本文へスキップします。

フリーワード検索 検索

【全】ヘッタリンク
【全・SP】バーガーリンク
共通いめーじがぞう

ほんぶん

第2部 組織の変革を推進する
第17章  インサイト・コミュニケーション・プログラム

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


企業のインサイトチームの多くは、マーケティング部門と非常に密接に連携しているが、自社のインサイトについてのマーケティングはどの程度得意だろうか。あるいは、そもそもマーケティングする必要性を認識しているのだろうか。

インサイトリーダーは、自分達の知識やアイデアの伝え方を改善しようとすると、チームのスキルと行動に焦点を当てる。これらはもちろん重要だが、スキルのみに注目すると、何を、いつ、誰に伝えるかについてのトップとしての計画がないまま、一部のトピックの伝え方を段階的に改善するだけになる。

これは、第7章で見たようにチームの時間と予算のほとんどが個々のプロジェクトに費やされる傾向があることがインサイトチームにとって非常に大きな課題である。プロジェクト間の点と点をつなぎ、主要な市場、セグメント、製品、ブランド、チャネルに関する知識を蓄積することに十分に力を注いでいるインサイトチームは世界中でもまだほとんどない。

インサイトのコミュニケーションもバラバラだと、断片的なインサイトを社内に提供する傾向が強くなる。普段のやり方から少し離れて、CMO(最高マーケティング責任者)ならこの課題にどのようにアプローチするかを考えてみよう。

CMOは、個人のテレビ広告やソーシャルメディア、Eメールキャンペーンに大きな労力を費やすだろう。しかし、マーケティング部門が適切なメッセージを、適切なオーディエンスに、適切なタイミングで、行動を変える可能性が最も高い方法で優先的に発信するために、企業が顧客や見込み客のためのコミュニケーション・プログラムを計画する必要性も認識しているはずだ。

インサイトチームはこのアプローチからどのような利益を得ることができるだろうか。私は、コミュニケーション・プランニングの3つの重要な要素、オーディエンス(聴衆)、コンテンツ、チャネルに焦点を当てることから始めるとよいだろう。

オーディエンス(聴衆):あらゆるコミュニケーションは、オーディエンスを考慮することから始めるべきであり、コミュニケーション・プランも同様である。社内で顧客や市場のインサイトをより多く見ることで、利益を得るオーディエンスは誰だろうか。 役員からオペレーションや顧客対応まで、さまざまな人たちがいるが、私たちは、自社の製品やサービスがどのように設計され、宣伝され、顧客に提供されるかに影響を与える決定を下す立場にある人に非常に関心がある。

コンテンツ:これらの全く異なるオーディエンスは、どのようなインサイトや理解の蓄積を最も有用と感じるだろうか? これは、製品やブランドによって、あるいは伝えるべき情報の詳細さのレベルによって異なるかもしれない。一般的に、上級職ほど注意を払わないため、複雑なトピックを総合的に理解することに重点を置く必要がある。全員に同じコンテンツを押し付けるのではなく、さまざまな部署のニーズを調べることはできるだろうか。(これはインサイトチームとしては斬新なアイデアだ。)そして、誰が何を知っているかという「ターゲット層の知識状態」を定義してみてはいかがだろうか。

チャネル:異なるタイプのメッセージを異なるオーディエンスに届けるにはどうすればいいだろうか。パワーポイント、エクセル、ワードなどから離れて、ビデオ、アニメーション、イントラネットポータル、コンテスト、ポストカード、ポスター、現物、タウンホールでのミーティング、ブラウンバッグランチ(簡単な弁当を持ってミーティングをする)などを考えることはできないだろうか? イントラネットのポータルは、多くのインサイトチームにとって特にホットなトピックだ。10章で述べたようにイントラネットのポータルの最大のユーザーは常にインサイトチーム自身だが、作業を保存し、構造化し、チーム内で共有するために使用できるシステムの多くは、一部のオーディエンスがセルフサービスでコンテンツを探索できるようにする素晴らしい機会も提供している。しかし、オーディエンスに自分でやってもらおうとすればするほど、オンラインで利用できる資料を合成し、キュレーションやタグ付け、編集に、より配慮しなければならないことは言うまでもない。

