五十嵐会長 開会メッセージ ダイジェスト
上杉公志
JMRA事務局
「規模は伸びているのに不安」──マーケティング・リサーチ業界が抱える2025年の危機感
五十嵐会長は、「アメリカ・カリフォルニア州のGDPが日本を上回った」というニュースに触れ、「かつて世界経済をけん引していた日本が、いまや一つの州に抜かれる時代になった」と指摘。日本経済の停滞を踏まえ、「私たちは今、大きな分岐点に立っています」と語ります。
また、1975年に発足した日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)も、時代の変化の中で、加盟社数が一時は170社近くまで増えたものの、現在は100社余りに減少していると説明。一方で、かつては加盟100社の売上合計が約90億円だったのに対し、現在は2,000億円を超える規模に成長していることを紹介しました。
「諸先輩方の努力により、業界全体としては確実に拡大をつづけています。しかし同時に、私たちは変化への危機感を持つ必要があるのではないでしょうか」と述べ、現状の課題意識を共有しました。
「変化の時こそ歴史に立ちかえる」ーJMRA設立の背景と目的とは
「このような変化の時こそ、歴史を振り返ることが重要」として、五十嵐会長は、JMRA設立の背景と事業目的について参加者に説明しました。
JMRAは「生活者の声を集める」ことを使命としており、その核には個人情報の適切な取り扱いという社会的責任があります。たとえば、住民基本台帳を利用した調査などの機微な情報を扱うため、設立当時は会社単位ではなく、業界全体で社会的信用を築く必要がありました。「こうした背景のもと、マーケティング・リサーチに携わる人々が集まり、社会的信用を確立するために業界団体が設立された」と、JMRA創設の目的に立ち返ります。
つづけて、JMRAの事業目的である「マーケティング・リサーチ倫理の確立と綱領の普及、啓発および人材育成を通じ、健全な発展を図り、我が国経済の発展と国民生活の向上に寄与すること」に言及した上で、JMRAが海外のリサーチ団体、特にESOMARの綱領を参考にしながら、創設の50年間以来、この事業目的を守るために活動しつづけたことを強調しました。
リサーチからインサイト産業へ──これから求められる変化とは?
海外では、マーケティング業界がインサイト産業へと変化しており、近年では生成AIの普及により世界全体も変化している、といった動向を踏まえ、五十嵐会長は、「マーケティング・リサーチ業界も大きな変化の時期にある」と指摘します。
そのような変化の中で、「マーケティング・リサーチの本質は変わらず、『情報価値の最大化』にある」と強調しました。一方で、従来の枠や方法にとらわれる必要はなく、過去50年間で積み上げてきた信用を守りつつ、変化に対応して発展していくことが求められていると述べます。
こうした変化への実践として、JMRAが50周年に向けて、1年前に特別委員会を設立したことを紹介します。この特別委員会では、新たな産業VISONの策定、業界構造の調査、JMRAマーケティング・リサーチ綱領の見直しなど、多岐にわたる議論が行われてきたと説明しました。
これからを担う30・40代でつくられた「新・産業VISION」
五十嵐会長は、特別委員会の一つが担ってきた「新たな産業VISION策定」において、とある方法論を採用したことを明かします。それは、「(会長自身を含む)各社のトップはあえて参加せず、これからの50年を担う30代・40代の精鋭が中心となって、VISION策定の対話を重ねること」です。
会長は、「新しい業界をつくっていくためには、若い世代に焦点を当てることが不可欠」と述べ、今回の新たな産業VISIONが、未来を担う若手が主体となってつくりあげたものであると強調しました。
多様なアクターとの協働で、新たな「DepARTure」へ
最後に、今回のカンファレンスのテーマ「Next DepARTure」の中心に「ART(アート)」を据えた意図を紹介します。それは、ARTが意味する「創造性」や「独自性」といった異質な要素を、業界として積極的に取り込んでいこう、というものです。今回のカンファレンスもこうした姿勢で、会場に集う多様なアクターとともに業界を問い直し、新たな「DepARTure」を目指す場でありたいと述べました。
五十嵐会長は、今回のカンファレンスには最新トレンドや業界リーダーによるセッション、領域を横断したネットワーキングなど、多様な参加の場があることを紹介した上で、「参加者のみなさまも積極的に場に関わり、今日のカンファレンスを共につくりあげていただきたい」と締めくくりました。

会場の様子
2025.10.21掲載