第3部 インサイトの戦略と人材をリードする
第21章 インサイトのための戦略
JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子
「インサイトを変革する」の最初の2つの章では、インサイトチームの目的とチームメンバーが集中すべき4つの主要な活動について述べた。もしあなたが企業のインサイトチームに所属していて、新しいインサイトを生み出し、顧客についての知識を蓄積し、重要な意思決定者に影響を与え、インサイトを伝えるという先進的なアプローチをとっているならば、組織にとってより大きな価値を見出し、組織内の変化を促進できることは間違いない。
しかし、本書ではインサイトリーダー、つまり大企業のインサイト部門を管理するシニアプロフェッショナル、あるいは中小企業でインサイトやその他の業務を担当するシニアマネジャーについて述べた。もしあなたがそうであるなら、私はあなたに挑戦を投げかけたい。物事をより良く行うだけで良いのだろうか、この4つの主な活動のバランスをとるだけで、CEOがインサイトから最大の価値を得られるだろうか、そして、インサイト主導の組織を作ることができるだろうか、と。
顧客と市場のインサイトは、組織のパフォーマンスを一変させる可能性を秘めている。インサイトは、市場にある隠れた機会を特定し、企業の売上、顧客数、収益を他の方法では達成できないレベルまで高めることができる。また、潜在的な脅威に光を当て、それに対する具体的な対応を明確にすることで、組織の存続を守ることにもつながる。
リサーチや分析にかける費用は、全体的な収益やコストに比べ少額であることが多いため、インサイトは組織にとって莫大な財務的投資収益率を生み出すことが可能だ。大企業であれば、数千ドルを投じて数百万ドルを生み出すことも可能だ。このレンズを通して見るとインサイトは、概念としてまた企業の部署として、営業部門、非営業部門、公共部門を問わず、組織にとって重要な戦略的資産とみなされるべきものだ。
しかし、あなたの組織ではそう感じられるだろうか? このようなインパクトは、インサイトが単に正しいことを行うだけでなく、正しいことを行うよう設定されている場合にのみ可能だ。また、組織全体の変革を一貫して推進するためには、適切な運用環境とリソースが必要だ。
実際に何が起きているのか?
上級管理職が顧客中心主義の重要性を認識し、リサーチと分析を競争優位の源泉とみなす傾向が強まっているため、組織のインサイトへの需要は高まっている。同時に、デジタル取引やデータソースの急増によって、インサイト活動の管理は複雑さを増している。その結果、インサイト部門の多くは仕事量が増え続け、なぜ組織にインサイトチームがあるのか、インサイト活動にいくら費やしているのか、投資に対するリターンはどうなのか、インサイト主導の組織を作りたいなら構造的な問題はないのかなど、大きな疑問について立ち止まって考える時間が少なくなっている。
インサイトが変化をもたらす可能性が高まり、そして変化をもたらすことが難しくなるにつれ、組織はインサイトに関する戦略を明確にすることが非常に重要になってくる。これは活動計画とは全く異なるもので、リサーチやアナリティクスのチームには必ずあるものだ! これは、顧客や市場に関する理解を体系的に活用することで、企業の業績がどのように改善されるのか、また、そのためにどのような変化をもたらす必要があるかをトップダウンで評価するものである。
インサイト戦略策定の課題
インサイト戦略の必要性は明らかであるにもかかわらず、IMAが英国、北米、欧州の会員を対象に行った調査によると、インサイト戦略を策定している大企業は4分の1以下であることが判明している。これはなぜなのだろうか。インサイトリーダーは、インサイト戦略の必要性を感じていないのか。それとも戦略を立てる自信がないのか。あるいは、インサイト戦略を作りたい、作るべきだと思いつつも、他のことが邪魔をしているのだろうか。
私たちの調査やコンサルタントがクライアント側で経験したことから、主な障壁は次のようなものだと考えられる:
- 何から始めたらいいかわからない
- 忙しくて書く時間がない
- 戦略という言葉に抵抗がある
- サービス精神が旺盛で、その必要性を感じていない。
- 組織の変化のスピードが速く、戦略が無効化される恐れがある。
- 組織文化が戦略に価値を見出さない
これらの課題を総合すると、インサイト戦略を策定するのは難しいことであり、策定のメリットは、そのための苦労を上回るものではないという意識が広まっている。しかし、インサイト戦略がない場合、リサーチや分析活動は、他の部門が求めるものに振り回される傾向がある。もちろん、戦略そのものがそれを変えるわけではないが、スタート地点としては重要だ。
インサイトプランがあれば十分なのではないのか? 多くのインサイトリーダーは、インサイトプランを作成し、更新してはいるが、多くの場合これらの文書は、単に受け取ったリクエストやリソースを割り当てたインサイトプロジェクトを記録するだけのものだ。もちろんこれは非常に重要な文書で、これがなければインサイトチームは存続できない。しかし、インサイトの組織への貢献度やインサイトが組織のパフォーマンスをどのように変化させるかを説明するためのものではない。
インサイトリーダーは、計画を上流に進める必要があるとIMAは考えている。理想的には、インサイトの戦略的計画を策定し、トップレベルの企業戦略と直接連携させる、あるいは、その企業戦略の背景にあるデータや考え方を検討することが必要だ。
インサイトリーダーたちは、インサイトがどのような貢献ができるかという戦略的な計画を立て、既存の顧客や市場の知識を活用して取り組むべき優先的な課題や、新しい市場調査や分析で埋めるべきギャップを特定することができる。私たちは、あらゆるステップで主要なステークホルダーを巻き込む必要がある。なぜならインサイトが課題を追求しても、他の事業が無視するようなアジェンダを追及しても意味がないからだ。しかし必要なのは、トップダウンのインサイトプランを参照せずに、新しい調査や分析を依頼するような受注型の考え方ではなく、既存の顧客に関する知識や、新たに着手できる仕事について、大人としての話し合いをすることである。
インサイト戦略の策定は難しいことではないが、規律あるアプローチ、時間、集中力が必要だ。
成功するインサイトチームの21番目の秘訣は、組織のインサイト戦略の策定をリードすることである。
重要ポイント:
- インサイトの生成、知識、影響力、コミュニケーションに進歩的なアプローチをとることは重要だが、それだけでは十分ではない。
- インサイトが組織のパフォーマンスを向上させるためには、インサイトをより戦略的に変化させるアプローチが必要である。
- ほとんどのインサイトチームは活動計画を立ててはいるが、インサイト戦略がない場合、他部門の意向に左右されることが非常に多い。
- インサイトリーダーはもっと上流に行き、インサイトを最高レベルの企業戦略に合致させ、それに挑戦する覚悟が必要である。
- インサイト戦略の策定は必ずしも難しいものではないが、規律あるアプローチ、時間、集中力が必要である。