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第4部 インサイトのインパクトを最適化する
第37章 営利的基盤を構築する

JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


企業は、自社の業務パフォーマンス、顧客の行動、顧客と組織の相互作用による財務上の成果について専門的な理解を深め、活用しない限り、持続的な営利的成功を期待することはできない。インサイト部門が、その業務が営利的成功に不可欠であることを認識していなければ、大企業でそれが実現する可能性は極めて低い。しかし、この認識が具体的な変化をもたらすためには、インサイトのリーダーは、各部門が行う業務の営利的基盤を構築する必要がある。

営利的基盤とはどのようなものか?

IMAでは、英国、ヨーロッパ、北米のあらゆる産業分野のインサイト・チームとの取り組みから、営利的基盤を築くには、4つの要素からなる知識と理解の体系をまとめることが必要だと考えている:

  1. 中核となる統計的基盤の組み立て
    • 組織がどのように収益を上げているかに関する社内の実態とその数値
    • 組織がその市場で利益を上げている理由に関する社外の実態とその数値
    社内の中核となる統計を照合するために、インサイト・チームの多くは、財務やオペレーションなどの他部門に働きかける必要がある。包括的な顧客データベースを持つインサイト・チームは、顧客と取引、そのサービスの生産コスト、そこから得られる収益を結びつけることができれば、当然有利になる。FMCGのようなセクターのインサイト・チームは、セグメント・レベルでしかこれを行うことができない。しかし、すべてのインサイト・チームは、市場規模、市場シェア、各市場における平均バスケットサイズ、平均商品保有数など、優れた外部の中核的統計資料を照合できるはずだ。なぜなら、結局のところインサイト・チームは、自社のためにこれらのデータを調達する責任を負う可能性が高いからだ。
     
  2. 事業計画(ビジネス・ブループリント)の作成
  3. 事業計画の作成は、以下のようなものである。
    • 製品やサービスを顧客に提供するために必要な組織の各部門とそのプロセスの概要を説明する。
    • 外部市場を図式化し、顧客が組織とそのような取引する原動力になっている状況を示す。
    • このモデルにおける異なる指標間の関係性を特定 し、ある指標の変化が他の指標にどのような影響を及ぼすかを説明する(例えば、ブランド認知度の上昇が購入検討の増加につながる、あるいは銀行支店の減少が新規口座開設の減少につながるなど)。
    IMAは、インサイト・チームが、第3章で紹介した「MADE イン・インサイトモデル」を用いて、市場から資金までの流れを図式化し、事業計画を作成するよう推奨している。インサイト・マネジャー、アナリスト、リサーチャーらが、調査した特定の顧客の行動や態度が持っているより広い意味合いについて習慣的に検討するようになれば、事業計画の作成は、一過性の作業ではなく、日常的な活動になる。
    • *MADE イン・インサイトモデルとは、
       M 指標(Metrics): 組織が達成しようとするビジネス上の成果
       A アクティビティ(Activity):ビジネスの成果に直接影響を与える顧客行動
       D 意思決定(Decisions):顧客行動を実際に促進する消費者の選択
       E 環境(Environment):選択の背景となる市場の状況
       
  4. ダイナミクス、トレンド、機会、脅威に関するインサイト
    また、インサイト・チームは、調査・分析で明らかになった主な動向やトレンドについて、定量的・定性的インサイトを重ね合わせたいと考えるものだ。何が変化しているのか? 来年は何が起こると思うか? 顧客行動とその促進要因に関するチームの知識は、実際的な作業のたびに増えていくはずなので、明らかに一過性の作業ではない。しかし、営利的な基盤を構築するためには、最初の段階で特別な努力が必要であることは間違いない。
     
  5. 中核となる統計とそれの事業計画における役割、主な動向やトレンドについて説明する経営陣向け説明(エグゼクティブ・ブリーフ)
    説明資料やサマリー・プレゼンテーションを作成することは、私たちの営利的な基盤の中にある理解を結晶化する素晴らしい方法だ。また、具体的な成果物として、既存の経営陣や次期シニア・ディレクターに提示することもできる。これにより経営幹部が市場の消費者がどのようにして企業の顧客となり、営利的なリターンを生み出すかを理解するのに役立つだけでなく、他のインサイトプロジェクトに先駆けて基盤作りに優先順位をつけることにも役立つ。そうすることで忙しくなくなるまで土台作りを先延ばしにしようという避けられない誘惑に打ち勝つことができるのだ(もちろん、そんな空想の時間はやってこないだろうが!)。
営利的な考え方を身につける

インサイトの営利性を加速させるためには、インサイトのマネージャー、リサーチャー、アナリストに、より営利的な考え方を取り入れるよう促すことも重要だ。IMAのメンバーは、これを促進するために、以下のようなさまざまなアイデアを挙げている:

  • 市場に影響を与えるニュース記事を探し、チームで話し合う時間を設けよう。同僚がそれぞれのデスクで非公式にこうした問題について話し合うよう促すとさらによい。インサイトでは、組織が市場の消費者とどのように関わっているかが重要な焦点になるはずだ。
  • 企業がどのように組織化されているかに対する好奇心を刺激する。直近でリストラが発表されると、誰もが目を丸くするものだが、企業がサービスを創造し、顧客に提供するという仕事に取り組む方法もまた、営利的なジグソーパズルの重要な一部分である。インサイトが営利的な提案をする際には、コストを考慮し、異なるやり方の実現可能性についても反映させる必要がある。
  • 営利的な考え方は、企業内の主な意思決定の力学に対して現実的であることを必要とする。あなたの会社はリスクを嫌うのか、それとも冒険的なのか。キャッシュが豊富であれば、多額の投資を難なく行えるかもしれない。一方、組織の経営が非常にスリムであれば、投資は自己資金で賄わなければならないかもしれない。

 

成功するインサイト・チームの37番目の秘訣は、すべての仕事を支える営利的な基盤を築くことである。

重要ポイント:
  1. インサイト・チームの効果を最大化するためには、その活動を支える営利的な基盤が必要である。
  2. 営利的基盤には確固たる事実に基づいた中核的な統計が必要である。
  3. これらの中核となる統計は、トレンドに関する新たなインサイトを重ね合わせ強化する事業計画(ビジネス・ブループリント)の作成のために使用される。
  4. 新任ディレクターの入社にふさわしいエグゼクティブ・ブリーフを作成し、あなたが確固たる営利的基盤を築いたことを示す。
  5. 我々のインサイト・チームはまた、日々のあらゆる活動において営利的な考え方を身につけ、それを示すよう推奨されるべきである。

 

エディタV2

第4章では、不完全なデータを扱うときに使える様々な技法について見てきた。これらのテクニックの中には、ビジネス上の問題に内在する営利的な価値を計算したい場合に特に役立つものがある。次の章ではこのトピックを取り上げる。


2024.03.26掲載


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