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ほんぶん

第4部 インサイトのインパクトを最適化する
第40章 インサイトに投資する

 JMRAインターネット調査品質委員
リサーチ・コンサルタント
岸田 典子


インサイトに価値をおくことは、市場調査やインサイト業界では長年一種の聖杯のように大切なことだと考えられてきた。しかしインサイトは単にバリューチェーンの一部で全体の中の一部分にすぎないので、実際にはそのように大切に扱えないというのが一般的な見方だった。

しかし、本当にそうだろうか? 新商品開発のように単純化されたビジネス・プロセスでこの議論が成り立つかを考えてみよう:

  • 初期アイデア
  • 研究開発
  • 製品の製造
  • 製品のマーケティング
  • 販売し収益を得る

新製品開発では、プロセス全体と生み出される利益に価値が置かれる。一つの要素だけに価値を置くことは実際には不可能だと多くの人は主張するだろう。なぜならそのバリューチェーンの中にいる誰もが、もし自分がその役割を果たさなかったら、そのビジネスはうまくいかなかったと主張しうるからだ。
お金を稼ぐためには、初期アイデア、製造、販売が必要だ。

 この議論は、必要不可欠な要素については理にかなっているが、自由裁量による要素には当てはまらない。スティーブ・ウィルスは自動車製造を例にあげる。自動車を製造するために組み立てられる部品の多くは、自動車を運転するために必要不可欠なもので、車輪、シート、ハンドルがなければ自動車は成り立たない。しかしクルマに費やされるお金の多くは、シートやステアリング・ホイールに使われる素材、カップホルダー、エンターテインメント・システム、サンルーフのような基本的な機能には不可欠とはいえない部品が占めている。つまり、自動車業界は私たちに、どれをつけるか、つけないかを選択させ、それによって追加料金を請求することができるのだ。

 つまり、あるプロセスにおいて不可欠な要素を付加価値にはできないが、自由裁量的な要素には価値をつけることはできるのだ。

 インサイトは必須なのか、それとも自由裁量なのか

 インサイト・チームをより効果的にすることを目的とするこの本が、私たちがしていることは実は自由裁量であると主張するのは、とても奇妙に思えるかもしれない。しかし立ち止まって考えてみれば、インサイトを使わないやり方で日々意思決定を行っている企業はごまんとある。顧客や市場のインサイトがまったく関与していないか、導入が遅すぎて大きな違いを生み出せないか、調査や分析のクオリティが最適でないかだ。あなたが勤めている会社には、おそらくインサイト・チームがあるだろうが、新製品、マーケティング、店舗閉鎖、価格設定、顧客提案、企業戦略などについて、現在行っているすべての意思決定を考えてみてほしい。

 現実には、私たちの組織はインサイト主導ではなく、インサイト不在の意思決定を毎年何百回も行っている。それはあまり良い決断ではないかもしれないが、いずれにせよ行われている! これこそが、なぜインサイト・チームをより効果的にする必要があるのか、そしてなぜインサイト・チームから学ぶべきなのかの真髄なのだ。しかし、これはまたインサイトの利用が自由裁量であり、バリューチェーンの中の裁量的な他の部分と同様に、インサイトを含めることによる価値の上増しを見積もることができることを示している。

 インサイトの評価換算プロセス

 インサイト・チームが前章で説明した「バリュー・ログ」*をすでに完成させているのであれば、インサイトの価値を計算するために必要な構成要素はほとんど揃っているはずだ:
(訳注:インサイト・チームが社内の他部署に提供した価値を記録したもの)

  • 課題全体の規模
  • 特定のビジネス上の決断に関連する金額の大きさ
  • インサイト・チームが特定した価値を生みだす機会
  • 組織が実際に得た利益

 必要なのは、得られた利益のうちインサイト・チームからのインプットが占める割合を計算すること、そしてインサイトが関与するためにかかった実際のコスト(サードパーティの調査費、データ購入費、スタッフの時間、さらに本当に包括的に考えるのであれば、データベースやインフラのコストまで)を比較することである。

 インサイトによる成功の割合は?