コミュニケーション・プランの多くは、オーディエンスから始めるのが一般的だが、時にはコンテンツから始めることもメリットがある。社内のある部署に素晴らしいインサイトを提供したなら、同じコンテンツから利益を得られる他の部署はあるだろうか? 消費者がどのように顧客になるのか、最大の機会を活用して最大のリスクを抑えるために、自社は何をすべきなのかといった全体像についての知識を養うことに時間をかけるほど、何度でも収穫できるインサイトを生み出す可能性が高くなる。これは特に上級職にいえる。

コミュニケーションのチャネルから始めることも可能だ。一人のオーディエンスとあるコンテンツを共有するために新しいコミュニケーション・チャネルを開設した場合、そのチャネルを他にどのように利用できるかを考えてみよう。

バークレイズ銀行では、マネージャーらをカナリーワーフ本社の最上階に連れていくエレベーターのビデオスクリーンをジャックした。当初は、話題のテーマについて語る顧客のインタビューを流すだけだったが、オーディエンスを魅了するコミュニケーションの利点を理解し、そのチャネルで使える他のコンテンツも開発した。その結果、アニメーションを中心にしたコンテンツを、より多くのチャネルで見せられるようになった。社員食堂やコールセンターの壁にある大型テレビモニターを使うようになった。「インサイトTV」 は、私たちの活動全体のプログラムとなった。しかしもちろん、すべてのコンテンツに適しているわけではなく、すべての視聴者にリーチできるわけではない。

また、インサイトCMOは、一貫した声のトーン、文書の標準的な体裁、共通言語の使用、あらゆる機会で強調するべき重要なメッセージといったことも考慮する必要がある。そして、コミュニケーションの標準も考慮する必要がある。洗練されたアニメーション、より専門的なインフォグラフィックスやプレゼンテーション、あるいは言語に対する意識の向上、読者を動かすための言葉の使い方など、この10年間でほとんどのコミュニケーションの基本水準が劇的に向上した世界に私たちは生きている。これはインサイトチームが自由に使えるコミュニケーション手段の選択肢が増えたということで、ある面で素晴らしいことだ。企業の意思決定者には、常に多くのメッセージが殺到しており、その多くは美しくパッケージされている。そのため、私たちのメッセージが伝わり、記憶に残ることを期待するなら、インサイトのコミュニケーション・プログラムを計画する際に、より多くの時間と労力を注ぎ、ゲーム性を高めなければならない。

成功するインサイトチームの17番目の秘密は、インサイトのコミュニケーション・プログラムを計画し提供することによって変化を促進することだ。
重要ポイント:
  1. インサイトチームはマーケティング部門周辺の仕事が多いが、自分たちのインサイトを売り込むことを忘れている。
  2. 変化を促すために、私たちはインサイトのコミュニケーション・プログラムを計画し、コミュニケーション基準を改善する必要がある。
  3. ほとんどのコミュニケーション・プランは、オーディエンスに焦点を当て、仕事に役立つインサイトを検討することから始まる。
  4. 時には、すでに持っているインサイトのコンテンツから始めて、そのための新しいオーディエンスを探すこともあるかもしれない。
  5. コミュニケーションのチャネルを見直し、そのチャネルで機能する形でコンテンツをパッケージ化することもできる。

 

エディタV2

私たちは、インサイトCMOの立場に立てば、多くのことを学ぶことができるが、私たちがコミュニケーションしようとしている資料の構成についても考える必要がある。そこで次の章では、第5章ですでに出会った友人であるインサイト・コンサルタントと時間を過ごすことにする。

2023.4.18掲載


© Insight Management Academy Ltd