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ほんぶん

第3部 インサイトの戦略と人材をリードする
第30章 インサイトチームを構築する

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


前の2つの章では、効果的なインサイトリーダーがチームで重視する主要スキルと特性について見てきた。この章では、そういった特性を持つ有能な人材を見つけ、育成し、維持するためのベストプラクティスについて見ていきたい。

インサイトチームのリーダーは、日々多くの課題に直面している。人事の問題は、危機に直面するまで、ステークホルダーからの要求ほどは緊急性が高いと思われないことが多い。しかし、ステークホルダーが必要とするものを提供するためには、チームが最高のパフォーマンスを発揮する必要がある。さらに、人事支援の縮小、専門人材紹介会社の全面的な利用禁止、研修予算の削減、チーム構造のフラット化といった企業の方針によっては、スタッフの採用、育成、維持が以前より困難になっている。このようなことが原因となり、チームを改善する機会どころか、採用や育成が負担だと感じる危険性がある。

このような課題がある中で、企業のインサイトチームに最適な人材を見つけ、育成し、維持するにはどうすればよいのだろうか。他の課題と同様に、人材の獲得と管理には、それにふさわしい思考と時間を与える必要がある。具体的には、次のようなことだ。

  • チーム全体に必要なスキルを明確にする; 現在のスキルレベルを監査し、ギャップを埋めるための長期的な計画を立てる。
  • 採用にあたっては、必要とされる重要なスキルと、最適な候補者を見極める効果的な方法を明確にする。
  • 新しいスタッフを採用するために熟慮されたアプローチを取る。
  • 個々のチームメンバーにとって何が重要なのか、また彼らの現在の能力と提供可能な機会の双方から、パフォーマンスがどのように影響されるのかを時間と労力をかけて理解する。
  • スタッフを育成し報酬を与える実行可能な方法を創造的に考える。

私たちは必ずしも人事プロセス全体を管理しているわけではないが、ベストプラクティスを理解することで、組織内での活動に影響を与えるための手段を持つことができる。問題の核心は、もしインサイトが競争上の優位性をもたらすものであるならば、私たちの組織は競合他社と同等以上に、優秀なインサイト人材を採用し、育成し、維持する能力を持たなければならないということだ。

次に、IMAのメンバーが最も効果的だと感じたベストプラクティスの例をいくつか紹介する。

インサイトチームの採用

インサイトリーダーたちは、採用プロセスに特にフラストレーションを感じ、時間がかかりすぎると感じることが多い。最悪の場合、不適切な候補者の応募が数百件にも及び、それらをふるいにかけなければならない。優秀な人材が他のオファーを受ける中で、長引くプロセスに耐え、さらには厳格な採点システムに縛られることになる。しかし、IMAの企業会員の中には、関係者全員にとってスムーズで効率的なプロセスの可能性を高めるアプローチを見つけ出した企業もある。

  • 職務に不可欠なスキル、経験、資格のうち、絶対に必要なものは何か、望ましいものは何かを 明確にする。
  • 最適な応募者を発掘するための戦術を用いる:企業の方針による制約があっても、成功の可能 性を高める方法はある。
  • 自社と候補者に適したプロセスを設計する:インサイトチームはさまざまなプロセスを採用しているが、ほとんどの組織は履歴書に目を通し、最初のスクリーニングをして、その後で個人の評価を行う。
  • 最適な候補者を特定するのに役立つ質問と採用試験を洗練させ、候補者にとっても採用プロセスが明確で透明性があるものにする。
  • 採用プロセスでさまざまな人が果たす役割を確立する:最終評価の段階で複数の人々が候補者に接することで、多様な視点をもてるとよい。
  • 最終選考の決定方法について合意する:最良の候補者を選ぶ方法論的アプローチとしては、最終決定に関与するすべての人が、各基準について各候補者を個別に採点することである。
インサイトチームの新人研修

新人が入社後の最初の数週間で良い体験をすることの重要性は、見過ごされがちだ。新人研修での経験は、新人の成否を左右する。英国、北米、欧州のインサイトのリーダーの多くは、入社式をきちんと行う時間を確保するのは難しいが、その投資に値する価値が長期的にはあると認識している。

  • 自分自身がされたいように、新人に接すること:一人の人間を仲間に迎えるということを忘れないこと。そのためあなたが新人の実際的かつ感情的なニーズを把握していることを明確にする必要がある。
  • 新人が1ヶ月目に知っておくべきことを定める:多くのインサイトチームは、新人が早い段階で知っておくべき情報をまとめたチェックリストやパッケージを用意している。
  • 新人が組織の業務内容を理解するための方法について合意する:例えば、ブリティッシュガスの新人はサービスエンジニアでの1日、コールセンターでの1日を経験し、ルコゼード・リベナ・サントリーの新人は工場を訪問して飲料の製造を体験する。
  • 新人が主要なステークホルダーと会うためのベストな方法を決める:ほとんどのインサイトリーダーは、主要なステークホルダーとの面会は初期導入プロセスの重要な部分だと考えている。
  • 正式な目標を設定する時期を決める:多くの組織では、3か月の試用期間はどのような職務でも標準的な採用プロセスの一部だが、その期間終了時のパフォーマンスを測定するための明確な目標設定が必要だ。
インサイトチームの能力開発

チームメンバーがそれぞれのスキル、知識、経験を伸ばす機会を持つことは重要だ。能力開発は、スタッフのパフォーマンスを向上させ、仕事のやりがいを維持するのに役立つ。

  • 能力開発を優先し、そのための規定時間を確保しよう。
  • チームメンバーの一人一人の経歴、家庭環境、何が彼らを動かしているのかをよく知るための時間を確保しよう。
  • 一人一人に刺激を与え、成長していることを確認しよう。インサイトのチームメンバーのほとんどは、自分が面白いと思う仕事をし、新しいことや新しいスキルを学びたいと思っているからだ。
  • フラットな構造や少人数のチームでは、昇給やその他の金銭的な報酬に課題があるため、報酬を与える創造的な方法を見つけよう。

チームの採用と育成は複雑な領域であり、おそらくあなたは自分の好みの戦術とアプローチがあるだろう。しかし、ここで紹介したアイデアをもっと詳細に検討したい場合は、他のインサイトリーダーと話したり、IMAのオンラインガイドを参照してほしい。


成功しているインサイトチームの30番目の秘訣は、採用、新人研修、チームの能力開発に先進的なアプローチを取っていることだ。

重要ポイント:
  1. 大企業の組織では、インサイトチームの採用と育成が予想以上に困難になることがある。
  2. それを重荷と捉えるのではなく、インサイト能力を向上させるための大きなチャンスと捉える必要がある。
  3. 特に採用は、新しい人材を迎え入れ、リソースの形を変えるチャンスを提供してくれる。
  4. ほとんどの部署は新人研修について十分に検討していないが、これは良好な職場関係を構築するために極めて重要である。
  5. チームを育成するためには、メンバーの具体的な状況、ニーズ、願望を考慮しなければならない。

 

次章紹介

本章で、第3部「インサイトの戦略と人材をリードする」というテーマを終了する。しかし、インサイトチームとその役割を本当に変革したいのであれば、組織のパフォーマンスへの影響を最適化する方法がいくつかある。それは、企業におけるインサイトの位置づけと、組織の主要な成果との関係の程度に関するものだ。この2つについては、第4部「インパクトの最適化」で説明する。


2023.12.19掲載


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