 多くのインサイト・チームにとって困難な点は、自分たちのインプットを評価換算できないと思いこんでいることだ。しかし、よいニュースが2つある。

 ひとつには、第4章で精緻(precision)であることよりも正確さ(accuracy)を重視すべきであると述べたように、これは自らの貢献に対する価値も含め、営業的な評価換算にも当てはまる。あなたが影響を与えた戦略の例を見れば、成功した営業的成果は、あなたが関与したコストよりも組織にとってはるかに価値がある可能性が高く、インサイトの貢献の正確な割合は重要ではないことがすぐわかるだろう。
 例えば、カールスバーグやクラフト・ハインツのようなIMAの会員企業が、売上を2,500万ポンド増やす新製品を発表し(同規模の企業にとっては大海の一滴だが)、インサイト・チームが125,000ポンドを調査と分析に費やしたとしよう。インサイトの貢献の価値を2,500万ポンドの5%(125万ポンド)だと見積もれば、インサイトに費やした125,000ポンドの10倍のリターンであったことになる。インサイトの貢献の価値を2,500万ポンドの10%と評価すれば、20倍のリターン(250万ポンド÷125,000万ポンド)となる。このROIの数値は非常に高く、2つの見積もりのうち低い方を常に取ったとしても、インサイトを含めるメリットは明白である。重要なのは、貢献が5%か10%かなのではなく、非常に大規模で成功する営業的成果に取り組むことだ。

 二つ目は、インサイト・チームが自分たちの貢献の価値を推計する必要はなく、他部門が代わりに推計できることだ。イーベイは、インサイトの貢献に対する認識を他部門の同僚に推計するよう、日常的に依頼したIMAメンバーの最初の1社である。インサイト・チームが驚いたのは、マーケティングとセールスの同僚が一貫して、インサイトによる貢献をインサイト・チームよりも高く評価していたことだ。他部門が、価値の上昇の25%や30%はインサイトのおかげだと言うことは珍しくなかったが、インサイト・チーム自身は20%以上を主張することには慎重だった。バークレイズのインサイト・チームでも同じ状況で、英国のインサイト責任者は、たとえビジネスからのフィードバックがそれ以上であったとしても、利益の成果の20%以上は主張しない方針だ。

 ここで重要なことは、インサイトへの投資に対する組織のリターンは、非常に高い可能性があるが、それはチームが最大のビジネス課題に力を注いだ場合に限られる。インサイト・チーム自身が数字を記録し、上昇率を計算して初めて、そのリターンは誰の目にも明らかになる。もちろん他部門の同僚からの意見も必要だが、たとえプロジェクトの一部への評価であっても、インサイトへの投資の何倍もの見返りがあったとみなされるだろう。それは、あなたがインサイトのためのリソースを守ったり活動の拡大を主張したりする際のために知っておくと役に立つだろう。


成功するインサイト・チームの40番目の秘訣は、インサイトへの投資に対する組織のリターンを計算することである。

重要ポイント:
  1. インサイトの投資収益率を計算することは、長年、聖杯のように大切なものと見なされつつも、不可能とされてきた。
  2. IMAは、インサイトのROIを見積もることは可能だと考えている。なぜなら、現実にはインサイトの利用は常に自由裁量的なものだからである。
  3. インサイト・チームは、インサイトによる営業的成果の規模、発見した機会の価値、そして実際に実現した価値を知っているべきだ。
  4. 次に、インサイトに割り当てられる価値の割合を見積もり、費やした時間と予算とを比較する。
  5. 組織はインサイトに数千ドルを費やすことで数百万ドルの収益を上げることができるので、ROIを見積もることはインサイトの推進に役立つ。

 

次章紹介

第4部「インパクトの最適化」はこの章で終了となるが、続いて第5部「今後に向けて」というテーマで、さらに2つの秘訣を述べたい。

2024.05.21掲載


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