Situation)、調査に至った複雑な問題(Complication)、そしてこれが提起する重要なビジネス上の課題(Question)について明確に述べることから始めよう。これらの課題に対する回答(Answer)をまとめて提供できることを確認し、もしあなたのアイデアが採用された場合のビジネス上のメリット(Benefit)を説明することを忘れないようにしよう。
3)作家のように考える...ストーリーテリングは、今日、企業で大流行しているが、残念ながら多くのストーリーテリングのワークショップでは、重要な原則をどのように日常業務に適用すればいいのかわからないままになっている。しかし、だからといって、ストーリーテリングが私たちに関係ないわけではない。重要なメッセージに焦点を当て、それを伝える最も魅力的な方法を考え出す必要があるのだ。
4)ジャーナリストのように考える...オーディエンス(聴衆)を惹きつける見出しを作ることに時間をかけたり、感情や現実の状況を利用して興味や好奇心をかき立てたりする。あなたの仕事はインパクトを与えているだろうか? 印象を残せているだろうか?
5)編集者のように考える...あなたが最初に書くもののほとんどはゴミ箱行きだ。シンプルにして、案内を示し重要な事実を使い、出版する前に他の人に自分の作品を読んでもらおう。私たちは誰も自分の文章の編集者をするのは下手なのだから。
6)デザイナーのように考える... ビジュアルは千の言葉を伝えることができる。ただし、あなたのイメージが物語と同じようにシンプルで、明確で、焦点が絞られている場合に限る。
成功するインサイトチームの16番目の秘訣は、インサイト・コミュニケーションが、インサイトを生み出すことと同じくらい重要であることを認識していることだ。
重要ポイント:
- すばらしいインサイトも伝え方が下手だと跡形もなく消えてしまうが、そこそこのインサイトでも見事に伝えられると組織全体に野火のように広がる。
- インサイトチームは、包括的なコミュニケーション・プログラムの開発にあまり注意を払わない傾向がある。
- すべてのコミュニケーションは、メッセージの方向を定め、ストーリーを追うことが容易になるよう明確な構造を持つ必要がある。
- ストーリーテリングはインサイトの専門家にとって重要なスキルだが、自分の役割と関連づける良い方法を見つけなければ改善しない。
- ビジュアルは千もの言葉を伝えることができる。ただし、あなたのイメージが物語と同じようにシンプルで、明確で、焦点が絞られている場合に限る。